以下の文章は、電子フロンティア財団の「To Save the News, We Must Open Up App Stores」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

本稿は全5回連載シリーズの第4回である。第1回のイントロダクションはこちら。アドテク企業の解体に関する第2回はこちら。監視広告の禁止に関する第3回はこちら。ソーシャルメディアにおける「エンドツーエンド」原則に関する第5回はこちらこのシリーズ全体は1つのPDFでダウンロードできる

2010年、スティーブ・ジョブズはiPadを発表し、新たなコンピューティングデバイス(世界初のメインストリーム・タッチスクリーンタブレット)の到来を告げた。その際、彼はもう1つのものの到来を約束した。新たなオンライン出版モデルとして、有料サブスクリプションを発表したのだ。

ジョブズは広告に支えられたウェブ出版の世界を痛烈に批判した。それが警察や情報機関が令状なしに自由にアクセスできる民間の監視システムを構築するための見せかけであることを彼は理解していた。

そしてジョブズはより良いインターネットを約束する。パブリッシャに対し、iPad用のアプリ開発に投資すれば、強欲で、寡占が進みつつある監視広告セクターから解放してやる、と。ジャーナリズムを広告ではなく、購読者に支えられるものにし、監視とジャーナリズムとの不穏な関係を断ち切れると約束したのだ。

パブリッシャは数十億ドルを投じてアプリを開発し、App Storeを埋め尽くした。そうして、読者がニュースの代金を直接支払えるようになった。 ジョブスが約束したほどの数字ではなかったし、すべてのパブリッシャにそうなったわけではなかったとしても、多数のパブリッシャにとってアプリは生命線となった。

当初、AppleのApp Storeの提案はわかりやすいものだった。パブリッシャがアプリを読者に販売し、Appleがその決済を処理すると30%の手数料を徴収する。そしてパブリッシャは、記事課金、定期購読などの決済処理にApple以外の決済処理業者も選択できた。

だが、iPadやApp Storeにつながる他のデバイス――つまりiPhoneやiPodが存在感を増し、パブリッシャのビジネスへの重要度が高まると、Appleは契約を変更した。

2011年、Appleはすべてのアプリ内決済をAppleが処理すること、つまりすべてのアプリユーザから得られる収益の30%を手数料として徴収することを発表した。Appleはパブリッシャがこの契約から逃げられないようにするために、アプリ上でユーザをウェブに誘導して決済手続きをさせることも禁止した。

Androidのアプリストア、Goolge Playもほぼ同様のポリシーを定めている。Android端末にはサードパーティのアプリストアをインストールできるから問題ないとしているが、実際のところ、Googleは商業的、技術的、心理的なトリックを駆使して、外部アプリストアのインストールを妨げてきた

そうして、アプリ内課金やマイクロペイメントの売上の30%がAppleとGoogleに吸い取られている。大手決済事業者の手数料が2~3%なのを考えれば、とんでもないぼったくりだ。

AppleとGoogleが相場よりも1000%も高い手数料を徴収している事実は、彼らが競争を恐れていないことを物語っている。両社揃ってパブリッシャに法外な手数料を課している事実は、両者が競争関係にないことを物語っている。

モバイルアプリストア間の競争は、モバイル決済の競争をもたらし、手数料を業界標準の2~3%にまで押し下げてくれるだろう。つまり、パブリッシャがアプリ内決済の購読料から得られる収益が25%以上増えるということだ(手数料の高さからモバイル決済を見送ってきた報道機関も参入してくるかもしれない)。

EUはこの実現に向けて順調に歩を進めている。デジタル市場法はモバイル企業に競合アプリストアへのシンプルかつ安全なアクセスの提供を求めている。米国でも、「アプリ市場開放法(Open App Markets Act)」が同様のルールを提案している。

AppleとGoogleは、アプリストアを開放すればユーザがセキュリティリスクに晒されると主張する。だが、それは真実ではない。思慮深く慎重なアプローチを採用すれば、アプリストアのセキュリティを維持しつつ、ニュースをはじめあらゆるアプリベースのビジネスを、大手テック企業の言い値の30%の手数料から解放できるはずだ。

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To Save the News, We Must Open Up App Stores | Electronic Frontier Foundation

Author: Cory Doctorow / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: June 6, 2023
Translation: heatwave_p2p