以下の文章は、電子フロンティア財団の「The EU Digital Markets Act Places New Obligations on “Gatekeeper” Platforms」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

欧州連合のデジタル市場法(DMA)は、オンラインプラットフォーム市場に競争と公正性を取り戻すための提案である。加盟国を代表する欧州議会と理事会が政治的合意に達し、EUでの法制化に向けた大きなハードルをクリアしたところである。

DMAは複雑でさまざまな側面を有しているが、その全体的なアプローチはオンラインの「ゲートキーパー」、すなわち他の企業のデジタル市場へのアクセスをコントロールする最大手のテクノロジー・プラットフォームに、新たな要件と制限を設けるというものである。これらの要件は、企業がテクノロジー大手徒競走する際に直面する障壁を取り除くことを目的としている。

詳細は大きく異なるが、この基本的なアプローチは、現在米国議会で審議されているAmerican Innovation and Competition Online Act(S. 2992)、Open App Markets Act(S. 2710)、ACCESS Act(H.R. 3849)などの法案で用いられているものと同様である。

本稿では、DMAの全体的なアプローチと、ゲートキーパーに課される要件について説明する。DMAではゲートキーパーに対しWhatsAppやiMessageなどの個人間メッセージングシステムを求めに応じて競合他社のシステムと相互運用させることを求めている。この点は、メッセージングシステムのエンドツーエンド暗号化の維持・強化に関してユニークな問題を提起している。この問題に関しては別項で解説した。

ゲートキーパーの義務

DMAは、企業と消費者の間にボトルネックを設け、デジタル市場で支配的な地位を築く「ゲートキーパー」企業にのみ義務を課している。このゲートキーパーの基準は事情に高く設定されており、EU域内の年間売上高が75億ユーロ、または全世界の市場評価額が750億ユーロの企業のみがこの規則の対象となる。またゲートキーパーは、個人のエンドユーザが毎月4500万人以上、企業ユーザが10万以上でなければならない。最後に、ゲートキーパーは、「マーケットプレイスやアプリストア、検索エンジン、ソーシャルネットワーク、クラウドサービス、広告サービス、音声アシスタント、ウェブブラウザ」などの「コア・プラットフォームサービス」を1つ以上コントロールしていることが基準となる。実際には、Meta(Facebook)、Apple、Alphabet(Google)、Amazon、その他数社程度が含まれることはほぼ間違いないだろう。

DMAはゲートキーパーを以下のように制限する。

  • 異なるサービスのデータを結合する方法の制限
  • 強制的なシングル・サインオンの制限
  • アプリストアがプラットフォーム独自の決済システムの利用をアクセスの条件とすることを禁止

ほかには、ブラウザや検索エンジンの自由な選択を容易化し、「コア・プラットフォーム」からの退会を加入と同程度に容易にすることなどが求められている。

また、独占禁止法の執行を強化するため、DMAはゲートキーパーに対し、合併・買収について欧州委員会に報告するよう求めてもいる。

ムチ(潜在的な制裁措置)

ゲートキーパーがこのルールに違反した場合、全世界の総売上高(収益)の最大10%に相当する罰金が課される。違反が繰り返されたり、組織的に行われた場合には、さらに厳しい制裁が課され、最終的には行動的・構造的是正につながることもある。このレベルの罰金が課されうるとなれば、強力な抑止力として機能するだろう。

動く標的

2020年12月に欧州委員会が発表した当初の提案には好感が持てる部分が多かったが、DMAは流動的で、今この瞬間でさえ不透明さが拭えない。たとえば、ロビイストたちが土壇場で、DMAに報道機関向けの「報酬請求権」を盛り込むように迫ったりもしている。これは検索エンジンやソーシャルネットワークが、そのプラットフォームに表示されるニュースコンテンツに一律の支払料金をパブリッシャに提示することを義務づけることを狙った動きだった。が、これはEFFを始めとする市民団体によって阻止された。また、政治的合意に達したといっても、まだ欧州議会での正式な承認が必要である。採択されれば、DMA規則は発効から6ヶ月後(2023年予定)から効力を持つことになる。

大西洋を越える影響

インターネット上のゲートキーパーの支配力に対処するDMAの規定の多くは、大西洋の反対側でも有効であろう。とりわけ、Open App Markets Act、American Innovation and Choice Online Act、ACCESS Actなど、現在議会を通過中のビッグテック関連法案は、ビッグテックに要件と制限を課すことで、競争環境を確保することを目指している。これらの法案はDMAと同様に、特に暗号化メッセージングアプリに関して実施上の課題を抱えているものの、最大規模のテクノロジープラットフォームのゲートキーパーとしての支配力に対処しなければならないという点でも共通している。EFFは、政策立案者や執行者と協力して、こうした課題に対処していくつもりである。インターネットのために意味のある競争政策、それはユーザのニーズを全面に押し出したものであり、ユーザのセキュリティとプライバシーのニーズに応えるために、市場の力とイノベーションとを調整するのに役立つだろう。

The EU Digital Markets Act Places New Obligations on “Gatekeeper” Platforms | Electronic Frontier Foundation

Author: Mitch Stoltz, Christoph Schmon and Andrew Crocker / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: May 2, 2022
Translation: heatwave_p2p
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