以下の文章は、電子フロンティア財団の「Around the World, Threats to LGBTQ+ Speech Deepen」という記事を翻訳したものである。
世界的に反LGBTQ+感情が高まっており、オンラインでもオフラインでも、当事者やコミュニティに影響を及ぼしている。デジタルライツ・コミュニティは、LGBTQ+のウェブサイトへの検閲の増加や、表現の自由やプライバシーを制限する明確な反LGBTQ+法案を制定せんとする複数の国々の動きを警戒してきた。こうした法案は、オフラインでのLGBTQI+への不寛容を煽るとともに、LGBTQI+の人々がプロファイリング、ハラスメント、Doxxing、刑事訴追を避けるために、オンラインでの表現を自己検閲せざるを得ない状況に追い込んでもいる。
LGBTQ+の研究者、擁護者たちは、LGBTQ+当事者やコミュニティを標的とした暴力の脅威やヘイトスピーチの増加を指摘し、トランスジェンダーの権利の抑圧、ドラァグイベントをキャンセルさせようとする動きも加速している。LGBTQ+の権利を攻撃する法案の急増と時を同じくして、組織化された(しばしば極右勢力に扇動される)オンラインキャンペーンも急増している。米国では、デジタルヘイト対策センター(CCDH)とヒューマン・ライツ・キャンペーンの報告書によると、2022年3月に「ゲイと言うな」法案が可決された翌月に、LGBTQ+コミュニティと「グルーミング」を結びつけるツイートが406%増加していた。さらに今年初め、ILGAヨーロッパは、アルメニア、オーストリア、ラトビア、モンテネグロ、ルーマニアでオンライン・ヘイトスピーチが深刻な問題となっていることを報告している。
「グルーマー」、「ペドフィリア」、「プレデター(捕食者)」といった中傷言説は、過激派内部からメインストリームへ、またオンラインからオフラインへと浸透していった。その結果、あらゆるベクトルでLGBTQ+の権利を脅かし、LGBTQ+当事者の生活の質に影響を及ぼし、彼らに対する身体的暴力にまで繋がっている。
本稿では、LGBTQ+の表現に対する制限を強化しつつある6カ国を紹介する。我々は世界中のlGBTQ+当事者とコミュニティの自由を支援するため、このプライド月間に、そして1年を通じて、彼らとともに立ち上がることを強く求めたい。
(本稿は米国以外の国々に焦点を当てている。米国におけるLGBTQ+の権利に関する記事は、issueページをご覧いただきたい)
ロシア
ロシアによるウクライナ侵攻後、多数のLGBTQ+の人々がロシアからの脱出を余儀なくされた。同時に、プーチン大統領は2022年12月、未成年者および成人に対するLGBTQ+の人々を肯定的または中立的に扱う情報の禁止、「性別適合」と「小児性愛の促進」の禁止を定めた新プロパガンダ法に署名した。同月、ロシアのオンラインストリーミングサービスは『ゴシップガール』や『ホワイト・ロータス』などのテレビ番組のシーンを検閲し、ロシアのメディア規制当局には「LGBTプロパガンダ」を特集するウェブサイトを禁止する新たな権限が与えられた。
さらに、モスクワの裁判所は、「LGBTQ+コミュニティを宣伝した」とみなされたコンテンツの削除を拒否したとして、Meta社に400万ルーブル(47,590ドル)の罰金を科した。モスクワの別の裁判所も、「同性愛関係を宣伝する」コンテンツを削除しなかったとして、TikTokに200万ルーブル(2万3599ドル)の罰金を科した。2022年初め、Meta社は(訳注:ロシア当局に)「過激派組織」に指定されているため、FacebookなどのMeta社製品のユーザは過激派組織の一員として最長6年間投獄されるおそれがある。
また、人権団体は、殺人、身体的暴力や暴行、恐喝など、ロシアにおけるLGBTQ+の人々へのヘイトクライムの増加を指摘している。
インドネシア
インドネシアは長きにわたり、表現の自由を制限してきた。人口2億7300万人の東南アジアのこの国は、神を冒涜したと政府が認定したウェブサイトなどを長期間ブロッキングしており、特定のオンライン活動に刑事・民事責任を課す法律もある。
同国では同性愛は犯罪化されていないが、近年インドネシア政府と一部ISPは、特にLGBTQ+の表現の取り締まりを強化している。2021年のOpen Observatory for Network Interference (OONI)とOutright Internationalの報告書では、インドネシアはLGBTQ+コンテンツに制限を課す6カ国のうちのひとつに挙げられている。同報告書は、検閲の大部分でDNSハイジャックが用いられていること、インターネット・サービス・プロバイダごとに対応に違いがあることを指摘し、その一部が非合法的に行われている可能性を示唆している。
とはいえ、同国の検閲の中には政府の命令に基づいて行われているものもある。2019年には、Instagramがインドネシア当局の要請により、ゲイのイスラム教徒の闘争を描いたコミックを削除している。また、バリ島は「LGBTフレンドリーだ」とTwitterに投稿した米国市民が送還された事例もある。
アラブ首長国連邦
アラブ首長国連邦は、ビジネスフレンドリーな環境と観光産業への多額の投資により、世界の多くの国で好意的な評判を得ており、ともすればリベラルな国であるかのような見方もある。だが、そうした評判とは裏腹に、この国は深刻な人権侵害を抱えている。市民や非市民の異論は容認されず、政府は批判者を監視・投獄している。
LGBTQ+の表現にはある程度の寛容さはあるものの、UAEのオンライン環境は高度に統制されている。2021年のOONIとOutrightの報告書によると、UAEのISPはかなりの数の国外LGBTQ+ウェブサイトをブロッキングし、在住者が入手できる情報を制限している。さらに、同国の2012年サイバー犯罪法(2018年に改正され、VPNの使用が制限された)は、政府や当局への批判を禁止し、多額の罰則を課している。
ウガンダ
2023年5月、ウガンダのヨウェリ・ムセベニ大統領は極めて厳格な反LGBTQ+法に署名した。2023年反同性愛法案(現在は2023年反同性愛法)は、LGBTQ+であることを犯罪とするものではないが、同性愛を「促進」した場合には20年の刑を、HIV感染者との性的関係を含む「加重同性愛(aggravated homosexuality)」には10年の刑を導入している。議会による可決以降、この法律はウガンダのレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア市民の権利を著しく制限し、阻害している。EFFはウガンダ当局に対し、この法律を廃止し、すべての人の人権を守るよう求める。
アフリカ全土、そして世界の多くの国々において、反LGBTQ+の言説や信念の成文化は、植民地支配にまで遡ることができる。それ以来、こうした法律がLGBTQI+の人々を投獄し、嫌がらせをし、脅迫するために当局によって使用・執行されてきた。
反同性愛法は、LGBTQ+の人々の生存権への攻撃であるだけでなく、表現の自由への重大な脅威でもある。また、ウガンダの法律に国際社会が沈黙していることで、他の国々もLGBTQ+コミュニティを抑圧する法律を制定するよう動機づけられるかもしれない。
ガーナ
ウガンダと同様に、ガーナはすでに同性間の性行為を犯罪化している。しかし、同国の「適正な性的権利とガーナ人家族の価値観促進法案(2021年)」はさらに踏み込み、LGBTQ+または「男性と女性という二元的なカテゴリーに反する性的アイデンティティまたは性自認」を公表する者に5年以下の懲役を科すものとなっちえる。違反者がいわゆる「二元的性別」以外のジェンダーを表現したり、二元的性別以外の性別を自認した場合、刑期はさらに伸びることになる。
法案はまた、LGBTQ+アライを自認することも犯罪化している。さらに、LGBTQ+の権利擁護を全面的に禁止し、オンライン言論にも刑事罰を課している。オンラインプラットフォーム、特にTwitterやMetaのFacebookやInstagramを名指しして、LGBTQ+を擁護するコンテンツを制限しなければ刑事罰を科すと脅している。
この法案が可決されれば、ガーナ当局は、ビザ申請者のソーシャルメディアアカウントを調査してLGBTQ+支持の言論をしていないかを確認したり、入国時に逮捕すべきLGBTQ+支援者のリストを作成できるようになる。また、どこで作成されたかにかかわらず、LGBTQ+問題に関するコンテンツを抑制するようプラットフォームに要求することもできる。
そして、MetaとTwitterは、表現の自由とユーザーの安全を支援し、LGBTQ+コミュニティのアライであることを宣言するプラットフォームとして、沈黙してはならない。少なくとも、世界のLGBTQ+とアライのコミュニティは、自分たちが今日行った投稿が、ある日突然、政府当局の手に渡り、自分たちを投獄するために利用される可能性があるかを知る権利がある。
ケニヤ
ウガンダとガーナの法案からヒントを得て、ケニアで提案された新たな法案(2023年家族保護法案)は、同性愛に10年以上の禁固刑、「加重同性愛」の有罪判決には終身刑を義務づけている。同法案はさらに、難民や庇護申請者が同法に違反した場合、その行為が庇護申請と無関係であっても送還を認めている。
ウガンダが2014年に反同性愛法を提案した結果、ケニアはLGBTQ+の人々の主要な避難先となった。ケニアは、東アフリカで唯一、性的指向を問うことなく難民や亡命を求めるLGBTQ+の人々を受け入れている国である。
この法案が可決されれば、ケニアではプライバシー権、集会・結社の自由、表現の自由と情報の権利をオフライン・オフラインの双方で制限されることになる。
EFFは、ケニアとガーナの当局に対し、それぞれの唾棄すべき法案を廃案にし、すべてのLGBTQ+が迫害や訴追、暴力の恐れなく自由に生きられるようにすることを求める。
ウガンダ、ガーナ、ケニアでこれら法案に反対する方法については、Access Nowのキャンペーンページをご覧いただきたい。
本稿はEFFプライドシリーズの一部である。デジタル・ライツとLGBTQ+の交差点における今年の活動に焦点を当てた他の記事は、issueページをご覧いただきたい。
Around the World, Threats to LGBTQ+ Speech Deepen | Electronic Frontier Foundation
Author: Paige Collings and Jillian C. York / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: June 27, 2023
Translation: heatwave_p2p
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