以下の文章は、電子フロンティア財団の「When It Comes to Antitrust, It’s All Connected」という記事を翻訳したものである。
1980年代、反トラスト法(訳注:日本でいう独占禁止法)にナイフが突き立てられ、その後40年間にわたって血が流され続けてきた。1990年代にはいると、「水平型の独占は悪だが、垂直型の独占は効率的である」という見方が大勢を占めるようになった。つまり、ある企業が商品やサービスの供給を一手に引き受けるのは消費者に望ましくないことだが、ある企業がサプライチェーン全体を所有することは大した問題ではない、むしろ良いことだとされた。
現在、議会はビッグテックの問題に注目し、彼らを抑制するための法案をいくつも提出している。しかし、Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftに焦点を当てるだけでは、私たちが直面している問題は解決しない。独占は、今日のビジネスモデルの核となっている。すべてにおいて、である。
テック系スタートアップ界隈では、企業は何年にもわたって赤字経営を続け、関連領域を氾濫させ、競合他社の価格を引き下げ、最後に生き残るまで新規参入者を買収しようとする。Uberは長きにわたってLyftの破壊を目論んできた。一連のリークとPRの失態によってUberは失敗したが、このような戦略を用いているのはUberだけではない。かつてどれほどのフードデリバリーアプリがあったかを思い出してみてほしい。それが現在、どれだけ買収・合併されたかを考えてほしい。
インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)では、地域独占が目標となっている。倒産した通信事業者のフロンティア社が同社の独占領域を銀行の資産とみなしていたことが、公開された資料から明らかになっている。日常生活の必需品となったインターネットへのアクセスを独占していれば、利益が保証されるためである。また、他に選択肢がないのをいいことに、価格を釣り上げたり、低品質なサービスを高額で売りつけたり、サービスの品質向上を避けることもできるようになる。
本、映画、音楽、テレビなどの業界は、供給者が非常に少ない。つい先日も出版社のアシェットがワークマン・パブリッシングを買収した。出版社の数が減れば減るほど、図書館や学校はひどい電子書籍契約に応じざるを得なくなり、必然的に公共財の質は落ちる。ディズニーは不動産やスタジオの買収を続けている。21世紀フォックスの買収後の2019年には、ディズニーは全米興行シェアの38%を占めるに至った。つまり、映画興行市場の3分の1以上が、たった1つの企業の視点を反映していたことになる。
こうした企業が大きくなればなるほど、誰にも抵抗しがたくなっていく。インターネットはチャンスを広げることを約束した。だが、企業は競争が働かないほどに巨大化することで自らを守るようになった。
ここまでは水平方向に見た場合である。だが、垂直方向で見ても同様に惨憺たる状況にある。オーディオブックがほしいと思っても、Amazonは多数の人気タイトルを独占契約している。映画やテレビをデジタルで見ようと思っても、そのコンテンツを制作した会社が所有する定額制ストリーミングサービスを見なければならない。また、ComcastやAT&Tであれば、上限付きのインターネットサービスに多額の料金を支払わされた上に、あらゆるコンテンツを標準以下の品質で押し付けられる。そのISPが、ストリーミングサービスもコンテンツも所有しているためだ。
チェーンは長すぎ、リンクは大きすぎる。テクノロジーにおける競争の欠如によって引き起こされている問題を恒久的に解決するためには、単にソーシャルメディアサービスの規制に終止するのではなく、これらすべての反トラストの側面に適用される法律が必要だ。
新政権は、料金の釣り上げ以外の消費者への害を考慮した法改正を進めている。Facebook、Apple、Google、Amazonだけでなく、次は大手ISPなどの独占的企業や、インターネット経済の狭い領域ではあるが重要な分野で独占力を行使している企業にも同様に対応しなければならない。
When It Comes to Antitrust, It’s All Connected | Electronic Frontier Foundation
Publication Date: August 26, 2021
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Rikki Chan