以下の文章は、電子フロンティア財団の「To Save the News, We Must Shatter Ad-Tech」という記事を翻訳したものである。
本稿は全5回連載シリーズの第2回である。第1回のイントロダクションはこちら。監視広告の禁止に関する第3回はこちら。アプリストアの開放に関する第4回はこちら。ソーシャルメディアにおける「エンドツーエンド」原則に関する第5回はこちら。このシリーズ全体は1つのPDFでダウンロードできる。
ニュースが大変なことになっている。ニュースルームが大量閉鎖される一方で、ジャーナリストへの物理的かつイデオロギー的な攻撃も続いている。ニュースサイトは広告で埋め尽くされているが、その広告の収益の半分以上はアドテク企業に吸い上げられている。アドテクセクターの大部分はGoogleとMetaというアドテク・デュオポリーに支配され、ニュースコンテンツに掲載される広告から多額の利益を上げている。
かつてテックプラットフォームは、「行動ターゲティング広告」がメディア企業と顧客たる広告主に多大な利益をもたらすと約束した。メディア企業は、営業担当者を雇い、広告主に媒体の評判や読者数などを説得的に伝えて広告出稿を勝ち取るのではなく、ユーザがあるページから別のページに遷移するたびに行われる刹那のオークションの勝者の広告を掲載するようになった。
このオークションは、さまざまな広告主を代理する無数の入札者たちに、(訳注:表示されている)コンテンツではなく(訳注:閲覧している)ユーザの情報を提示する。「最近自動車ローンを検索し、失禁パットを購入した、19歳の鬱屈したカンザスシティ美術大学2年生の男性に広告を表示する権利のために、私は何を入札すればよいのだろう?」瞬く間に、ページ上のすべての広告枠は、そのユーザへのリーチを切望する広告主が割高で購入した広告で埋め尽くされる。もちろん、ユーザはその広告を好ましく感じる(ということになっている)。ユーザたちはこの一連のプロセスが生み出した「関連性の高い」広告に感謝するだろう(ということになっている)。
このプロセスには、さまざまな要素が関わっている。アドテク・スタックは以下の要素から構成される。
- サプライサイド・プラットフォーム(SSP):SSPはパブリッシャのブローカーとして機能し、各々のユーザを市場に引き入れ、ユーザの「行動」特性に基づいて彼らのアテンションを販売する。
- デマンドサイド・プラットフォーム(DSP):DSPは広告主の代理として、各広告主がターゲティングしたい特定の行動特性のウィッシュリストをコンサルティングする。
- マーケットプレイス:マーケットプレイスはSSPに代わって入札を募り、DSPからの入札を取りまとめ、落札者の広告をSSPに配信してユーザの眼球にねじ込むことで取引を成立させる。
以上のサービスのうち、1つか2つを提供する企業は少なくないが、アドテク最大手のMetaとGoogleはこの3つすべてを担っている。
つまり、Google(パブリッシャの代理人)がGoogle(マーケットプレイスの代理人)に広告枠の販売を伝え、Google(無数の広告主の代理人)がその広告枠に入札を募るという取引が、日夜無数に行われているのである。売買が成立すると、Googleはそれぞれ3つの手数料を得る。1つは売り手の代理人としての手数料、もう1つは買い手の代理人としての手数料、そして、マーケットプレイスの利用料。
さらに、Googleは大手パブリッシャでもあり、YouTubeなどで無数の広告枠を販売している。また、広告代理店でもあり、企業顧客の代理人として無数の広告枠を購入している。
現実世界で同様の状態は探しようがない。ニューヨーク証券取引所のオーナーが、証券会社や引受銀行でもあり、取引所の最大手企業を複数所有し、自社の取引所で大量の株式を購入する――なんてのはまず考えられない。
あるいは、不動産業者が買い手と売り手の双方を代理して、リスティングサービスを所有し、数百万戸の住宅を売買し、自社の買い手である顧客と競り合い、自社の売り手である顧客と売上を競い合う――なんてことはありえない。
離婚弁護士が双方の当事者の代理人で、離婚裁判の裁判官でもあり、いずれ独身になる両当事者を出会い系サービスでマッチングさせようとする――なんてことも当然ない。
マーケットプレイスを所有することで、Googleは広告主(訳注:買い手)側とパブリッシャ(売り手)側の双方において、自社のブローカーを優遇できる。取引の両サイドにいればこそ、Googleはオークションを不正に操作し、広告主により高い額を支払わせ、パブリッシャにより低い額を支払うように入札を操作することで、自社の利益を最大化できる。
Googleだけではない。Metaも同様に、FacebookやInstagramなどの複数プラットフォームに統合された支配的「フルスタック」広告システムを運営し、そこで広告を仲介するパブリッシャと競合している。Google同様、Metaも自社のマーケットプレイスで買い手と売り手の双方を代理し、両者に損をさせて自社に利益をもたらすよう入札を操作している。
さらにひどいことに、GoogleとMetaは違法に結託して市場を不正に操作し、売り手も買い手も回避しようのない不利なシステムを作り上げたと見られている。
アドテク市場は市場ではなく、すべてのパブリッシャを巻き込んだビッグストア詐欺に過ぎない。買い手の代理人、売り手の代理人、そしてパブリッシャのプロダクトを盛り込むマーケットプレイスがすべて一社によって、あるいは(訳注:その市場の大部分が)密かに談合する二社によって運営されているのだ。あなたが座るポーカー卓でカモを見つけられないなら、カモはあなたなのだ。
こうしてアドテクは、費やされる広告費の半分以上をせしめられるほどに成長した。そう、彼らは盗んだのだ。
これは修正されねばならない。違法行為――つまり市場の不正操作――は、反トラスト法の執行官が常に目を光らせているし、実際動き出してもいる。
だが、アドテクの寡占企業2社が、極めて悪質な行為を停止するよう命じられたとしても、それだけでは不十分だ。パブリッシャを犠牲にして自社を肥やすために、自らの市場において代理する売り手と買い手の双方の権力を濫用しない、と小指の先で誓わせても大した効果はない。
弁護士でも裁判官でもスポーツファンでも同じように言うだろう。こうした利害対立を解決する唯一の方法は、それをそもそもできなくすることだ。審判はチームを所有できない。チームは審判を所有できない。裁判官は自分の子どもの事件を扱うことはできない。弁護士は相手側のために働いてはならない。
同じように、アドテク企業は、買い手の代理人と売り手の代理人を兼任してはならない。
そこで、AMERICA法案(AMERICA Act)の出番だ。マイク・リー上院議員(共和党)が提出したこの法案は、テッド・クルーズ上院議員(共和党)とエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党)の両議員を共同提案者とする、まさに超党派の法案である。
AMERICA法の規定の下では、GoogleやMetaなどの企業は、デマンドサイド(買い手)プラットフォームとサプライサイド(売り手)プラットフォームの売却や閉鎖を余儀なくされる。広告取引所(ad exchange)を運営する大企業(年間200億ドル以上の広告取引を処理)は、その取引所を利用する買い手と売り手を代理することは許されなくなる。同様に、買い手側プラットフォームが売り手側プラットフォームを運営することも、その逆も許されない。
AMERICA法は、年間50億ドルから200億ドルの広告販売を行う小規模な企業には「広告の入札に最良の執行を行うなど、顧客の最善の利益のために行動する」義務を定め、買い手と売り手がそのように行動しているかを確認できるよう、透明性のある監査可能なシステムを維持することを定めている。買い手と売り手を代理する企業は、両者の間に「ファイアウォール」を設ける必要があり、利益相反には罰が科される。
この種のルールは、かつてアメリカの競争規制の根幹をなしていた。大きすぎて潰せない銀行家や大きすぎて潰せない鉄道王がアメリカを破滅の瀬戸際に追い込んだことを受けて、規制当局はこれらプラットフォーム・ビジネスに「構造的分離」を課し、自社の顧客との競合を禁止した。
つまり鉄道会社は、自社のレールで商品を輸送する貨物会社と競合できなくなり、銀行は融資先企業と競合する事業を所有できなくなった。鉄道会社や銀行は「自己優遇」は決してしないと口先で誓うことができただろう。だがその誘惑は強く、バレる可能性は低い。そうした口先の誓いだけで済ませていたなら、アメリカの産業は一握りの癒着したCEOが運営する計画経済へと転換してしただろう。
長きにわたり、2社の超巨大アドテク企業は、自社を優遇するためにゲームを操作する誘惑には決して屈しないと誓ってきた。それがこのザマだ。利益相反のルールは、不正直者を妨げるためだけに存在しているのではない。正直ではあるが誤りを犯しやすい者を誘惑から当座けるためにも存在しているのだ。そして、我々の誰が無謬であると言えるのだろうか?
ニュース業界にとって、AMERICA法は絶好のチャンスだ。広告費の分け前が変わるだけで――たとえばプラットフォームへの分配を10%と控えめにするだけで、パブリッシャは広告収入を20%増やすことができ、同時に広告費を20%削減できる。
それは誰にとっても良いことだ。パブリッシャに広告収入が公平に分配されれば、ウェブサイトを埋め尽くす広告でコンテンツを邪魔する必要もなくなるだろう。広告主のコストが削減されれば、商品をより安価に販売できるようにもなるだろう。
AMERICA法は、誰もが骨身にしみて理解していることを肯定している。あなたはリーグを所有することも、チームを所有することも、試合の審判をすることもできる。だが、その3つすべてをこなしながらでは、まともな試合にはならない、ということだ。
To Save the News, We Must Shatter Ad-Tech | Electronic Frontier Foundation
Author: Cory Doctorow / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: May 24, 2023
Translation: heatwave_p2p