以下の文章は、電子フロンティア財団の「Federal and State Antitrust Suits Challenging Facebook’s Acquisitions are a Welcome Sight」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

独占企業から消費者を守ることを使命とする反トラスト(独占禁止)当局が、数十年の冬眠から目を覚まし、もはや消費者には周知の問題、そして長らく個人情報という対価を支払わされてきたという問題への対応を開始した。Facebookによる競合プラットフォームの買収は、競争を阻害し、選択肢を減らし、個人データを吸い上げる怪物を生み出し、そうして形成されたプロファイリング能力はただただその支配力を再強化するものとして、ソーシャルメディアユーザに害をもたらしてきた。

現在、政府当局はFacebookの解体を求めている。2012年にInstagramを、2014年にWhatsAppを買収したFacebookは昨日、連邦取引委員会(FTC)全米40の州・地域から提訴された。いずれも、マーク・ザッカーバーグCEOが、競争より買収という戦略を採っていたとしている。訴訟では、InstagramとWhatsAppを買収したことで、ソーシャルメディア・ユーザから競争の利点である、より多様な選択肢・品質・イノベーションを奪ったと主張されている。

訴訟はまた、Facebookが自社サービスとの相互運用を求める企業をどのように扱ってきたかについても焦点を当てている。Facebookは既存プラットフォームとの相互運用性が独占を防ぐ強力な武器であることをよく理解していた。そこでFacebookは、アプリ開発者にAPIの使用に際し、Facebookの機能と競合するサービスを提供しないこと、他のソーシャルメディアとの接続・宣伝をしないことを条件として課していると訴状では述べられている。

これまでの反トラスト法訴訟と同様に、裁判所が独占された関連市場の政府定義を受け入れるか否かが重要な争点になるだろう。言い換えれば、「パーソナル・ソーシャル・ネットワーキング・サービス」は、Facebookが独占する独自サービスなのか? それともFacebookは数あるプレイヤーの中の1つとして、電子メールからテレビに至るまで、あらゆるものと真っ向勝負を挑んでいるのだろうか? 他の企業がどのような市場に属しているかという問題をめぐって、政府・州とFacebookの中で激論が交わされることは必至だろう。

おそらく、Facebookはこの買収が消費者を利するものであり、反トラスト法の観点からも違法ではない、と主張するだろう。InstagramとWhatsAppが(訳注:買収されず)独立したままであったならどうなっていたかなど、誰にも知ることはできない。だから今さら裁判所にできることは何もない、とFacebookは主張することになるだろう。

果たしてそれを、かつてのInstagram、WhatsAppユーザに言えるのだろうか。彼らは*Facebookではなく*InstagramとWhatsAppを選択したのだ。そして、その2つのアプリがFacebookエコシステムに飲み込まれるのを見てきたのだ。彼らは自分たちが選択したネットワークや自分たちのデータが、Facebookとは切り離されていると考えていた。第一に、実際に切り離されていたし、第二に、Facebookも総説明していたのだから。だが、その約束は破られ、ユーザのデータは吸い上げられ、プライバシー保護は曖昧になっていった

反トラスト規制当局は、ほとんど注意を払っていなかった。その間にも、Instagramユーザは、Instagram Directのロゴが消滅してFacebook Messengerのロゴに置き換えられるのを見てきた。我々が先月指摘したように、FacebookはInstagram Direct、Facebook Messenger、WhatsAppの統合計画を進めていく中で、これらアプリの境界をぼかそうとしている。最近のメッセージ機能の「アップデート」では、FacebookはInstagramユーザに新たな「クロスプラットフォーム・メッセージ」機能の活用を奨励した。それにより、実質的にInstagramの中にFacebook Messengerが埋め込まれることになる。ではInstagramユーザにとってのイノベーションは? 新しいチャットカラーや絵文字程度のものだ。

さらにFacebookは、2013年のVPNメーカー「Onavo」の買収に関して抗弁しなくてはならない。Ovanoのデータ収集機能は、Facebookユーザのウェブブラウジングを安全に保つためのものとして説明されていた。だが後に判明したように、Facebookは潜在的な競合の情報を収集するためにOnavoを使用していたのだ。ユーザがWhatsAppを通じてどれくらいのメッセージを送信しているかをOvanoを使って把握し、それがWhatsApp買収のきっかけになった。こうした行為が暴かれたことで、FacebookはOnavoのサービスを停止した。なんとまぁ。

当局はこの訴訟でFacebookに損害賠償を求めているわけではない。むしろ彼らは、FacebookにInstagram、WhatsAppを始めとする買収企業の売却、そして今後の企業合併・買収の制限を裁判所に求めている。

これは正しいアプローチだ。企業分割のハードルは極めて高いが――大手テクノロジー企業の最後の企業分割は1982年のAT&Tまで遡らなくてはならない――Facebookによる買収を巻き戻すことができれば、これまで長年に渡って抑圧されてきた分野に競争を生み出すことができる。解体を要求し、将来の合併・買収を制限するだけでも、将来的には競争の余地を生み出すことができる。だからこそ、今回の訴訟は、たとえ当局の戦いが茨の道ではあろうとも、歓迎すべき動きと言えるだろう。

Author: MITCH STOLTZ AND KAREN GULLO (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: December 10, 2020
Translation: heatwave_p2p
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