以下の文章は、電子フロンティア財団の「This Bill Could Put A Stop To Censorship By Lawsuit」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

これまで長年にわたり、潤沢な資金を持つ個人や企業は、批判者を沈黙させる手段として民事訴訟を濫用してきた。市民参加に対する戦略的訴訟(SLAPP訴訟)と呼ばれるこれらの訴訟は、勝訴を目指すものではない。むしろ、市民の正当な言論活動に法的な嫌がらせを加え、批判の声を封じ込めることを目的としている。現在34の州でこうした濫用を防ぐ法整備が進んでいるものの、連邦レベルでの保護は存在していなかった。

本日、超党派の「言論保護法(Free Speech Protection Act)」案が、ジェイミー・ラスキン下院議員(民主党・メリーランド州)とケビン・カイリー下院議員(共和党・カリフォルニア州)によって提出された。この法案は、不当ないやがらせ訴訟に苦しむジャーナリスト、活動家、市民を守る連邦レベルの保護を実現する、数年来で最も有望な機会となっている。

言論保護法は、富裕層や権力者を利する法的武器としてのSLAPP訴訟から、市民を守るための画期的な取り組みだ。政治的な立場を問わず、コミュニティや国家の問題に声を上げる一般市民を支援するものである。

これまで、公に批判された(あるいは単に言及されただけの)個人や企業が、批判者を威圧する手段としてSLAPP訴訟を利用してきた。こうした訴訟の原告は、必ずしも勝訴を目指しているわけではなく、時には最後まで争う意図すら持っていない。それでも、訴訟に伴うストレスと高額な裁判費用だけで、被告の表現の自由を抑制・萎縮させることができる。

州レベルの反SLAPP法は確かに効果を上げている。しかし、州法は連邦裁判所では適用されないことが多く、悪質な原告は依然として、連邦裁判所や、反SLAPP法がない、あるいは不十分な州で提訴することで、司法制度を悪用し続けている。

広がりを見せるSLAPP訴訟

連邦裁判所でのSLAPP訴訟は、活動家やオンライン批評家を標的とする手段として、ますます濫用されている。以下に最近の事例を紹介する。

環境活動家を狙い撃ちにした石炭灰企業

2016年、アラバマ州ユニオンタウンの活動家たちが、ジョージア州の企業から3,000万ドルの訴訟を突きつけられた。同社は有害な石炭灰を、この貧困層が多く、黒人が多く暮らす町(一人当たりの所得は約8,000ドル)の居住地域にある埋立地に投棄していた。活動家たちは、ウェブサイトやFacebookページでの発言を理由に訴えられた。「埋立地は私たちの暮らしを脅かしている」「外に出ることもできず、呼吸すらままならない」といった切実な声が訴訟の対象となったのである。最終的に原告はACLUの支援を受けた活動家グループと和解に応じた。

メール発明者を自称する人物がテックブログを提訴

2016年、テクノロジーブログのTechdirtが、シバ・アッヤドゥライによる「電子メールの発明者」という主張の信ぴょう性を疑問視する記事を掲載した。これに対してTechdirt創設者のマイク・マズニックは、連邦裁判所で1,500万ドルの名誉毀損訴訟を突きつけられた。EFF賞を受賞したマズニックは法廷で徹底抗戦し、記事の掲載は続けているものの、訴訟費用は彼のビジネスに深刻な打撃を与えた。強力な連邦レベルの反SLAPP法があれば、より多くの作家や出版社が、クラウドファンディングに頼ることなく、こうした威圧的な訴訟に立ち向かえるようになるだろう。

伐採企業がグリーンピースを提訴

2016年、環境NGOのグリーンピースと複数の個人活動家が、Resolute Forest Productsから訴えられた。同社は、「Resolute社の伐採は気候変動を加速させている」といったブログ記事の内容を理由に提訴に踏み切った。(4年に及ぶ法廷闘争の末、カリフォルニア州の強力な反SLAPP法が適用されるべきと判断した裁判官により、Resolute社はグリーンピースに約100万ドルの費用を支払うよう命じられた。)

下院議員によるTwitterユーザとメディアへの法的攻撃

2019年、当時カリフォルニア州中部選出だったデビン・ニューネス下院議員(訳注:現在はTruth Socialを運営するトランプ・メディアのCEO)が、@DevinNunesMomと@DevinCowという2つのTwitterアカウントを提訴した。政治家としての彼の行動を批判したユーザの身元を特定し、制裁を加えるための訴訟だった。ニューネス議員は事件とほぼ無関係なバージニア州ヘンリコ郡の州裁判所に提訴した。脆弱な反SLAPP法で知られる同州は、多くの悪質な原告の人気スポットだった。

それからの数年間、ニューネス議員は批判的な報道を行った多数のジャーナリスト、メディアを提訴し続けた。州裁判所と連邦裁判所を使い分けながら、CNNThe Washington Post、地元紙のThe Fresno BeeMSNBC、さらには自身の選挙区の有権者グループまで訴えている。これらの訴訟のほとんどは取り下げられるか却下されたが、連邦レベルで反SLAPP法が存在していれば、被告側は早期の段階で訴訟を却下し、訴訟費用を回収できただろう。

SLAPP訴訟からの迅速な救済

言論保護法は、SLAPP訴訟の被告に強力な防衛手段を提供する。

この法案により、公共の利益に関わる発言を理由に訴えられた被告は、特別な却下申立てを提出できるようになる。裁判所は原則として90日以内に判断を下さなければならず、申立てが認められれば訴えは却下される。多くの場合、反SLAPP申立てで勝訴した被告には、原告に裁判費用の償還を求める権利が与えられる。

EFFは30年以上にわたり、オンラインの表現の自由を守る活動に取り組んできた。強力な反SLAPP連邦法の制定は、より大きな力と資金を持つ者に対してさえも、誰もが自由に意見を述べ、変革を求めて組織化できるインターネットというビジョンの実現に向けた重要な一歩だ。反SLAPP法は、すべての人の権利を守るセーフガードととなる。我々は議会に対し、言論保護法の早期可決を強く求める。

This Bill Could Put A Stop To Censorship By Lawsuit | Electronic Frontier Foundation

Author: Joe Mullin / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: December 5, 2024
Translation: heatwave_p2p