以下の文章は、EDRiの「Meta and X are going rogue. Here is what Europe should do now.」という記事を翻訳したものである。

EDRi

テック業界の大富豪たち――イーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベゾスら――が、権威主義色を強めるトランプ政権に擦り寄る中、EUによるテック関連法の厳格な執行がこれまで以上に重要性を増している。だが、根本的な解決には、ビッグテックが欧州諸機関に及ぼす強大な影響力を抑制し、真に独立したデジタル・オルタナティブへの投資が必要とされている。

機能不全に陥る企業ソーシャルメディア

ここ数カ月、EUのオンラインプラットフォーム規制、デジタルサービス法(DSA)の有効性が問視されてきた。X、Facebook、Instagram、TikTok といった大手商業ソーシャルメディアが、次々とスキャンダルを引き起こし、ユーザ、専門家、政治家らは強く反発している。

X(旧Twitter)は間もなく、事実上、米国政府の傘下に入る。すでにオーナーのイーロン・マスクとその政治的同盟者たちは、Xを極右プロパガンダの発信拠点として利用している。欧州委員会は、同プラットフォームがマスク自身の投稿や彼が支持する政治的コンテンツを優遇し、異なる政治的見解を意図的に後回しにするようアルゴリズムを操作しているのではないかと調査に乗り出している。この1年間にXを使った人なら、そうした操作の痕跡に気づいた人も多いだろう。

DSAは特定の政治的プロパガンダを禁止しているわけではない――また、すべきでもない――が、利用規約の適用やアルゴリズムによるユーザコンテンツのモデレーションについて、オンラインプラットフォームに透明性、デューデリジェンス、客観性、比例性を求めている。そのため、XはすでにEUの法的要件と深刻な摩擦を起こしかねない状況にある。実際、EU委員会は関連する複数の問題について、DSAに違反している可能性を示す予備的証拠をすでに掴んでいる

極右の文化戦争に巻き込まれるコンテンツモデレーション

一方、MetaはFacebook、Instagram、Threadsにおけるコンテンツモデレーションのアプローチを大幅に後退させると発表した。この方針転換は米国における基本的人権の保護を放棄するもので、マイノリティコミュニティを標的にし、極右過激派を勢いづかせる狙いがある。同社が多様性、公平性、包摂性に関するプログラムを廃止することで、最も大きな打撃を受けるのも マイノリティコミュニティだ。

「悪意ある行為に関するポリシー」の改悪により、Metaは特定のグループ、とりわけ移民、ジェンダーアイデンティティ、性的指向に関するヘイトスピーチを明示的に許可することになった。これによってマイノリティコミュニティはヘイトと攻撃の標的にさらされることになる。すでに削除された以前のポリシーでは、こうした行為は「脅迫と排除の環境を生み出し、実社会での暴力を助長しかねない」とされていた。

Metaは今回のポリシー変更で、「女性を家庭用品や所有物として扱う」表現や「トランスジェンダーやノンバイナリーの人々を『それ』と呼ぶ」ような差別的な言動を許可した。LGBTQ+の人々への「異常」「精神的に病んでいる」といった言葉での攻撃も容認し、モデレーションそのものを大幅に縮小する方針を打ち出している。外見、人種、民族、出身国、障害、宗教、ジェンダーアイデンティティ、性的指向などに基づく攻撃的な言動も禁止対象から外れた。Metaの新方針は、『言論の自由』の名を借りて、こうした人々の非人間化を体系的に正当化し、常態化させようとしている。

Metaのポリシーの劣化は、欧州における「制度化された検閲」を巡るトランプとマスクの荒唐無稽な主張に、CEOのマーク・ザッカーバーグCEOの明白に同調し、これに対抗するため「トランプと協力する」用意があると宣言したことで、ますます泥沼化している。

DSAは優れた規制だが、それだけでは不十分

EDRiおよびメンバー団体は、DSAの一部の条項については批判的な立場を取ってきたが、欧州のオンラインプラットフォーム規制は決して「検閲ツール」ではない。ユーザが投稿する個々のコンテンツへの責任を一律に押し付けることなく、特に超大規模なオンラインプラットフォームに説明責任を課す制度として、比較的バランスの取れた設計になっている。

DSAには、表現の自由を保護しながら、少なくとも理論上は、EU委員会や各国のデジタルサービスコーディネーター(DSC)などの執行当局が、X、Facebook、TikTokなどのプラットフォームが人々や民主主義への脅威とならないよう監視できる仕組みを整えている。

実際、EU委員会とDSCは、ほぼすべての大規模オンラインプラットフォームに対して、驚くほど多くの調査に着手している(我々が作成したリストを参照)。調査対象は多岐にわたり、精神的・身体的健康へのリスク、コンテンツモデレーション体制の不備、欺瞞的なインターフェースデザインの違法使用、広告の不透明性、研究者のデータアクセス権の侵害など、幅広い問題をカバーしている。

ビッグテックの経営陣と次期トランプ政権との不穏な蜜月関係が深まる中、EUがテック企業への監視の手を緩めないことが極めて重要になっている。EU指導部が米国からの圧力に屈しているという報道もある(委員会はある程度否定している)が、このリスクは現実のものだ。DSAやDMAに基づくビッグテックへの調査を遅らせたり、縮小したり、一時停止すれば、取り返しのつかない過ちとなるだろう。

DMAはビッグテックの持つ巨大な権力を抑制することを目的としている。その権力は今、我々の社会の基盤である民主主義と人権を破壊し、蝕むために振るわれている。米国からの政治的反発を恐れて、委員会がビッグテックへの調査を見直すよう求める脅しに屈すれば、テック企業とトランプの双方からの恫喝は際限なく続くことになる。

新たなデジタル公共インフラの構築が不可欠

しかし、EU委員会が毅然とした態度を貫き、DSA、DMA、GDPRといった法規制によって大手プラットフォームに具体的な改善を迫ることができたとしても、根本的な問題は残される。Meta、X、TikTokといった企業は、あまりに力を持ちすぎているのだ。シリコンバレーの一握りの億万長者たちの気まぐれ次第で、我々の公共の議論や選挙運動さえもが危険にさらされる。さらにこの力は、公共インフラ、必須サービスへのアクセス、国家機能の根幹にまで及び、近い将来、取り返しのつかない事態を招きかねない。

だからこそ今、EUとその加盟国はビッグテックへの依存から脱却し、真に実効性のあるオルタナティブへの投資に踏み切るべきだ。その一環として欧州の主権的デジタルコモンズへの投資も含まれる。EUと加盟国は、Next Generation Internet プログラムのような――しかしさらに大規模な――独立した公的資金メカニズムを構築し、公共デジタルインフラのレジリエンスを高めるソブリン・フリー [1] でオープンソースなソフトウェアの開発を支援すべきだ。

このような公的資金には条件が付されなければならず、決して、搾取的なビジネスモデルを再生産し、大手テック企業の経済的・政治的支配力を一層強化する「AIハイパースケーラー」や「急成長のユニコーン企業」には投じてはならない。代わりに、NLnet FoundationSovereign Tech Agencyがすでに小規模ながら実践しているような、オープンなデジタルインフラ、ソフトウェア、ハードウェア、標準規格のために充てるべきである。

具体的には、ユーザからは見えにくいインターネットの基幹インフラに加え、GoogleやBingのインデックスに依存しない革新的で倫理的な検索エンジン向けのオープンな検索インデックスや、GoogleのBlinkエンジンに縛られないブラウザ開発を可能にするオープンなブラウザエンジンなども視野に入れるべきだ。また、本稿で指摘した脅威に対抗するには、MastodonやPeertubeなどFediverseの中核を担う非営利で分散型の公益指向のソーシャルメディアソフトウェアへの大規模な投資も欠かせない。

民主主義の理念から遠ざかりつつある米国に対し、欧州は人々、民主主義、地球のためのより良いデジタルの未来を築くべく、リーダーシップを発揮する時を迎えている。

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[1] 本稿での「Free(フリー)」は自由を意味する。詳しくは4つのソフトウェアの自由を参照のこと。

Meta and X are going rogue. Here is what Europe should do now. – European Digital Rights (EDRi)

Author: EDRi (CC BY-SA 4.0)
Publication Date: January 20, 2025
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: openDemocracy (CC BY-SA 2.0)