以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Antitrust is a labor issue」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

山が動いた。FTC(連邦取引委員会)が昨日、全米の労働者に競業避止義務(訳注:同業他者への転職禁止義務)を課すことを禁止する規則を最終決定したのだ。つまり、ウェンディーズのレジ係は、ボスに訴えられることなく、時給が0.25ドル高いマクドナルドのフライ係に転職できるようになる。

https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2024/04/ftc-announces-rule-banning-noncompetes

競業避止義務契約に縛られた労働者の中央値は、最低賃金で働くファストフード労働者だ。競業避止義務契約を心配しなくていい人たちは誰か?シリコンバレーのテック労働者だ。カリフォルニア州はすでに競業避止義務契約を禁止しており、コロラド州、イリノイ州、メイン州、メリーランド州、ニューハンプシャー州、ノースダコタ州、オクラホマ州、オレゴン州、ロードアイランド州、バージニア州、ワシントン州もそうしている。

「知識集約型」の産業を含む国内最大の経済圏が、クソなボスのもとで最高の労働者を数年間にわたって愚かな職場に縛り付けなくても運営されているという事実は、競業避止義務契約がまったくのウソっぱちであることを示している。虐げられた従業員の頭蓋骨に収められたノウハウが社外に流出すれば、企業は資本調達や成長できなくなるという考えは、完全にデタラメだ。

https://pluralistic.net/2022/02/02/its-the-economy-stupid/#neofeudal

OpenAIの取締役会が創業者のサム・アルトマンを一時解雇し、それを受けてMicrosoftが彼と700人のテック社員の雇用を申し出たときのことを覚えているだろうか。もし「競業避止義務契約が投資を阻害する」が本当なら、彼らは資金調達に苦労するはずだが、実際にはすぐさま数十億ドルの投資家の資本(主にMicrosoft自体から!)を獲得している。これは、同社の主要なライバルであるAnthropicについても同様で、Anthropicは(なんと)OpenAIの2人の元従業員によって設立されている。

実際、シリコンバレーは、カリフォルニア州の競業避止義務契約禁止令なしには存在し得なかった。初期のシリコン企業で、妄想的な優生学者が設立したショックレー半導体研究所(訳注:研究所を名乗っているが、製造会社)は、レモネードスタンドも経営できないような会社だった。同社の8人の最年長従業員(「8人の反逆者」)は、そのろくでもない会社を辞め、フェアチャイルド・セミコンダクターという、それなりに成功したチップ会社を設立した。だがその成功も、フェアチャイルドを辞めた2人が設立した会社ほどではなかった。その会社こそ、インテルである。

https://pluralistic.net/2021/10/24/the-traitorous-eight-and-the-battle-of-germanium-valley/

同様に、「競業避止義務契約が賃金を上げる」というペテンもある。この理論は、効率的市場仮説のブレイン・ワームで頭蓋骨がパンパンになり、終いには鼻穴や眼窩からミミズをぶら下げているような人々に愛されていて、労働者は賃上げと引き換えに競業避止義務に署名する権利があるのだという。現実を無視すればまったく正しい理屈だ。

繰り返すが、競業避止義務契約に縛られた労働者の中央値は、最低賃金近くのファストフード従業員だ。競業避止義務契約の主な用途は、労働者がライバルのファストフードフランチャイジーに転職して昇給するのを防ぐことにある。つまり労働者は、競業避止義務契約のせいで賃金を失っている。一方、国内で最も高給取りの労働者は、カリフォルニア州北部の数都市に集中しており、ゴールドラッシュ以来、競業避止義務契約が違法とされてきたこの州で、超高額の給与を得ている。

資本家が労働者を確保したいなら、競争すればいい。労働者にもっと良い待遇ともっと高い賃金を提供すればいい。それこそが、資本主義の錬金術が機能する方法だ。競争は、ライバルよりも良い製品を顧客に提供し、ライバルが支払うより高い賃金を労働者に提供することを成功の条件とすることで、資本家の貪欲という卑金属を公共の利益という貴金属へと錬金するのだ。だが、資本家は資本主義を嫌う。

https://pluralistic.net/2024/04/18/in-extremis-veritas/#the-winnah

資本家は資本主義が嫌いなので、MAGAが敬愛する第5巡回区連邦控訴裁判所で、トランプが任命した判事の前でFTCを訴えている。この訴訟は、トランプの財務アドバイザーであるRyan LLCが起こしたもので、バイデンの富裕層への新税と裕福な脱税者に対するIRSの執行強化を嫌う企業からビジネスを引き出すために利用されている。

彼らは勝てるだろうか。そうは言い切れない。聞いたことがあるかもしれないが、FTCの命令に楯突く訴訟は勝ち目が薄い。マット・ストーラーがここで説明しているように。

https://www.thebignewsletter.com/p/ftc-enrages-corporate-america-by

FTCの競業避止義務契約を禁止する法的権限は、「不公正な競争手法」を禁止したFTC法第5条を根拠としている(労働者を奴隷にすることほどの不公正な想像しがたい)。同法の第6条 (g)は、第5条の不公正の禁止を執行するための規則を、FTCが制定できるとしている。いずれも有効な法律だし、6条 (g) は過去に何度も行われている(1968年から73年だけでも26回!)。

DC巡回区控訴裁判所は1973年、「委員会が阻止する権限を与えられている違法性の法定基準の意味を定義する規則を公布する」FTCの権利を支持した。そして1974年、議会はFTC法を改正したが、この規則制定権は維持された。

FTCを訴えた弁護士(アントニン・スカリアの息子の、ユージン・スカリアという小物)は、荒唐無稽な理論を開陳している(訳注:ユージン・スカリアはトランプ政権の労働長官で、父のアントニンはレーガンに指名された保守派の最高裁判事)。彼は、この法律が1970年代という古代から執行されていないため、もはや適用されないと訴える。そして、FTCの権限を支持する山のような先例は「うまく時代についていけていない」と言う。さらに、FTC法と同様に他の反トラスト法も機能していないらしい。最後に、この規則は経済に大きな影響を及ぼすのであるから、議会が決定すべき仕事だと締めくくる。

ストーラーは、こうした議論を一蹴した。法律の良し悪しを判断するのは条文と判例であって、「判例は古くて間違っていると考える弁護士がいるかどうかではない」。同様に、他の反トラスト法が機能しているかいないかも無関係である。「なぜなら、それらは他の反トラスト法であって、本件の反トラスト法ではないからだ」。そして、これが経済的に重要だから議会の仕事だというのなら、「それがどうした?」その議会がFTCに権限を与えているのだ。

もちろん、最高裁判所が規則を覆せば、このような議論すら無意味だ。もしそうなれば、FTCの規則制定権も無力化されるかもしれない。だが、繰り返しになるが、それがどうした? FTCが何もせず、絶対に行使しない権限を保持し続けるのと、3500万~4000万人の米国労働者を解放するのと、どちらが望ましいんだ? 前者であれば、労働者のボスはこれまでどおり、米国の裁判システムの助けを借りて、労働者をクソ仕事に縛りつけておける。

FTCの新規則は、競業避止義務契約を禁止するだけでなく、TRAP(「訓練費用返済契約条項」)も禁止する。これは、従業員が退職、レイオフ、解雇された場合、ボスに数千ドルを支払わなければならないというものだ。

https://pluralistic.net/2022/08/04/its-a-trap/#a-little-on-the-nose

FTCの仕事は、米国人を企業の不正から守ることだ。この度の規則制定は彼らが仕事をしていることを示している。最高裁判所がこれを覆せば、裁判所の正当性はさらに失われ、共和党が誰のための党であるかがより一層明白になる。

これは、反トラスト法と労働の長い歴史の一部だ。反トラスト法は当初から、「人ではなくドルを標的にする」ものだった。言い換えれば、反トラスト法は常に、労働者を保護するために企業の力をくじくように設計されていた。議会は米国の労働者を裕福な捕食者から守る法的保護を求めた。だが裁判所は何度も何度も、その期待を裏切り続けた。そのたびに議会は、反トラスト法の目的を明確にする新たな反トラスト法を立法してきた。連邦判事でも理解できるように詳細な言葉で。

https://pluralistic.net/2023/04/14/aiming-at-dollars/#not-men

数十年の昏睡を経て、バイデン政権のFTCは、労働者保護のレンズを通して競争問題に取り組み、労働者の擁護者としての役割を回復した。今週、委員会はCapri HoldingsとTapestry Incの合併を阻止した。この2社は巨大な複合企業で、「手の届く高級品」ブランドのほぼすべてを買収している(Versace、Jimmy Choo、Michael Kors、Kate Spade、Coach、Stuart Weitzmanなど)。

「手の届く高級品」のハンドバッグには興味がなくても、FTCがこの合併を阻止した根拠には関心を持つべきだ。デビッド・ダイエンが『The American Prospect』で説明するように、この2社に雇用されている3万3000人の労働者は、賃金競争を失わずに済んだのだ。

https://prospect.org/economy/2024-04-24-challenge-fashion-merger-new-antitrust-philosophy

つまり、FTCは、寡占を独占に変えてしまう85億ドルの合併を、労働者をボスの賃金抑制力から守るために阻止したのだ。しかも、その投票は、新たに任命された(率直に言って、かなりひどい)共和党の委員を含めて全会一致だった。

https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2024/04/ftc-moves-block-tapestrys-acquisition-capri

多くの人々は(当然ながら)、バイデンが次の選挙で生き残らなければ、彼の政権が制定した優れた規則の数々も、彼の大統領職と共に死んでしまうのではないかと懸念している。だが、バイデン政権の反企業アジェンダが制度化され、超党派的な耐久性を獲得したことを示す証拠がある。

こうした反企業アジェンダについてはあまり報道されていないが、実際には非常に大規模だ。2020年、当時ホワイトハウスで働いていたティム・ウーは、競争に関する大統領令を書き、各省庁が米国人に害をなす企業の力を鈍らせるための72のアクションを挙げた。

https://www.eff.org/deeplinks/2021/08/party-its-1979-og-antitrust-back-baby

バイデン政権の各省庁トップは、その計画を着実に実行に移し、優れた行政手腕によって革新的な成果を示した。彼らは、職務に秀でることが実践的な影響力につながることを証明したのだ。

https://pluralistic.net/2022/10/18/administrative-competence/#i-know-stuff

この1週間だけでも、驚くほど良い新規則が、各省庁によって最終決定されている。

  • 老人ホームの最低人員配置比率
  • 米国気候部隊の創設
  • 残業手当の保証
  • 退職貯蓄者を騙す金融アドバイザーの禁止
  • 州外での中絶を保護する医療プライバシー規則
  • 住宅ローンサービスにおけるジャンク手数料の禁止
  • アラスカの1300万エーカーの北極圏の保護
  • 「永遠の化学物質」を有害物質に分類
  • 連邦機関に持続可能な製品の購入を義務づけ
  • 銃器販売の抜け穴を塞ぐ

これはリストの一部に過ぎない。それに、今日はまだ木曜日だ。

(訳注:この記事が公開された翌日の4月25日金曜、FCC(連邦通信委員会)はトランプ前政権で廃止された「ネット中立性」ルールを再導入し、ISPへの強力な監督権限を復活させた)

なぜこんなに急ぐのか。ジェラルド・エディックが『The American Prospect』に書いているように、今規則を最終決定すれば、1996年にニュート・ギングリッチが作った議会審査法から守ることができる。この法律は、連邦選挙の数カ月前に作られた行政規則を次の上院に一掃させるための策略だ。

https://prospect.org/politics/2024-04-23-biden-administration-regulations-congressional-review-act

言い換えれば、これらの規則の制定は、2021年以来、静かに効果的に働いてきた専門的知識を持つ有能な政府機関が、驚くべき行政手腕を発揮した結果なのだ。ピート・ブティジェッジ運輸長官のように、バイデン政権の初期にはあまり評価できなかった閣僚たちもこの行動に参加している。

https://pluralistic.net/2023/02/11/dinah-wont-you-blow/#ecp

当初は期待されていなかったが、ついに運輸省(DOT)は規制行きの列車に乗り込み、航空会社が提供しなかったサービスの料金を請求した場合に、返金を義務づける優れた規則を決定した。

https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2024/04/24/fact-sheet-biden-harris-administration-announces-rules-to-deliver-automatic-refunds-and-protect-consumers-from-surprise-junk-fees-in-air-travel

この規則はまた、ジャンク手数料の徴収を禁止し、航空会社に遅延便の補償を義務づけている。ようやく米国の旅行者は欧州のいとこが20年来享受してきた権利を手に入れることができる。

これは、運輸省が打ち出した一連の強力な施策の最新版だ。このような動きは、リナ・カーンFTC委員長の首席補佐官を務めていたジェン・ハワードが、運輸省の競争執行局長に異動したタイミングと符合している。

https://prospect.org/infrastructure/transportation/2024-04-25-transportation-departments-new-path

ハワードの指揮の下、運輸省はSpiritとJetblueの合併を阻止し、この10年で最低のフライトキャンセル率を記録した。

https://www.transportation.gov/briefing-room/2023-numbers-more-flights-fewer-cancellations-more-consumer-protections

これらすべては、搭乗者保護が進むのと同時に、米国の航空業界と米国市民との長く悪化の一途を辿ってきた搾取的な関係の大きな転換点を示している。隣り合わせの座席への追加料金の禁止、車椅子での搭乗を容易にするルール、乗客の個人情報のデータブローカーへの販売禁止など、今後もさらに多くの規制が予定されている。

確かに、世界情勢を見渡しても、バイデン政権の政策を見ても、怒りを覚えたり、落ち込んだりするのも無理はない。しかし、これら専門機関は、全ての働く米国人の生活をあらゆる方法でより良くする規則の津波をもたらした。我々の実生活に役立つ改善は、生きるに値する地球のため、ジェノサイドのない世界のためのより大きな、実存的な戦いへと我々を解放してくれる。

生きるのに良い時代ではないかもしれないが、先週よりははるかに良い時代だ。

それに、今日はまだ木曜日だ。

Pluralistic: Antitrust is a labor issue (25 Apr 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: 25 12, 2024
Translation: heatwave_p2p