以下の文章は、電子フロンティア財団の「The EU’s Digital Markets Act: There Is A Lot To Like, but Room for Improvement」という記事を翻訳したものである。
長きにわたる協議と幾多の噂やリークを経て、欧州委員会はデジタル市場法(DMA:Digital Market Act)の草案を公表した。DMAはデジタルサービス法(DSA)と共に、テクノロジー分野の独占に狙いを定め、違反には厳しい罰則を課すなど抜本的な競争促進規制を提案している。
世界は1つだ。そのためにデジタルサービス法(#DigitalServiceAct)とデジタル市場法(#DigitalMarketsAct)は表現の自由を守りつつ、安全で信頼できるサービスを生み出す。私たちの世界のデジタル領域を担うゲートキーパーがすべきこと、すべきでないことを定めなくてはなりません。公正なデータの利用と相互運用性のために、そして自社優遇を終わらせるために。
— Margrethe Vestager (@vestager) December 15, 2020
DMAは「ゲートキーパー・プラットフォーム」、つまりは他の企業と消費者との間に立ち、検索エンジン、ソーシャル・ネットワーキング・サービス、ある種のメッセージング・サービス、オペレーティング・システム、オンライン仲介サービスなどの「コア・サービス」をコントロールする超巨大テクノロジー企業を対象としている。Amazonが同プラットフォームで販売する小売業者や販売される製品のメーカーの消費者へのアクセスをいかにしてコントロールしているか、AndroidやiPhoneのアプリストアがいかにしてモバイルソフトウェア配信の関所として働いているのかを考えてみてほしい。これら企業は、そのビジネスモデルと規模の大きさからゲートキーパーになっているのである。これらアプリストアを経由せずに人気のモバイルアプリを生み出すことなど凡そ不可能であろう。DMAでは、コア・プラットフォームサービスがEU域内市場に(例えば収益を通じて)大きな影響を与え、(例えばユーザ数を通じて)仲介者として強力な地位を占め、固定化した永続的地位(事業年数)についている場合に、ゲートキーパーとみなす。
DMAが前提としているのは、ゲートキーパーはその性質上国際的な存在であり、EU加盟国単独では規制し得ないということである。つまり、ゲートキーパーがすべきこと、すべきでないことの規則を作り、それを遵守させるためにはEUのような国際機関でなければならないということだ。今後、ゲートキーパーはある種の敢行を積極的に実施し、ある種の不公正な行為には関与しないよう求められることになる。一部の義務は厳格な遵守を求めるために定められているが、欧州委員会と関連ゲートキーパー間の協議を経て、その対象が絞り込まれるものもある。
DMAの規制は、ゲートキーパーのビジネスを、Amazonであれば商品販売やアプリ販売などの「中核サービス」と、それ以外の決済処理や広告などの「付随サービス」に分けている。概ね、DMAは後者の付随サービスに極めて大きな影響をもたらす。たとえば、プラットフォームが企業顧客に対しプラットフォーム独自の決済機能の使用を強要することを禁止する。
欧州委員会の草案は出発点に過ぎず、欧州議会と(加盟国政府を代表する)EU評議会での投票にかけられる前に、何度も修正を重ねることになるだろう。出発点としては十分に好ましい点も多いが、改善の余地もある。
好ましい点
将来の保証:DMAは随時更新されるように設計されている。その理由は、第一に新たな反競争的敢行が登場した際に対処できるように、第二に現在はゲートキーパーほどの規模ではないがその競合となりうる企業に厳しすぎない規則にしたためである(「説明覚書」より)。調査開始規則は第4章、執行規則は第5章に定められている。
現実の制裁と構造的救済措置:DMAは、その規則に違反した場合、ゲートキーパーの全世界の年間収益の最大10%の罰金を規定している。つまり、2019年の年間収益が約710億ドルに達したFacebookであれば、理論的には71億ドルの罰金が科される可能性がある。違反が継続する場合には、世界の1日の平均収益の最大5%が「過料」として科せられる。さらに重要なのは、独占的行為を止めない、あるいは止めようとしない企業は、部門全体の売却を命じられるなどの「構造的救済」に直面することになる。
データ混合の禁止:DMAは、ゲートキーパーがデータブローカーなどの企業顧客から得たデータを、自らが収集した顧客データと混合することを禁止している(これは今日広く行われており、FacebookやGoogleなどの企業は自社のユーザから収集したデータと販売されているデータを結びつけている)。この規則はまた、ゲートキーパーがユーザを自動的に追加サービスに加入させることも禁止している。たとえば、Gmailにログインしたからといって、YouTubeに自動的にログインさせてはならない、ということである(第5条(a))。
多様な価格と条件の保護:今日、プラットフォームは企業顧客に広範囲に及ぶ条件を飲ませていて、たとえば、アプリストアではなく直接購入した消費者にサブスクリプション料を割り引くことは許されていない。DMAの下では、ゲートキーパーは企業顧客が設定する販売価格・条件に関するルールを作ることが禁止される(第5条(b))。
シングルサインオンの強制禁止:DMAは、ゲートキーパーが企業顧客に独自のログインないしIDシステムの使用を強制することを禁止している(第5条(e))。
クロス・タイイングの禁止:DMAの下では、ゲートキーパーは企業顧客とエンドユーザに「補助サービス」のサインアップを強要することを禁止している。つまり、Gmailアカウントを取得せずにAndroidを使用したり、Appleの高額な決済処理を利用せずにAppleのApp Storeで販売できるようになるということである(第5条(f))。
企業顧客のスパイ禁止:今日、プラットフォームは企業顧客の活動データを収集して、その企業顧客への対抗策を検討している。例えば、そうしたデータから、当該製品の類似品を自社製品として売り出すか、どうやって売り出すかを決定している。DMAの下では、ゲートキーパーは企業顧客との競争のためにこの種のデータを使用することが禁止される(第6条(a))。
アプリストアの百花繚乱へ:DMAはゲートキーパーに自社アプリストアと競合するサードパーティのアプリストアを許可するよう求めている。ただし、ゲートキーパーは、これらのアプリが「ハードウェアまたはオペレーティングシステムの完全性」を損ねる能力を制限することが認められている(第6条(c))。
ロックイン禁止:DMAは、ゲートキーパーがユーザのデフォルトアプリからの切り替えを「技術的に制限」することを禁止している。また、ゲートキーパーがユーザにISPを強制することも禁止される(第6条(e))。
相互運用的拡張:DMAはゲートキーパーに対し、ゲートキーパー自身の付随サービスが享受するのと同じ条件で、他の「付随サービスプロバイダ」(決済事業者、クラウドホスト、デジタルIDプロバイダ、アドテク販売事業者など)がコアサービスに接続することを許可しなければならない(第6条(f))。
データポータビリティと継続的リアルタイムアクセス:DMAの下では、ゲートキーパーの企業顧客とエンドユーザは、「データポータビリティ」(ゲートキーパーはあなたのデータを、競合サービスにアップロード可能な巨大なBLOB(訳注:Binary Large OBject)形式で提供する)と「リアルタイムアクセス」(競合のシステムに参加しても、ゲートキーパーから数分おきにあなたのすべてのニュースメッセージとデータを取得できるようになる)の両方の権利を持つことになる(第6条(h))。
企業は自社データにアクセスできる:DMAはゲートキーパーに対し、企業顧客が自社の売上、顧客、その他の商業活動に関するデータにアクセスできるようにしなければならない。アクセスは「無料」で「高品質、継続的、リアルタイム」でなければならない(第6条(i))。
アプリストアへの公正かつ無差別なアクセス:DMAはアプリストアを持つゲートキーパーに対し、「公正かつ無差別」に事業者のアプリを受け入れることを義務づけている(第6条(k))。
懸念される点
国内規制の禁止:DMAは、EU加盟国がゲートキーパー・プラットフォームに関する独自の法律や規制をDMAを超えて定めることを禁止している。この規則は、ゲートキーパーの相互運用性要件の拡大に関するドイツの素晴らしい提案(第1条(5))のように、すでにEU加盟国で議論されている、DMAよりも更に踏み込んだ法律を危機に晒しかねない。
「コア・サービス」の相互運用性の欠如:DMAは付随サービス(決済処理、広告配信など)の相互運用性を規定しているが、コア/サービスの相互運用性については言及されていない。つまりは、Facebookは競合他社がOculusアプリを販売する場合には独自の決済処理を許可しなければならないが、Facebookと競合するソーシャルメディア・ネットワークに相互運用性を提供しなくても良い、ということになる。これを専門用語で言うと「weaksauce(ツマンネ)」となる。
リアルタイムだが独立していないデータポータビリティ:DMAの「リアルタイム・データポータビリティ」は一見すると良さげに見えるが、ユーザがゲートキーパーサービスのアカウントを保持し続けていなければ、それを利用できない。たとえばFacebookを離脱してDiasporaを使い始めたとして、「リアルタイム・データポータビリティ」を使ってFacebookの友人に連絡を取ろうとすれば、Facebookのアカウントを維持してDiasporaに接続しなければならない。つまり、あなたはまだ、法律用語を振りかざした長ったらしいゴミ文字列――バカバカしくもFacebookが「利用規約」と呼ぶソレ――に縛られ続けることを意味している。
Publication Date: December 15, 2020
Translation: heatwave_p2p