以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Porn on Tumblr is a complicated subject」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

2018年、Tumblrは“アダルトコンテンツ”の禁止を発表した。それを求めたのはTumblrの当時のオーナー、Verizonだ。その結果生じた混乱を「シットショー(shitshows)」と呼ぶのは、世界中の善良で勤勉なシットショーに失礼というものである。

Verizonはこのポリシーを、画像分析して「性的」か「性的でない」かを分類する自動フィルターによって実施させた。これは、コンピュータに「純潔」か「罰当たり」かを分類させるようなもので、この時点で非常に馬鹿げているのだが、それですら序の口だ。

Verizonの禁止事項には、「女性の乳首」という定型的には定義し難いカテゴリも含まれていたが、性的でない乳首の画像(訳注:医療にかかわる文脈や政治的議論の中で提示されたもの、芸術作品など)は除外されていた。だが、いかに勤勉で公平無私なコンピュータ科学者であろうと、アルゴリズムで「女性の乳首」と「男性の乳首」を区別できるとは思えないし、ましてやどれが「性的」かなど判断できるとも思えない。

結果、そのフィルターは……大惨事を引き起こした。Verizon自身がポリシー上問題はない画像として例示した画像ですら、Tumblrのポリシーによってブロックされてしまったのだ。

https://gizmodo.com/tumblrs-porn-filter-flags-its-own-examples-of-permitted-1831151178

TumblrのAIは、プラトンの洞窟の壁に影を落とす乳首をまばたき一つせずに監視し続けながら、その本質を見抜くことはできなかった。だが、それだけではない。TumblrのAIは、あらゆるものを乳首、あるいは“アダルト”だとみなしたのである。

私は指紋押印する画像をTumblrに投稿した。するとTumblrのフィルターはその投稿をブロックした。なのでTumblrのフィルターのマヌケさを指摘するフォローアップを投稿した。するとTumblrのフィルターはその投稿をブロックした。なのでまた投稿した。するとフィルターはブロックした。

https://boingboing.net/2018/12/11/recursive-neural-nets.html

VerizonはTumblrの運営には向いていなかった。Verizonのコアコンピタンスはロビー活動と組合つぶしなので驚くことでもないのだが、結局、同社はこのオンラインメディアの資産価値を激減させて46億ドルの損失を出すことになった。

https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-12-11/verizon-writes-down-4-6-billion-of-value-of-aol-yahoo-business

Tumblrユーザたち(Tumblrites )はこの評価損をどう評価してよいかわからなかった。もちろん、不安はあった。長らくYahooとVerizonによるクソみたいな運営が続いてはいたものの、Tumblrはメンバーたちにとって重要なコミュニティであったのだ。

評価損が生じたことで、他の誰か、つまりVerizon以外の企業が同社を買収する可能性が浮上した。そして、それは現実のものとなった。Wordpressの開発元であるAutomatticがTumblrの買収を発表したのだ。するとTumblrのフィルターはこの発表をブロックした。

https://brucesterling.tumblr.com/post/187053987273/yeah-that-news-is-looking-mighty-adult-there

AutomatticのTumblr買収で、アダルトコンテンツ禁止ポリシーが撤回されるのではないかという期待が高まった。Tumblrのアダルトコミュニティは、セックス・ポジティブで、クィア・ポジティブで、セックスワーカーを尊重する、他のオンラインサイトとは全く異なるプラットフォームを構築・拡張する上で、重要な役割を担っていた。

こうしたアダルト・コミュニティの貢献・参加がもたらしたインパクトは、どれほど強調してもしすぎることはない。アナ・ヴァレンズは、著書『Tumblr Porn』のなかで、Tumblrのセックス・ポジティブ・スペース(「ユーザによる性的革命の先駆け」)がどれほど自分の人生に深い影響を与えたかを回想している。

https://www.instarbooks.com/books/tumblr-porn.html

Verizonのセックス禁止令は、こうしたコミュニティをお取り潰しにしただけではない。その文化を保存しようと奔走するアーキビストを阻害し、記憶の彼方に追いやってしまったのである。

https://www.vice.com/en/article/d3bekm/archivists-say-tumblr-ip-banned-them-for-trying-to-preserve-adult-content

Tumblrを成功に導いたセックスの重要性、Verizonの禁止令の愚かしさにも関わらず、Automatticはアダルトコンテンツを復活させることはなく、その立場をすぐに変えるつもりはないと明言した。

5年が経った現在、Tumblrは、閲覧者がアダルトコンテンツの可否を選択できる新たなダッシュボードと、投稿者が投稿にフラグを付けられるラベルシステムによって、ようやくNSFW(Not safe for work:職場での閲覧は不推奨)素材にプラットフォームを開放する暫定的な動きを見せはじめた。

https://photomatt.tumblr.com/post/696578252906659840/staff-introducing-community-labels-as-you

だが、かつてのTumblrの全面的で幅広いNSFWポリシーとは程遠い。それには理由がある。Automatticのマット・マレンウェッグCEOは、Tumblrのかつての「go nuts, show nuts(何でも好きなだけ投稿して、何でも好きなだけ閲覧して)」ポリシーが、現在ではうまくいかない理由を説明している。

https://photomatt.tumblr.com/post/696629352701493248/why-go-nuts-show-nuts-doesnt-work-in-2022

端的に言えば、チョークポイントと責任の所在の問題である。Verizon時代のTumblrのポルノ禁止は、AppleがApp Storeの「こどもに優しい」ポリシーにもとづき、iOS向けのTumblrアプリをブロックするぞと脅したことが引き金になったという経緯は公然の秘密になっている。スティーブ・ジョブズの「ポルノが見たければAndroid携帯を買えばいい」という発言をご記憶の方も多いだろう。

https://techcrunch.com/2010/04/19/steve-jobs-android-porn/

App StoreのAndroid版であるGoogle Playも、アダルトコンテンツのブロックに関しては、Appleよりわずかに寛容な程度だ。モバイルを支配する二大勢力がいずれもアダルトコンテンツに反対しているため、NSFWフレンドリーなTumblrは必然的にウェブ専用にならざるを得なくなる。それが実現不可能な理由について、マレンウェッグはこう説明する。「サインアップの40%、ページビューの85%はモバイルアプリからです」。

さて、アダルトコンテンツが多めのプラットフォームでありながら、両アプリから歓迎されているアプリもある。TwitterとRedditだ。マレンウェッグは、「TwitterとRedditはAppleがブロックするには巨大すぎるので、月間ビジターが1億200万人“しか”いないTumblrを見せしめにすることにしたのでしょう」と述べている。

さらに彼は、「Twitterも時々Appleからブロックされているのかもしれませんが、上場企業ですし、投資家を不安にさせたくないでしょうから、それを公表することもないのでしょう」と付け加えた。

AppleのApp Storeの検閲官とチキンレースをしたところで、勝てる見込みはまったくない。マレンウェッグが説明するように、App storeのルールの解釈はアプリ審査の担当者によって日々変化する。アプリのアップデートを申請しても、Appleは違反かどうかの見解を恣意的に変更して、アプリをブロックしてしまうかもしれない。そうなれば一大事だ。マレンウェッグ曰く「もしAppleがTumblrをApp Storeから永久追放したら、私たちはサービスを停止せざるを得なくなるでしょう」

だが、Tumblrの未来を握っているのは、モバイルの二大勢力だけではない。マレンウェッグは、AppleとGoogle以上に、実は決済会社のほうが影響が大きいと考えている。クレジットカード会社はポルノを毛嫌いしている。Tumblrにアダルトコンテンツを復活させれば、Wordpressのホスティング事業からTumblrのサブスクリプション契約に至るまで、Automattic社の全サービスの決済が脅かされることになる。決済手段を奪われてしまえば同社は経営を続けられず、2000人以上の従業員が路頭に迷うことになる。

もちろん、マレンウェッグは暗号通貨愛好者たちの「暗号通貨決済を受け入れれば解決する」という反論も織り込み済みだ。そのうえで、彼は一蹴する。たとえ暗号通貨がいつかこの問題を解決してくれるとしても、「今日、銀行、クレジットカード決済、金融サービスからブロックされれば、現代経済から排除されたも同然」だという。

だが、モバイルの寡占を回避し、決済事業者に頼らずにサービスを運営する方法を見い出したとしても、依然としてアダルトコンテンツに適したサイトを立ち上げるのは非常に難しい。SESTA/FOSTAを始めとする新たな法規制は、アダルトコンテンツのホストに民事・刑事上の責任を負わせている。さらに、非同意ポルノ(いわゆる「リベンジポルノ」)規制もある。

マレンウェッグは、違法なアダルトコンテンツはホストしたくないという。単に刑務所送りにされたくないからではなく、同意なしに撮影された性的資料、子どもを被写体とした性的資料、他にも好ましいとは思えない性的資料の忌むべきやり取りを彼自身が嫌悪しているためだ。

だが、ネットワークに接続されたポケットカメラがいたるところに存在する今日の環境は、そうした忌むべき素材を生み出す肥沃な土壌となっている。誰もが性的画像を作成できる世界で、その被写体全員の年齢や同意の有無を確認することは極めて難しい。

だが、たとえTumblrがそうした判断ができるモデレータを雇えたとしても、まだ安心はできない。Tumblrの全盛期以降に進んだ(訳注:インターネット・インフラ)市場の集中により、「アダルトコンテンツ事業」の運営が格段に難しくなったからだ。

今日、アダルトコンテンツをホストするためには、特別なネットワーク接続、特別なホスティング、DDoS保護などが必要になる。他のコンテンツを扱うサイトであれば利用できるサービスの「スタック」の各レイヤが、いずれも同質的なセックス禁止ポリシーを持つ企業に寡占化されているのだ(訳注:インフラ企業による構造的検閲に関する邦訳記事)。

自社のビジネスのために銀行やクレジットカード会社を見つけるのも難しいが、こうした専門的なサービスへの支払いも困難を伴う。また多くの投資ファンドは、出資者との取り決めにより「不品行な(vice)」ビジネスへの投資を禁止されていたり、そのような縛りがないファンドもやはり投資したがらない。

マレンウェッグはこう総括する。

2022年にアダルトソーシャルネットワークを始めるなら、iOSではウェブのみ、Androidではサイドロード必須、クリプト決済、ブロックされずに暗号通貨を法定通貨に換金して事業運営資金に充てる手法、刑務所送りにならないための年齢確認・身元確認、コンプライアンスに多大な努力を払い、ユーザの身元を特定する情報をすべて保護し、莫大な資金を集めなければなりません。

絶望的な結論だが、さらに驚かされるのは、これを実現するために必要なコストの概算だ。

ホスティング、モデレーション、コンプライアンス、開発コストに加え、サーバストレージと帯域を確保するためには、1日のアクティブユーザが100万人だとして、少なくとも年間700万ドルが必要になるでしょう。

マレンウェッグは、他の誰かが「かつてのTumblrの代替となる」サービスを生み出すことを期待しつつも、もはやTumblr自身がそのような存在になることは叶わないのだということを暗に示唆しつつ、この文章を締めくくっている。

Pluralistic: 29 Sep 2022 Porn on Tumblr is a complicated subject – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: September 29, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Jamison Riley