以下の文章は、電子フロンティア財団の「The UN General Assembly and the Fight Against the Cybercrime Treaty」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

先週木曜日、国連の特別委員会で採択された国連サイバー犯罪条約の最終案が、国連総会での最終承認に向けて送られることになった。最終協議では劇的な展開が待っていた。イランが、条約案に残されていたほぼすべての人権保護条項の削除を何度も試みたのだ。しかも、この動きには数十カ国からの支持が集まった。結局、イランの試みは失敗に終わったものの、最終案には依然として人権の観点から問題が山積しており、とてもではないが喜べる状況ではない。

戦いの舞台は国連総会へ

国連総会での審議は早ければ来月にも始まる見込みだ。もし条約が可決されれば、加盟国はこの条約に署名し、批准するよう求められることになる。通常、批准には各国の議会での審議と決議が必要となる。そして、少なくとも40カ国が批准してから90日後に条約は発効される。

この流れは、私たちにとって重要な反撃のチャンスでもある。批准に対して強力で統一された反対の声を上げ、たとえ条約が批准されたとしても、強固な人権保護措置と説明責任を付加するよう要求しなければならない。市民社会、弁護士、データ保護当局は、条約が触れていない部分や曖昧な部分について、各国の実施法が最高水準の人権基準に沿ったものになるよう、しっかりと監視する必要がある。

私たちは3年以上にわたってより明確な定義より狭い適用範囲、そしてより強力な人権保護を求めて活動してきた。しかし、この条約には大きな問題がある。本当の意味でのサイバー犯罪に関する協力を促進するだけでなく、国連条約システムの名の下に、新たな国境を越えたデジタル監視権限を導入している。つまり、権力者による弾圧の道具として使われる可能性が高いということだ。

条約交渉で見られた不安な妥協

この条約が批准されれば、これまで相互法的援助条約(MLAT)などの協力協定を結んでこなかった国々にも、法的支援を要求する手段が与えられることになる。ここには、これまで人権侵害の懸念から国境を越えた監視やデータ共有を行うことができなかった抑圧的な政権までもが含まれるのだ。すでにMLATを結んでいる国々の間でも、この条約の国境を越えた協力条項によって、さらなる監視の可能性が広がってしまうかもしれない。

採択された条約案全体を通じて目立つパターンは、人権保護措置を設けるかどうかを各国の判断に委ねている点だ。人権保護の実施方法の詳細のほとんどが、各国の国内法に任されているのである。例えば、犯罪の範囲と定義には、特定の保護要素を含めても含めなくてもよいとされている。さらに、自国では犯罪とされていない行為の調査を他国から要請された場合、それを拒否する義務はなく、協力することもできるのだ。また、条約は各国に対し、監視要請が口実に過ぎず、実際には迫害を目的としたものではないかどうかを慎重に精査することを義務づけてはいない。

このパターンはさらに続く。これまでサイバー犯罪の定義が過剰に拡大解釈されることで、善意のセキュリティ研究者や内部告発者、ジャーナリストが標的にされてきた。それにもかかわらず、中核的なサイバー犯罪の定義において、ある行為を犯罪とみなすための特定の要素(例えば、不正な意図で行われたか、深刻な被害をもたらしたか)を必須とはしていないのだ。残念ながら、これらの要素は必須ではなく、各国の判断に委ねられている。

同様に、児童性的虐待材料(CSAM)に関する条項でも問題がある。科学的、医学的、芸術的または教育的資料が誤って標的にされないよう保護したり、国際人権基準に沿って未成年者間の合意に基づく年齢に適したやりとりを除外したりする例外を、各国が採用できるようになっている。しかし、これらの例外も任意だ。つまり、過剰に犯罪化しても条約違反にはならず、この条約が定める国境を越えた監視および引渡しの対象にもなりうるのである。

国連サイバー犯罪条約で各国に与えられた幅広い裁量は、人権保護のレベルが異なる国家間で合意を取り付けるために意図されたものだ。この柔軟性によって、人権を強力に保護している国はそれを維持できる一方で、人権保護が不十分な国がその状態を続けることも許してしまっている。この傾向は交渉を通じて明らかだった。その結果、中核的なサイバー犯罪の定義や国境を越えた監視に関する条項など、主要な人権保護措置が必須ではなく任意とされてしまったのである。

条約におけるこれらの選択肢の多くは失望させられるものだ。本来なら、世界的な基準を示すことで各国の国内法における保護を前進させ、他の国々にもそれらの採用を促すか義務づけることもできたはずなのに、そうはならなかった。

人権軽視の実態が露呈

イランが条約から人権保護を削除しようとした最後の試みは、私たちが直面している課題をはっきりと示すものだった。最終討論で、イランは衝撃的な提案をした。政治的意見や人種、民族などを理由に迫害されるリスクがある場合に、各国が個人データの国際的な要請を拒否できるようにする条項を削除しようというのだ。この提案の意味するところは不穏だが、それにもかかわらず、インド、キューバ、中国、ベラルーシ、韓国、ニカラグア、ナイジェリア、ロシア、ベネズエラを含む25カ国もの支持を得たのである。

これは、イランが最後の瞬間に条約から特定の人権や手続き的保護を削除しようとした提案の一つに過ぎない。イランは条約の第6条2項(条約のいかなる内容も人権や基本的自由の抑圧を許すものと解釈されるべきではない)の削除についても投票を要求した。そればかりか、イランは第24条の削除も求めた。この条項は、国内および国境を越えた監視権限に対する条件と保護措置、つまり必要不可欠なチェックアンドバランスを確立するものだったのだ。

第6条2項の削除には、ヨルダン、インド、スーダンを含む23カ国が賛成票を投じ、中国、ウガンダ、トルコなど26カ国が棄権した。つまり、合計49カ国がこの重要な条項の削除を支持するか、少なくとも反対しなかったことになる。これは、基本的自由の保護に対する国際社会のコミットメントに、深刻な亀裂が生じていることを示している。また、第24条の削除には11カ国が賛成票を投じ、23カ国が棄権した。

イランのこれらの提案やその他の提案は、条約から人権に関する言及をほぼすべて削除し、実質的な人権保護を奪い去り、国内法制と国際協力の両面で人権を無視できるようにするための試みだ。もしこれらの提案が通っていたら、人権について記述されるのは前文と一般条項(「締約国は、この条約に基づく義務の履行が国際人権法に基づく義務と一致することを確保するものとする」)だけになっていただろう。

条約の悪用がもたらす更なるリスク

条約が与える権限が迫害に悪用されるリスクは、決して空想ではなく、目の前に迫った現実の脅威だ。さらに懸念されるのは、一部の国家が条約の不可欠な要素に対して「留保」を表明しようとしていることだ。具体的には、第6条2項(一般的人権条項)、第24条(国内および国境を越えた監視支援のための条件および保護措置)、および第40条22項(人権に基づく相互法的援助の拒否)に従うつもりがないことを宣言しようとしているのである。

このような留保は絶対に認められるべきではない。国際法委員会の「条約の留保に関する実行ガイド」によれば、条約の目的と趣旨に反する留保は許されない。人権保護措置は十分に強力とは言えないものの、条約の本質的要素である。これらの保護措置を損なう留保は、条約の目的と趣旨に反するものと見なされるべきだ。さらに、このガイドでは、留保が条約の一般的趣旨に不可欠な本質的要素に影響を及ぼすべきではないと述べられている。もし影響を及ぼすのであれば、そのような留保は条約自体の存在意義を損なうものだとしているのだ。したがって、人権保護措置に対する留保を認めることは、条約の完全性を損なうだけでなく、その法的・道徳的基盤を揺るがすことにもなりかねない。

条約プロセスにおける保護措置へのあらゆる攻撃は、外国政府が条約権限を使用して米国企業に情報を要求する場合、とりわけ懸念される。本来なら、米国企業は米国法に埋め込まれた強力な基準に頼ることができるはずだ。しかし、規範と保護措置が任意とされれば、多くの国家が自国の人権基準を放棄する選択をするだろう。

さらに多くの犯罪を再び盛り込もうとする動き

交渉を通じて、複数の国から、条約の範囲が十分な犯罪をカバーしていないという懸念が表明された。具体的には、表現の自由と平和的抗議の権利によって保護されるべきオンライン表現を脅かす多数の犯罪が含まれていない、という懸念だ。ロシア、中国、ナイジェリア、エジプト、イラン、パキスタンは、暴力の扇動や宗教的価値の冒涜などの犯罪を本条約でカバーすべきだと主張した。対照的に、EUや米国、コスタリカなどは、コンピューターシステムへの攻撃や、児童性的虐待材料(CSAM)、グルーミングなどのサイバー関連犯罪のみに焦点を当てるべきだと主張した。

ロシアや中国をはじめとする国々は、大きな反対に直面しながらも、条約そのものが批准・発効する前にもかかわらず、追加犯罪のための補足議定書の交渉を成功させた。この動きは特に懸念される。なぜなら、中核的なサイバー犯罪が何を構成するかという重要な問題について、まだコンセンサスが得られていないからだ。この問題は、さらなる紛争につながる時限爆弾のようなもので。条約の国境を越えた協力体制の適用範囲を、後から拡大してしまう恐れがある。

最終合意では、条約の発効には40カ国の批准が必要で、新たな議定書の採択には60カ国の参加が求められることになった。コンセンサスが目標であることに変わりはないが、それが得られない場合も、議定書は出席国の3分の2の賛成で採択できる。

条約交渉の結果は、失望させられるものだった。市民社会と人権擁護者は団結して、この条約の批准に反対する声を上げ続けなければならない。世界中の人々の人権を守るため、これらの問題のある条項と戦い続ける必要がある。

The UN General Assembly and the Fight Against the Cybercrime Treaty | Electronic Frontier Foundation

Author: Katitza Rodriguez / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: August 13, 2024
Translation: heatwave_p2p