以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Kickstarting the “Chokepoint Capitalism” audiobook」という記事を翻訳したものである。文中のPOP画像は翻訳者が翻訳の上、少しアレンジしている。

もうじき、著作権の専門家、レベッカ・ギブリンとの共著『チョークポイント資本主義』が出版される。本書は、テクノロジーとエンターテイメントの独占企業がいかにしてクリエイターの生活を破壊してきたかを行動指向的に掘り下げ、クリエイティブ労働市場を解き明かすとともに、アーティストが報酬を取り戻すための具体的かつ即時に実行可能なプランについて書いたものだ。

http://www.beacon.org/Chokepoint-Capitalism-P1856.aspx

皮肉なことに、本書で描かれた現象、つまり「チョークポイント資本主義」は、まさに書籍出版にも蔓延している。とくにオーディオブック出版は末期段階にある。オーディオブックを大衆に売り込もうとしても、チョークポイントに阻まれない流通経路はほとんど存在しない。だからこそ、我々はリスナー直送のオーディオブックをKickstartすることにした。

https://www.kickstarter.com/projects/doctorow/chokepoint-capitalism-an-audiobook-amazon-wont-sell

「チョークポイント資本主義」とは何か。多国籍の独占企業(あるいはカルテル)が、自分たちが支配するシステムにオーディエンスを閉じ込め、その支配力に乗じてアーティストから搾取し、クリエイターとオーディエンスとの間に料金所を作ってしまうことである。

Audibleを例に取ろう。このAmazonの一部門は世界のオーディオブックの大部分を支配し、ジャンルによっては90%以上の市場シェアを専有している。Audibleは、大手出版社であれ個人パブリッシャであれ、すべての販売者に、同プラットフォームで販売する条件としてAmazon独自DRMの使用を強制している。

これは由々しきことだ。DRMは著作権侵害の抑止にはまったく役に立たないが(Audibleの全タイトルは、インターネット各所の怪しげなところで無料でダウンロードできる)、オーディエンスを囲い込み、クリエイターを支配する力を掌握するには極めて有効なのである。米国のデジタルミレニアム著作権法のような法律では、DRMを解除するツールを誰かに与えることは重罪であり、5年の禁固刑、50万ドル以下の罰金が科せられる。

つまり、あなたがAudibleでオーディオブックを販売すると、あなたの読者はAudibleのプラットフォームに永遠にロックインされることになる。もし他社があなたの創造的な作品により良い条件を提示し、あなたが乗り換えたとしよう。オーディエンスはそれまで購入したすべてのオーディオブックを諦めなければ、移籍先のサービスに移行できない。それはリスナーとってはあまりに重い負担だ!

Amazonはそれを熟知している。クリエイターや出版社への影響力が高まるにつれ、同社は最も弱いグループ、つまりAmazon自社サービスのACXシステムがなければ作品を発表できない独立系クリエイターを手始めに締め上げてきたのである。

2020年末、ACXの著者グループが、Amazonが組織的に彼らの収益を1億ドルほど掠め取っていたことを突き止めた。その後、このAudiblegate(オーディブルゲート)スキャンダルはますます加熱していき、被害を受けた作家たちは反撃に転じていった。だが、Amazonはチョークポイントを利用して、拘束力のある仲裁をクリエイターに放棄させる(訳注:その結果、クリエイターは集団訴訟に参加する権利を失う)などの不公正な慣行によって、その反撃も阻まれつつある。

https://pluralistic.net/2020/11/03/somebody-will/#acx

私は自著の電子書籍とオーディオブックには絶対にDRMをかけないというポリシーを持っている。AmazonのKindleストア(書籍エコシステムにおけるもう1つの乱暴で支配的な領域)では、DRMをかけるかどうかの選択は著者に委ねられてきた。だが、Audibleでは――かつては独立企業であったAudible社を反競争的に買収したことで、Amazonはローンチと同時に圧倒的なリードを保ち続けている――DRMは義務である。

AudibleがDRMフリーのオーディオブックを扱ってくれないので、オーディオブック出版社は私の本なんかには見向きしない。もちろん、オーディオブック販売の90%以上のシェアを占める市場から締め出されるのだから、彼らが悪いとは言えない。だから10年ほど前から、ウィル・ウィートン、アンバー・ベンソン、ニール・ゲイマンといった素晴らしいナレーターに起用して、オーディオブックを自主制作してきた。

ささやかではあるが、よく売れている。おかげで、ナレーター、ディレクター、エンジニアの方々に、持ち出しにはならずに正当な報酬を支払うことができている。だが、Libro.fmやDownpour、直販などの独立系ストアだけで売られているニッチな商品であることに変わりはない。

https://craphound.com/shop

だが2020年、私のベストセラー・ヤングアダルト小説シリーズ『リトルブラザー』の世界を舞台にした大人向けスタンドアローン小説『アタックサーフェス』の出版ですべてが変わった。私は当時、Kickstarterでオーディオと電子書籍を先行販売して、それに読者が応えてくれれば、他のクリエイターにもAudibleのいじめに立ち向かえることを示せるのではないかと考えた。

ヤバかった、トンデモなくうまくいった。オーディオブック版『アタックサーフェス』はKickstarterで26万7000ドルを集め、世界史上最も成功したオーディオブックのクラウドファンディングキャンペーンになった。

https://www.kickstarter.com/projects/doctorow/attack-surface-audiobook-for-the-third-little-brother-book

本日、我々は『チョークポイント資本主義』の新たなKickstarterキャンペーンを開始した。オーディオブックを自主制作し、あのステファン・ルドニツキ(数え切れないほどの賞を受賞し、『エンダーのゲーム』を含む1000冊以上の本のナレーターを務めている)に朗読してもらうことにした。

オーディオブック(20ドル)、電子書籍(15ドル)、ハードカバー(27ドル)、そしてこの3つを組み合わせたバンドル(一括割引もあり)を先行販売中だ。図書館への寄贈も選んでくれると嬉しい。ほかにも、ピンバッジやステッカー、さらには5人の幸運な高額支援者には特別なアートワーク(「赤入れされたロバート・ボーク」)も用意している。

https://www.kickstarter.com/projects/doctorow/chokepoint-capitalism-an-audiobook-amazon-wont-sell

ロバート・ボークは、米国の反トラスト保護を解体するようロナルド・レーガンを説得し、そのアイデアを世界中に輸出した極右過激主義者だ(レーガンは彼に最高裁判事の座を与えようとしたが、ニクソン時代に訴訟長官だったボークは、ニクソンの犯罪に加担したために承認を見送られている)。

ボークの危険でバカげた反トラスト言説は、我々が知る世界を破壊し、気候、労働者保護、政治的完全性を破壊する独占をもたらした。こうした独占は、ビールやプロレス、健康保険や金融に至るまで、経済のあらゆる分野を支配している。

https://www.openmarketsinstitute.org/learn/monopoly-by-the-numbers

アートワーク「赤入れされたロバート・ボーク」は、ボークの1978年の独占推進マニフェスト『独占禁止法のパラドックス』から抜粋した見開き2ページを硬質紙ボードにマウントし、我々が赤ペンで注釈を入れたシャドーボックス作品だ。この組み合わせにより、ミュージアムガラスと皮肉が見事に融合した。

ボークが遺したレガシーは、クリエイティブ産業、そして世界経済のあらゆる部門で見られている独占的市場である。本書は、テクノロジー企業やエンターテイメント企業が、音楽配信、新聞、書籍出版、映画、テレビ、ビデオストリーミングなどをいかにして独占し、クリエイターの収入を減らし、彼らの作品から独占企業の株主により多くの利益をもたらしたかを体系的に探索している。

だが、それと同じくらい重要なのは、本書がクリエイティブな労働市場の秩序を取り戻すために、いますぐできることを提案していることだ。既に成功を収めたプロジェクトと、有望な新たな実験の双方を用いて、我々はクリエイター、アーティストグループ、ファン、テクノロジスト、スタートアップ、そして、地方、地域、さらには中央政府に対して、すぐに実行できるアイデアを提示している。

アーティストだけがこの戦いに駆り出されているわけではない。本書に書いたように、チョークポイント資本主義はハイテク資本主義の最終段階であり、労働者を孤立させ、消費者を囲い込み、オーディエンスへのリーチの見返りに労働者から搾取するのである。産業が集中すればどこにでも生じうる搾取の形態であり、それゆえ、クリエイターがビッグテックに対抗するためにビッグコンテンツの側についても、その逆であっても、搾取からは逃れられない。

クリエイターがあらゆる労働者と連帯しなければならない理由もそこにある。Audibleによるチョークポイントの揺さぶりを少し目を細めて見れば、UberからDoordash、養鶏や食肉加工に至るまで、ギグ・エコノミーのシルエットが浮かび上がってくるはずだ。

40年に及んだ独占推進政策が、世界を崩壊の瀬戸際にまで追いやっている。独占的な利益、集中的な権力によって、ますます一握りの超富裕層が、ますます不安定になる労働者から、ますます多くの富をかき集めるようになったからだ。独占を増せば利益が増し、権力を増せば独占が増す、まさにフライホイールなのだ。

我々が『チョークポイント資本主義』で提案するソリューションは、クリエイティブ労働に特化したものではあるが、独占企業の歯車を止め、新たな世界を作り出すための、あらゆる業界に通底する戦術の一例である。

もし余裕があれば、Kickstarterの支援をお願いしたい。もし余裕がなければ、我々の支援者が世界中の図書館に寄贈した本をぜひご覧いただきたい。

https://www.kickstarter.com/projects/doctorow/chokepoint-capitalism-an-audiobook-amazon-wont-sell

Pluralistic: 17 Aug 2022: Chokepoint Capitalism Kickstarter is live – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: August 17, 2022
Translation: heatwave_p2p