以下の文章は、電子フロンティア財団の「Tech Rights Are Workers’ Rights: Doordash Edition」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

フードデリバリーサービス「Doordash」の配達員が、同社との激しい労働争議を繰り広げている。問題となっているのは、「Dasher」と呼ばれる配達員が貧乏暮らしを賄うために頼っているチップである。Doordashにはこれまで配達員のチップを掠め取ってきた数々の前科がある。ワシントンD.C.の司法長官が提訴した裁判では、Doordashがくすねた数百万ドル分のチップを返還することで和解が成立した。

Doordashは、同社配達員が「独立した請負業者」であり、期待される報酬に基づいて、その時々に応じた配達の仕事を選べるのだと主張する。Dasherたちの報酬に占めるチップの割合が大きいこと考えれば、同社は各々の配達で顧客が提示したチップの額を事前に配達員に伝えているのだろうとあなたが思うのも無理はない。

だが、実際にはそうではない。利用者は注文時にチップを入力するが、その額は配達が終わるまで配達員には隠されているのである。つまり配達はカジノのようなもので、胴元が支払額を把握しているにもかかわらず、配達員は配達が終わって初めて、その配達で儲かったか損したかを知ることになる。

Dasherも馬鹿ではないし、テクノロジーを知らぬ連中でもない。DasherたちはDoordashの配達指示を調べ、仕事を受ける前にチップの額をプレビューできるアプリ「Para」をヘビーユースした。DasherたちはParaのおかげで、彼らの労働力に依存する巨大企業と同じ情報を知る権利を持つ、真に独立したエージェントとして行動することができた。

だが、Dasherには良いことでも、Doordashにはよろしくないことだった。Doordashは、たとえ配達員が配達で稼ぐ額よりも多くのガソリン代を使うことになっても、注文を遂行させたいと考えている。配達員にチップの額を隠すことで、どの配達をすべきか、どの配達を断るべきかを配達員に知られないようにしていたのだ。

そこでDoordashは、データモデルを変更し、Paraが配達員にチップを表示できなくした。さらに同社は、配達員に報酬額を知られないようにするという真の目的を隠し、Paraが「プライバシーとデータセキュリティ」を侵害したという欺瞞的な主張をした。その中には、Paraが「スクレイピング」によって利用規約に違反したという主張も含まれていた。

スクレイピングは、技術者の道具箱の中に古くからある立派な道具で、敵対的相互運用性(通称:comcom)の基盤となるものである。開発者が古いシステムを作った会社の許可を得ていようといまいと、既存の技術に接続する新しい、あるいは改良された技術を作ることを認めるものである。敵対的相互運用性によって、ユーザはツール職人の協力のもとでコンピューティング手段を手に入れることができ、労働者にDoordash式の技術的管理を次第に押し付けてくるボスウェアのような懲罰的テクノロジーに対抗できるのだ。スクレイピングによってプライバシー侵害などの悪事をなすことはできるが、スクレイピングという技術そのものに本質的な悪意があるわけではない。

Doordashは、自分たちが利用できる分には敵対的相互運用性を歓迎している。Doordashはデリバリーサービスへの参加に同意していないレストランのリストを定期的に作成し、「検索エンジン最適化」と反競争的で赤字覚悟の価格設定によって苦境に立たされているレストラン経営者とその食事客の間に割って入っている

Dasherたちは長きにわたって自分たちを食い物にする技術的管理に抵抗してきた。だが、Doordashは自らは「破壊」を謳う一方で、技術的管理に抵抗するアプリに容赦することはなかった。Doordashは情報ストリーム内でチップ情報の提供を停止することで、Paraにチップ情報を知られないようにしてしまった。

だがDasherたちが諦めることはなかった。Paraが機能しなくなると、彼らは団結して労働争議に打って出たのだ。彼らの第一の要求は、仕事をする前に報酬を知る権利であり、まったくもって当然の要求である。Doordashが意図的にチップ情報を隠蔽するようアプリを設計し、その情報を提供したアプリを切り捨てたことは、実に醜い。DoordashはDasherに真実を伝えねばならない。

もしそうしないのであれば、メッセージの解読など、同社が嫌がることをしてでも、Doordashアプリからその情報を抽出するプログラムの開発・実行を許可すべきである。プログラムをリバースエンジニアリングして改良することは、データセキュリティやプライバシーとも完全に両立できる

誤解しないでもらいたいのは、デジタルの世界には強力なプライバシー保護法が必要だという点である。だからこそ我々は、私訴権を備えた強力な連邦プライバシー法を支持しているのである。こうすれば、企業のやる気に関わらず、利用者のプライバシーは保護される。だが、Dasherに支払われる金額について適切な情報を提供することが、プライバシーの問題であるとは考えにくい。むしろ、労働者を酷使するビジネスを守るために「プライバシー・ウォッシング」をする企業に警戒しなくてはならない。

Dasherが必要する情報をDoordashに委ねることは、たとえ同社が優れたプライバシーの実績を重ねていたとしても(まったくそんなことはないわけだが!)、間違った考えだ。企業はプライバシーを万能の言い訳として、自社に都合のいい技術的制限を正当化しているのだから。

Doordashこうしたスピンを発明したわけではない。HPがユーザを印刷の不鮮明さから守るためにサードパーティのインクをブロックすると主張したり、自動車メーカーがユーザを殺人ストーカーから守るために独立系の整備工場を閉鎖したいだけだと言いはったり、Facebookがプライバシー保護の一環として説明責任を果たすジャーナリストを脅しているだけだと言ってきたように、他者を犠牲にし、自らの利益を追求するために相互運用性を破壊してきた大企業の例を踏襲しているのである。

仕事や学習、コミュニティ活動など、あらゆることにデバイスやネットワークを利用する世界では、それらデバイスやネットワークがどのように機能するかを決定する権利こそが基盤となる。Dasherたちが示したように、アプリがあなたのボスである場合、より良いアプリが必要とされるのである。

Tech Rights Are Workers’ Rights: Doordash Edition | Electronic Frontier Foundation

Author: Cory Doctorow (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: August 06, 2021
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Clay Banks