以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Why none of my books are available on Audible」という記事を翻訳したものである。
私はオーディオブックをこよなく愛している。1980年代、高校生だった私は公立図書館の「テープの本」を聞きながら、本棚づくりや本の修繕に延々と時間を費やしたものだ。iTunesが登場した頃には、大量のカセットやCDのオーディオブックのコレクションが貯まっていた。それらを丹念にリッピングして、自分のコレクションを作り上げていった。
そしてAudibleが登場する。わざわざCDをリッピングしなくてもオーディオブックが聞けるなんて、こんな最高なことはない。ただ1つ問題があった。デジタル著作権管理(DRM)だ。ご存知のように、私は大人になってからというもの、ほとんどの時間をDRMとの戦いに費やしてきた。DRMはすべてのコンピュータユーザにとって実存的な脅威であり、テック企業がクリエイターとオーディエンスの関係を乗っ取るための手段だと考えている。
2011年、ベルリンのカオス・コミュニケーション・コングレスで「汎用コンピューティングの来るべき戦争」という講演をした。その中で、デジタル著作権管理の技術的な支離滅裂さを説明した。信頼できないコンピュータ・ユーザに、暗号化されたファイルとその解読に必要なツールを与えておきながら、そのファイルを提供する企業の意に反する方法で解読されるのを制限しようという、奇天烈なファンタジーなのだから。
その時に話したように、コンピュータというものは頑ななまでに、そして必然的に「汎用」である。我々が作り方を知る唯一のコンピュータ、すなわちチューリング完全フォン・ノイマン型マシンだけが、我々が書き方を知るすべてのプログラムを実行可能なコンピュータなのである。コンピュータを搭載した「家電製品」――たとえばスマートスピーカーやスマートトースター――は特定のプログラムしか実行できないではないか、と思われるかもしれない。だがそれは、あらゆるプログラムを実行できるコンピュータを設計した上で、メーカーが承認したプログラム以外は実行できないようにしているだけだ。
だが、これも技術的にはナンセンスではある。他のプログラムがメーカーに承認されているかどうかをチェックするプログラムも、信頼できない“敵”のコンピュータで実行されている(DRMに関して言えば、メーカーにとってあなたは信頼できない敵である)。この監督プログラムはあなたのコンピュータ上で実行されているので、それを置き換えたり、変更したり、破壊したりして、メーカーが望まないプログラムを実行できてもよいはずだ。たとえば、メーカーが提供するビデオ、オーディオ、テキストファイルのスクランブルを解除し、使用後にスクランブルを解除したコピーを削除せずに保存して、共有を制限しないプログラムで開けるようにするDRMプログラムの改造などがまさにそれだ。
技術的な問題としてDRMはうまく機能しない。誰かがDRMプログラムにパッチを当て、スクランブルを解除したファイルを保存する方法を見つけ出すと、その知識(あるいはその知識に基づいて書かれたプログラム)を、世界中のあらゆる人と、ボタンひとつで瞬時に共有できてしまう。そのプログラムを手に入れた人は、購入したファイルのスクランブルを解除したコピーを保存し、共有できる。
DRMベンダーは、「誠実なユーザを誠実でいさせる」ためのものだと言って、問題の本質をはぐらかし続けている。エド・フェルテンが指摘したように、「誠実なユーザを誠実なままにしておくのは、背の高いユーザに背伸びさせ続けるようなもの」である。
実際、DRMベンダーは、技術的対策がファイルの不正コピーを抑止できないことをよく知っている。彼らは技術屋ではなく、法律屋に過ぎないのだ。
1998年、ビル・クリントンはデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に署名し、法制化した。これは複雑で、寄せ集め的な法律であったが、その中でもDRMを保護する1201条の「反回避」条項ほど、世界に密かに、深く、おぞましい影響をもたらしたものはあるまい。
DMCA1201条では、DRMの回避ツールの「取引」は重罪とされている。つまり、5年の禁錮刑と50万ドル以下の罰金(初犯であっても)が科されることになる。この条項は、DRMを用いたシステムのバグに関する事実を知らせただけでトラブルに巻き込まれるほどに雑に書かれている。
ここで、全コンピュータユーザの存亡の危機の話につながる。DRMは技術的に、あなたの監督と制御の及ばないコードとして実行されなければならない。もしあなたのコンピュータやスマートフォン上で、「DRM」というプログラムが動作していたら、そのプログラムを削除してしまうか、プロセスマネージャで強制終了することができる。DRMを望んでいる人なんていないのだから、当然そうするだろう。朝起きて「くっそー、オンラインで購入したエンタメファイルがもっと不自由ならいいのになー」などと言う奴はいない。DRMが自らの存在を秘匿しなければ、邪魔だと思われた瞬間に排除されてしまうのである。
DRMの普及は、あらゆる商用オペレーティングシステムが、コンピュータ所有者の監督も制御も及ばないプログラムを実行する経路を得たことを意味する。技術者がこの卑劣で隠蔽された機能を弱めようものなら、DMCA1201条に基づいて訴追され、5年の刑務所送りにされてしまう。
つまり、DRMを搭載したデバイスは、所有者であるあなたが確認したり停止できないプログラムを実行するよう設計され、デバイスを分析したり、悪意あるソフトウェアが意図的かつ密かに動作し、あなたのデータを盗み、あなたのデバイスのセンサーやアクチュエータを密かに操作できるような欠陥があっても、誰もあなたに警告することを許さないのである。カメラやマイクのハッキングに限った話ではない。コンピュータ化された「家電」は、あらゆるプログラムを実行できる。つまり、自動車のステアリングやブレーキ、医療用インプラント、自宅のサーモスタットも同様に、悪意あるソフトウェアの危険にさらされていることを忘れてはならない。
密かにコード実行するよう設計され、独立監査が法律で禁止されているデバイスというのは、悪以外の何物でもない。そうしたデバイス――我々を取り巻き、時に体内にさえ埋め込まれるデバイス――は、トンデモなく恐ろしいものだ。
DRMはテクノロジーの未来にとってのバッドニュースであるが、商業な未来にとっても恐るべきニュースである。DMCA1201条は、いかなる状況においても回避装置の提供を禁止している。それゆえ、メーカーが製品をDRMの薄皮で包む設計をすれば、あなたが使いたいように製品を使おうとする行為を犯罪化できてしまうのである。まさにジェイ・フリーマンが「ビジネスモデル侮辱罪」と呼んだものである。
その最たる例が、「修理する権利」をめぐる戦いだ。トラクターや自動車、インスリンポンプ、車いす、人工呼吸器に至るまで、さまざまなデバイスにDRMが搭載されている。たとえ技術者がメーカーの正規部品を使用した場合であっても、無断修理を検知・ブロックするために再設計されたのである。これらのデバイスにはブービートラップが仕掛けられていて、いかなる「改ざん」にもメーカーからのワンタイム認証コードが必要で、そのコードはメーカー公認のサービス技術者にしか与えられない。
その結果、メーカーは修理代・部品代をふんだくったり、あるいは修理不能と断言して新しいデバイスを売りつけることができている。独占的グローバル企業は、整備品やパーツの流通による買い替え需要の抑制を防ぐために、その副作用として地球を電子廃棄物で埋め尽くそうとしているのである。
DMCA1201条のようなDRM法は、米国通商代表部がその導入を米国との取引条件とし、WTO協定に盛り込んだことで世界中に広まっていった。いまや南米、オーストラリア、ヨーロッパ、カナダ、日本、あるいは中国であっても、DRM回避ツールは違法化されている。だが、忘れてはならないのは、DRMは技術的には無意味だということだ。地上ではDRM解除ツールの合法市場は存在しなくなったが、アンダーグラウンドでは盛んに取引されているのである。
たとえば、世界中の農家がジョン・ディア社製トラクターのソフトウェアを、インターネットで出回るウクライナ製と噂されるソフトウェアで書き換えている。このソフトウェアがあれば、ジョン・ディア社の技術者が200ドルで訪問してくれるのを数日待たされることもなく、トラクターを修理できるようになる。だが、このソフトウェアには何が入っているのか、誰が作ったのか、隠されたバックドアや悪質なコードが含まれてはいないのかは、誰も知らないのである。
それでもなお、メーカーは自社製品にDRMを組み込み続けている。株主の機嫌を損ねたら重罪になると思えば、抗しきれないものがあるのだ。
さて、Audibleに話を戻そう。AmazonがAudibleを買収する前、私は数千ドル分のAudibleオーディオブックを購入した。オーディオブック自体は楽しめたが、その後ひどい目にあった。OSを変更したらAudibleの再生プログラムが使えなくなり、購入したオーディオブックが水の泡になりかけたのだ。結局、3台の古いコンピュータを駆使して、Audibleオーディオブックをリアルタイムで再生し、普通のMP3として再キャプチャしなきゃならなかった。何週間もかかった。その数年後であったら、数カ月はかかっていただろう(私の「audiobook」フォルダには281日分のオーディオが溜め込まれている)。
AmazonがAudibleを買収したのは、同社がDRMと戦っていたごく短い時期のことだ。当時Amazonは、AppleのiTunes Storeに対抗するMP3 Storeをローンチしたばかりだった。DRMフリーの音楽を販売すれば、ユーザがAppleのプラットフォームにロックインされずに済む。それまでDRMを要求してきた音楽業界も、販売してきたほぼすべてのデジタル音楽がAppleプラットフォームにロックインされていること、つまり、音楽の販売も、その販売の仕方もすべてApple次第になっていることを理解し、DRMがもたらす問題にようやく気づき始めていた。
Amazon MP3 Storeのスローガンは、「DRM: Don’t Restrict Me(私を縛るな)」だった。Amazonは私のDRMに対する感情を知っていたので、ローンチのプロモーションとして無料のTシャツまで送ってくれた。
AmazonがAudible買収を発表したとき、彼らはAudibleストアからDRMを取り除くと約束してくれた。私は歓喜した。そして買収後……何も起こらなかった。DRMのデの字も触れることはなかった。以前はAmazonのDRMフリーの美徳を熱心に説いていたAmazonの広報担当者も、それっきり私のメールに返信をよこさなくなった。
Amazonから別のPRピッチが届いたときにも、DRMについての質問を返信してみたら、そのPR担当者は音信不通になった。あるいは、Amazonでの講演を依頼されたので、「もちろん、無料やりますよ」と答えて、DRMについてAudibleの中の人と話そうと思っていたら、その招待も取り消された。
あるとき、ブックツアーでGoodreads(Amazonの別部門)に行く機会があり、私の仕事について講演した。彼らから何か質問はないのかと聞かれ、AudibleのDRMについて話すと、会場にいたシニアマネージャーは調べてみると約束してくれた。その後、彼から連絡が来ることはなかった。
現在、Audibleはオーディオブック市場を支配している。ジャンルによっては、90%以上のシェアを占めることもある。そのAudibleは、著者や出版社がDRMをオプトアウトすることを許さない。もしあなたがAudibleでオーディオブックを出版したいなら、彼らのDRMで包んで売らなきゃならない。つまり、あなたの読者があなたの本を買うたびに、あなたの読者はますますAudibleに縛られることになるのだ。もしあなたがAudibleで100万ドル分のオーディオブックを売って、その後にライバルプラットフォームに移行すると、あなたを追いかけて移行する読者は100万ドル分を失うのである。
私は権利者であるものの、読者が競合他社に乗り換えられるようにAudibleのDRMを解除してやることは許されていない。Audibleで私のオーディオブックを購入した読者に、無料のMP3オーディオブックのダウンロードコードを送ってやることもできない。私が何万ドルもかけて、プロのナレーターを起用し録音したオーディオブックであろうと、Audibleで販売すれば、私が自腹で作ったオーディオブックを読者にどう使わせるかという最終決定権をAudibleに握られてしまう。私が権利を持つ本であろうと、私が読者にAudibleのDRM解除ツールを提供すれば、私は著作権侵害者になってしまうのだ! DMCA1201条に違反し、5年の禁錮刑と50万ドルの罰金が科せられてしまう。初犯の場合でさえ、ね。
あまりのひどさに、ついついドクトロウの第一法則を作ってしまったくらいだ。
「誰かがあなたの所有物に鍵をかけても、あなたにその鍵を渡そうとしないのであれば、その鍵はあなたの利益を守るためにあるのではない」
AmazonがAudibleを買収して10年以上が経ったが、AudibleのDRMポリシーが変化する兆しは一向にない。
だから、私のオーディオブックはどれもAudibleで聴くことはできないのである。
私はデバイスのDRM化の片棒を担ぎたくはない。デバイスを、我々が見たり停止できないプログラムを実行するよう設計された、広大で、無監査の攻撃可能領域(attack-surface)にしたくはない。自分の作品を、DRMに汚染されたプラットフォームへの誘因にしたくはない。Amazonの言いなりになって、1つ売るごとに読者をAmazonプラットフォームに縛り付けるようなマネはしたくはない。
だからといって、私の書籍にだってオーディオブックはある。あるんだよ! 以前は、ランダムハウスやブラックストーン、マクミランといった素晴らしいオーディオブック出版社とDRMフリーのオーディオブックを制作し、Audible以外のあらゆるストアで販売した。だが、Audibleが市場の大部分を占めていることを考えれば、出版社が私の音声化権に相応の金額を支払い、オーディオブックの制作に優れたナレーターやエンジニアを雇うというのは、経済的に合理的ではない。
そこで私は、自著の出版契約で音声化権を保留し、自腹でオーディオブックを録音するようになった。最初に手をつけたのは『情報は自由になりたがらない』で、ウィル・ウィートンにナレーション、ニール・ゲイマンとアマンダ・パーマーにイントロダクションをお願いした。本書は、ドクトロウの第一法則を詳細に説明している。
それ以来、『ホームランド』(私のヤングアダルト小説『リトル・ブラザー』の続編、やはりウィルがナレーション)、『ウォークアウェイ』(アンバー・ベンソン、ウィル・ウィートン、アマンダ・パーマー、マイロン・ウィリス、ガブリエル・ド・クワールらが出演したマルチキャストのオーディオブック)、『アタック・サーフェス』(『リトル・ブラザー』の3作目、アンバー・ベンソンのナレーション)などのオーディオブックを自主制作してきた。
おおよそコストはリクープできているし、多少の黒字にはなっているが、それでもAudibleで販売していたら得られていたであろう収益には遠く及ばない。エージェントが言うには、私が倫理観を放り投げて、Audibleが私の本にDRMをかけるのを喜んで許可していたなら、住宅ローンもとっくに返済できているし、子どもの大学費用を全額払えるだけの貯蓄もできていたらしい。
もちろん、惜しいなんてこれっぽっちも思っちゃいない。Amazonの買収以降、Audibleはオーディオブック界の絶対的存在(800-pound gorilla)になった。たとえば、あるシリーズの最初の2、3冊を買い上げて、それをAudible独占でリリースし、シリーズの残りは録音を拒否して塩漬けにしてしまう――そんな卑劣なことをしてきた。あるいは、ナレーター界隈では、Audibleはどこよりも金払いが悪いことで知られている。さらに、Audibleは図書館への納入も拒否しているので、「Audible Original」作品はすべて、公共図書館システムでは利用できない。
一企業がある文学フォーマット全体を支配するシステムには何か大きな問題がある――きっとオーディエンスもそう理解しているはずだ。だから、2020年に『アタック・サーフェス』の自主制作オーディオブックをKickstartした。このキャンペーンはオーディオブックのクラウドファンディングのあらゆる記録を塗り替え、2万7600ドルを集めた。
それでも、Audibleの支配は続いている。Audibleは、Amazonが許可する唯一のデジタルオーディオブックチャンネルであるため、Amazonで書籍を検索した人が目にするのは、Audibleのオーディオブックだけである。また、AudibleはAppleのiTunes/Apple Bookチャンネルの独占オーディオパートナーであり、Appleに売上の30%の手数料を支払う必要がない唯一のiOSオーディオブックストアであるため、事実上、新しいオーディオブックを購入できる唯一のオーディオブックストアでもある。
一方、他のオーディオブックストアは、ユーザにわざわざウェブブラウザでオーディオブックを購入してもらい(Appleの超高額手数料を避けるため)、購入後にアプリに切り替えてダウンロードしてもらわなければならない。こうした不便な体験により、Appleが運営する(強制DRM付き)オーディオブックチャンネルが、iOSユーザの事実上唯一の選択肢になってしまっているのである。
驚くことでもないが、多くのユーザは、Audibleで著者検索・書籍検索をして何もでてこなければ、オーディオブックは存在しないのだと思うらしい。Google BooksやLibro.fm、Downpourでけっして探そうとはしない。私のように、直販ストアで自著の電子書籍・オーディオブックをDRMフリーで販売しているなんて夢にも思わない。
ここまででももう十分にヒドイのだが、状況はさらにヒドイのである。もっともっとヒドイ。
Audibleは、ACXというサイドビジネスをやっている。
ACXは、作家やナレーターがチームを組んでオーディオブックを自主制作できる「セルフサービス」プラットフォームで、そのオーディオブックはAudibleプラットフォームにロックインされ、AudibleのDRMをかけられる。
ACXは、そのプラットフォームで販売されるオーディオブックが権利者から正式にライセンスを得ているかを確認する形式上の確認しているが、これは簡単にごまかせてしまう。私自身、ACX上で私の本が無断でオーディオブック化されているのを発見している。
私の本の権利を持っていると主張する詐欺師たちは、ナレーターに格安で録音を依頼し、残りは印税として支払うと約束する。経験の浅いナレーターはベストセラー作家の大作を録音するという期待に胸を膨らませ、長時間の過酷な収録をこなす。そうしてオーディオブックが販売され、次に私に見つかり、削除される。詐欺師たちは消されるまでの売上を持ち逃げし、ナレーターはとばっちりを受ける。
私もそうだ。
なぜなら、この違法なACXオーディオブックは、私がナレーター、ディレクター、エディターのクリエイティブな労働に公正な対価を支払って制作した自主制作版と競合するからだ。これら無許可のACXオーディオブックは、AudibleやAmazonで私の名前を検索すると表示されるが、そのプラットフォームでは私自身の(圧倒的に優れた、正規の)DRMフリー・オーディオブックは陳列を許可されていない。
これはたまたま起こった事件ではない。何度も繰り返されているし、今もなお起こっているのだ。
先週、ナレーターのショーン・ハーテルから連絡があった。ACXで「バーバラ・M・ラッシング」と名乗る人物から詐欺にあったのだという。詐欺師はハーテルに、私の2017年の小説『ウォークアウェイ』の音声化権を持っていると伝えた。もちろん、彼らにはその権利はない。
なぜなら私自身が5万ドルを投じて、『ウォークアウェイ』の豪華オーディオブック版を制作している(24.95ドルでこちらから購入可能)。
このオーディオブックはたくさんの批評家から好評を得たし、印刷版は世界中で翻訳され、高い評価を得た。だがハーテルはそれを知らなかった。
2021年1月11日、「バーバラ・M・ラッシング」からナレーション依頼を受けて、ハーテルは長時間かけて16時間分のナレーションを収録した。2021年2月1日、ラッシングに録音データが送られ、2021年7月7日、ACXは『ウォークアウェイ』のオーディオブックの販売を開始した。2021年11月9日、ACXはこのオーディオブックが著作権侵害であることを把握し、取り下げた。
その間、ラッシングは119冊を売り、さらに10冊を無料で配り、私自身のDRMフリー版の販売機会を奪った。
129回×24.95ドルは3,218.55ドル。私に関する限り、この金額はAmazonが私に支払うべき金額だ。
さて、Amazonを訴えようというわけではない(たぶん)。争う金も時間もない。というのも、私は現在8冊の本(小説4冊、YAグラフィックノベル1冊、短編集1冊、ノンフィクション2冊)を並行して制作していて、そのオーディオブックも自主制作する予定なので、時間がまったく足りないのである。
だが、Amazonが私に3,218.55ドルに借りがあることに変わりはない。
もちろん、彼らが払ってくれるとは思っちゃいない。
Audiblegateに関心を持った人なら、AmazonのダーティなACX契約をよくご存知だろう。同社は、一方的な返金ポリシーと不明朗会計によってACXの著者やナレーターに詐欺を働いたとして、1億ドル以上の支払いが未払いだと非難を浴びている。
レベッカ・ギブリンと私がクリエイティブ労働市場について書いた『チョークポイント資本主義:ビッグテックとビッグコンテンツはいかにしてクリエイティブ労働市場を支配したのか、いかにしてそれを取り戻せるのか』(ビーコン・プレス)の一章では、Audiblegateの詳細を綴った。
『チョークポイント資本主義』は、メディアとテクノロジーの大企業がいかにしてクリエイティブ労働市場を追い詰めてきたのか、そしてなぜクリエイターにもっと著作権を与えたとしても、この不正なゲームから逃れることはできないのかを説明している。テクノロジー業界とエンターテイメント業界の大企業は、毎日クリエイターからランチ代を巻き上げる校門の前のいじめっ子と変わりはない。
オーディエンスに届けるためには、彼らが築いたチョークポイントを通らなければならない。そうすると、議会がどれほどクリエイターに著作権を与えたところで、参入の条件として取り上げられることになる(Audibleでオーディオブックを販売する際に、DRMを強要してあなたの権利を奪っていることを思い出してほしい)。
いじめられっ子の昼食代をもっと増やしてあげても、彼らは昼食を買うことはできない。校門の前で待ち構えているいじめっ子が喜ぶだけだ。クリエイターにより多くの著作権を与えても、必然的にその著作権はAmazonや他の独占者に譲渡されることになる。子供に昼食を食べさせるには、あるいはクリエイターに正義をもたらすには、チョークポイントを取り除かなければならないのである。
『チョークポイント資本主義』は、市場がどのように歪められているのかだけでなく、それをどう修正するか、政府、議会、アーティスト団体、クリエイター、テクノロジスト、オーディエンスがすぐにでも実践できるアクションリストを提示している。
我々は『チョークポイント資本主義』オーディオブック版のクラウドファンディングを数週間後に開始しようと思っている(本は9月中旬に発売)。ナレーターには、あのステファン・ルドニッキを起用した。『エンダーのゲーム』や『ヒュブリス』(マイケル・イシコフとデヴィッド・コーン)など、1000冊以上のオーディオブックのナレーションを務め、グラミー賞を2回、ヒューゴ賞を2回受賞している。最高に素晴らしいオーディオブックになるはずだ。
このオーディオブックがAudibleで売られることはないだろう。3,218.55ドルの借りがあるのにね。
では、Audibleで聴ける私の作品はないのか…?
これ。このエッセイだ。そう、あなたが今読んでいるこのエッセイ。これからオーディオブックとして録音し、優秀なサウンドエンジニアのジョン・テイラー・ウィリアムズがマスタリングし、その後、自費出版の無料のオーディオブックとしてACXにアップロードしようと思う。
おそらく、あなたはこの言葉を画面越しに読んでいるのではないだろう。おそらく、あなたはAudibleのユーザで、私の本の検索してみたら、この短く奇妙なオーディオブック『なぜ私の本は1冊もAudibleで聞けないのか――あるいは、なぜAmazonは私に3,218.55ドルの借りがあるのか』を見つけたに違いにない。
オーディオブックリスナーの皆さん、ごきげんよう!
私のオーディオブックは、Amazonよりも安い価格で、DRMもない、まともな人ならマジメに同意すらできないようなバカバカしい「ユーザ契約」に煩わされることもなく購入できる。そんなオーディオブックが購入したいなら、craphound.com/shopまでどうぞ。
なかでも15ドルの『情報は自由になりたがらない』のオーディオブック版はおすすめだ。この本では、ドクトロウの第一法則だけでなく、私の第二、第三の法則についても説明している(アーサー・C・クラークのエージェントでもあった私のエージェントに、「ドクトロウの第一法則」を思いついたと話したら、「法則なら3つ要るでしょ」と言われたので)。前述したように、ウィル・ウィートンが見事なナレーションを、ニール・ゲイマンとアマンダ・パーマーがイントロダクションを読んでくれた。
もちろん、Audible ACXがこのオーディオブックを承認した場合のみ、この本を見つけることができるのだろう。利用規約を読んでみたが、ACXの書籍として扱われないような理由は特にないように思う。
とはいえ、著作権者に無断で制作されたオーディオブックを禁止していると言いながら、現状はご覧の有様である。ACXの周辺に探りを入れてみたが、Amazonは、既存のAmazonのカタログの中にオーディオブック版があるかどうかで本の権利を確認しているらしい。つまり、作家がAmazonのDRMポリシーを嫌ってAudibleでの販売を拒否していたら、Audibleはそのボイコットをいいことに、詐欺アーティストに作家、ナレーター、リスナーから金を巻き上げさせているのだ。Audible版がないなら、詐欺師であろうと音声化権を持っているはずだと考えて、ね。
Audibleは、Audibleを批判する本の配信にプラットフォームを使わせてくれるのか。それとも、彼らはその圧倒的な市場支配力を行使して、3218.55ドルの詐欺を助けつつ、自分たちに向けられた批判を抑圧するのだろうか。
さて、どうなることやら。
追記:ここまでは2022年7月4日、オーディオブックをAmazonに提出し、休暇に出る直前に書いたものだ。この2週間、毎日ACXを確認していたが、オーディオブックはいまだに「審査のため保留中」と表示されたまま。もう15日目。ずいぶんとお忙しいらしい。
あるいは、このプロセスを遅らせれば、私が諦めるだろうと期待しているのかもしれない。とりあえず、テキストのKindle版は公開されている。
とりたててKindle版を公開したかったわけではないが、ACXにオーディオブックを投稿する前提条件だったので、そうせざるを得なかったというところである。
驚いたことに、この電子書籍はAmazonの反トラスト法ジャンルの新刊本のナンバーワンになった。
さらに驚いたことに、この電子書籍は表紙に著作権上の問題があるとAmazonに言われて削除されてしまった。この表紙は、いくつかのCreative CommonsのアイコンをGIMPで混ぜ合わせた下手っぴいなコラージュなのだが、Amazonはこれを著作権侵害だとみなし(正しくCreative Commonsの帰属表示をしているのに)、本書を取り下げ、私の説明には一切耳を貸すことなく、表紙を変更するよう要求してきたのである。最終的には、Amazon法務部の知人に連絡し、介入してもらうことで、本を復旧することができた。
Amazonが私のオーディオブックをリリースしてくれるかはわからないが、そうしてくれることを願っている。とりあえず、このエッセイのオーディオブックは、私のポッドキャストで無料で聴けるのだけれども。
出荷情報:このスレッドの公開から数時間後に、ACXは私のオーディオブックをリリースした。
(Image: Paris 16, CC BY-SA 4.0; Dmitry Baranovskiy, CC BY 4.0; modified)
Pluralistic: 25 Jul 2022 – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: July 25, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Paris 16 (CC BY-SA 4.0) / Dmitry Baranovskiy (CC BY 4.0) / Luca Nicoletti