以下の文章は、電子フロンティア財団の「Without Verification, What Is the Point of Elon Musk’s Twitter?」という記事を翻訳したものである。元記事の文中にある「verifications」は、意味合いとしては「確認」「検証」を指すが、日本語圏ではブルーチェックは「認証バッジ」「認証済みマーク」と呼ばれることが多いため、本稿では「認証」と訳出した。

Electronic Frontier Foundation

イーロン・マスクのTwitterは、そもそもTwitterの何が有用であったのかを根本的に見誤っている。石から血を絞り出すがごとく、Twitterは4月1日より、かつて本人認証のために作られた「ブルーチェック」をすべて剥奪すると発表した。今後、ブルーチェックは売り物になる。4月1日は、何につけてもまじめに物事を考えにくい日ではあるが、Twitterのこうした取り組みは初めてではないことから、認証(verifications)の販売がもたらす問題を掘り下げてみることにしよう。

Twitterはかつて、多くの競合ソーシャルメディアに比して優秀なコンテンツモデレーションを実施していた。Twitterは好ましくないコンテンツを削除するのではなく、ラベルを付けることを好んでいたし、透明性を重視し、ユーザの側に立って戦う立派な姿勢も持ち合わせていた(もちろん、完璧だったとはいわない。そもそも大規模コンテンツモデレーションが上手くいった試しはほとんどなく、他の企業よりも失敗が少なかっただけだが)。

Twitterの優れた特徴、つまり世界中の多数のユーザが信頼した機能や慣行は、今やすっかり失われてしまった。

かつてのTwitter

Twitterがブルーチェックマークを最初に導入したのは2009年、著名人がプラットフォーム上でなりすましの被害を受けているとのクレームをうけたことがきっかけだった。当初、ブルーチェックによる認証は著名な公人(俳優、スポーツ選手、政治家など)だけが対象だったが、その後、企業、ジャーナリスト、活動家、そしてソーシャルメディアのインフルエンサーにも拡大した。2016年、同社はこの認証を申請制にして、自らの著名性を証明できる個人が認証を受けられるようにした。だがこの手続は、白人至上主義者が認証されるなどの混乱を経て一時停止し、2020年後半に個人の証明を厳格化することで再開にこぎつけた。

Twitterの認証手続きはしばしば批判を浴びてはいたものの、ブルーチェックは当該人物や企業が本人であることを確認する重要な役割を担っていた。それはTwitterがジャーナリストたちに愛された理由の1つでもあった。また、多くのジャーナリストは、誰かにコンタクトする際に、メールアドレスや広報担当者を探す手間も省けた(DMを送るほうがはるかに簡単)し、ブルーチェックのついた記者のアカウントは本人であることが確認されているので、取材対象からの返信ももらいやすかった。

また、実名と投稿が結びつくことで不都合や危険にさらされる人たちにとって、TwitterはFacebookの実名制ポリシーとは異なる価値を持っていた。ブルーチェックによる「実名」と投稿との結びつきは“選択”であり、認証されていないアカウントを信頼するか否かもユーザの判断に委ねられていた。

Twitterはフォローしたアカウントの時系列フィードをデフォルトにできる数少ないプラットフォームだった。また、トレンドトピックにコンテクストを追加した。これは「トレンドトピック」に誰かの氏名が表示されると、実際にはその人物の誕生日だったりするのに、亡くなったと勘違いされることもあって、そうしたパニックを緩和するためのものだった。これにより、あまりに広すぎるトレンドトピック(たとえば、以前は「カリフォルニア市民(Californians)」が「カリフォルニアのトレンド」にしょっちゅう掲載されていた)にある程度のコンテクストを持たせることもできた。そのトレンドがあなたに価値があるかどうかを伝える、それだけのものだった。だが、それももうなくなってしまった。

Twitterはかつて、どのツールでツイートされたかを表示してもいた。この表示により、そのツイートが予約投稿なのか、秘書や補佐官が投稿したものなのか、そのアカウントのオーナー本人が投降したものなのかを、賢明なユーザはそれなりに推測でき、ツイートを報道する際にも非常に役立った。

Twitterは時折、話題になっている事柄をファクトチェックし、ツイートにコンテクストや情報を追加していた。繰り返しになるが、通常こうしたカウンタースピーチはコンテンツの削除よりもマシである。

Twitterの数少ないコンテンツモデレーションのイノベーションは、シェアする前に記事を読んだかを尋ねるダイアログボックスを表示する機能だった。誤情報や偽情報の拡散を抑制するために導入されたものだ。我々はすでにポップアップに注意を払わなくなって久しいが、それでも無意識に共有されるリンクにちょっとした摩擦を加えるには良い措置だと思える。

こうした機能は、Twitterのサービスとしての価値を高めるものだが、少なくとも現在のオンラインソーシャルメディア市場の仕組みでは、いずれもマネタイズできる類のものではない。このような機能を「売り物」にしてしまえば、その機能そのものが無意味化したり、もともとの問題を悪化することになる。

なぜTwitterに社会的価値があったのか(そして今はないのか)

Twitterは、重要性 vs 規模・収益性リーグでは常に上位に位置している。コストのかかる音声やビデオではなく、フィルターを通さないテキストの共有に重点を置いているため、重要人物でも簡単に声明を発表できる。2011年1月にエジプトのデモ隊が現地の出来事を伝えるために利用するなど、その有用性はこのプラットフォームの初期の時点から実証されていた。

また、Twitterは公開を前提に作られている。非公開のTwitterアカウントもあるが、プライバシー設定が制限されたFacebookアカウントなどに比べればそれほど一般的ではない。Twitterはジャーナリストに人気があり、他の大規模プラットフォームと比較してツイートが引用される頻度は非常に高い。

だが、Twitterは決してトラフィックをもたらす存在ではない。Twitterのユーザは、FacebookやGoogleと同じようにリンクや広告をクリックすることはほとんどない。したがって、ユーザ数と企業が持つデータこそがビジネスの原動力となる。一方、FacebookやGoogleの広告を見てクリックする人の数が売り物となる。それはTwitterの効用ではないし、それはあり得ない。Twitterはその規模に達していないのだから。

全世界のTwitterユーザ数は、2022年12月現在、月間アクティブユーザ数で3億6800万人だ。この数字は2024年には約3億3500万人にまで減少すると予測されている。それでも十分に多いと思われるかもしれないが、Facebookは30億人近いユーザを抱えている。YouTubeは22億人、Tiktokが10億人だ。いまやPinterestも4億5000万人とTwitterを凌駕している。広告収入で運営されているソーシャルメディアにとって、そのユーザ数こそが広告料を決定する唯一最大の要素だ。だが、Twitterはユーザ数において競合の後塵を拝している。

Twitterの効用は、何人が利用しているかではなく、誰が利用しているかだ。ハリウッドセレブから国家元首、ジャーナリスト、活動家など、Twitterはプラットフォームとしてよりも、情報源として価値があった。

Twitterそのものが歴史的な出来事の舞台ともなってきた。Twitter上では外交的衝突が何度も起こっている。中国とオーストラリアカナダとサウジアラビア米国と英国はまさにTwitter上で衝突した。

トレンドトピックのコンテクスト、認証バッジの有無、ツイートの投稿方法の表示なども、調査や報道には重要だった。だが、そのいずれも無くなってしまった。

広告主にアーカイブを売るのは難しい。アクティブなユーザと、彼らを引き付けている時間が広告主への売り物になるが、Twitterはその問題を解決することはできなかった。新生Twitterであろうと、解決できる問題ではない。

そして、もう1つ問題があった。

Twitterのブルーチェック問題

世の常ではあるが、「ブルーチェック」は嘲笑と嫉妬の対象となっていた。というのも、ブルーチェックの付与は、Twitter社が独自の判断で行っていたため、エリート主義の象徴とみられたのだ。

Twitterは通常、組織に問い合わせてその従業員を検証する情報を提出させる。そうして多くのジャーナリストが認証された。また米国外では、信頼できるパートナーにユーザの検証を依頼するケースも少なくなかった。

不透明なプロセスは、不信感、軽蔑、そして陰謀論を生み出す。ブルーチェックマークはユーザが認証されていることを示すため(訳注:ブルーチェックマークを取得できている時点で、取得できないユーザよりもプレゼンスをもっているので)、より一貫して、より検索上位に表示され、人気ツイートへのレスでも上位に表示される。認証済みユーザ同士とのやり取りが、そうではないユーザとのやり取りよりも頻繁に行われがちなのは、前述のように同業者であったり、一緒に仕事をしていたりして、お互いに旧知の仲であることが多いためなのだが、チェックマークを与えられていないユーザの中には「Twitterでの会話」から排除されているとやっかむ者もいる。とはいえ、実際に排除されていることもある。たとえば、米国のニュースルームのジャーナリストの認証は比較的簡単だが、他国のジャーナリストが同じように認証を得ることはできなかった。

買収後のTwitter

買収以前にTwitterが提供していたツールは、ユーザに付加価値をもたらすものであったが、Twitterに情報を操作されていたと考えるユーザからはしばしば怒りを買った。だが、彼らが喉から手が出るほど欲しかったもの、つまりブルーチェックが購入できるようになったのだから、彼らにとっては満足なのかもしれない。「ブルーチェック・エリート」に仲間入りしたいという大騒ぎを受けて、新生Twitterはブルーチェックを販売するという悲惨な実験に乗り出した。そして、この実験は(訳注:旧ブルーチェックの剥奪によって)再び繰り返されようとしている。ブルーチェックの認証としての有用性は完全に失われることになるだろう。

また、ブルーチェックの購入者は、ブルーチェックを隠せるようになるとの報道もある。もはやブルーチェックは、そのアカウントが本人であることを示すものではなく、その人物がTwitterのプレミアムサービスに加入するほど“気にしい(小心者)”だというサインに過ぎなくなった。その結果、多くの人たちが恥ずかしいお金の使い道だと感じるようになり、ブルーチェックマークは再び嘲笑のシンボルとなった。つまり……何の役にも立たない。

さらに、Twitterを愛用してきた大手報道機関は、自社ブランドや記者のためのブルーチェックマークにお金を支払わないことを明言している。一方、彼らをプラットフォームに引き留めるため、Twitterは突出したフォロワーを抱える企業アカウントの支払いを免除するとも報じられている。だがそうしたところで、かつてのスーパーユーザの間で急速に失墜しているブランドを救えるとも思い難い。

唯一の取得条件が「クレジットカードが使えること」となったブルーチェックの主な用途は、このドラマを見逃した人々を騙して、有料チェックマークをあたかも認証チェックマークであると信じ込ませることくらいしかない。Twitterが最初にブルーチェックを販売し始めた時点ですでにそうなったのだから、いまさら推測する必要もない。

ソーシャルメディアプラットフォームの経済的インセンティブは、認証の背後にある社会的重要性を評価しない。そして、認証はかつてTwitterを便利にしていたものだった。

もしジャーナリストが、だれが何を言ったのかを容易に把握できなくなれば、Twitterを情報源として利用することはなくなるだろう。Twitterの有用性が薄れれば、その存在感も薄れることになる。

Twitterが(他の競合プラットフォームのように「使わなければならない」と感じさせるものではなかったのに)「地獄絵図」と揶揄されるほどには多くの人に純粋に愛されていたことを考えれば、きわめて残念なことではある。Twitterはこれまで価値ある存在になるための努力を惜しまなかった。だがその小さな前進の積み重ねも今では失われ、アルゴリズムが支配し、独占的で、データ収集の悪夢だけが我々に残されたのである。

Without Verification, What Is the Point of Elon Musk’s Twitter? | Electronic Frontier Foundation

Author: Katharine Trendacosta / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: March 31, 2023
Translation: heatwave_p2p