以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Maintaining monopolies with the cloud」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

「クラウドなんてない、あるのは他人のコンピュータだけだ」。これが真実なのだから面白い。この場合の「他人」とは、クラウド事業を利用して顧客を檻に閉じ込める強欲な垂直統合型の独占企業だ。

Coalition For Fair Software Licensing(公正なソフトウェアライセンスを求める連合)は、悪質なクラウドの濫用に対抗するために団結した企業グループである。彼らの標的は、ソフトウェア、SaaS、クラウドホスティングを販売し、この3つを利用して顧客から金をむしり取って囲い込むOracleやMicrosoftなどの企業である。

Bloombergに寄稿したブロディ・フォードは、この詐欺的スキームの概要をこう説明している。「統合型独占企業は、自社のクラウドシステム上で競合のソフトウェアを実行する場合に追加料金を課したり、完全に禁止している。そのため、複数のクラウドサービスを組み合わせることは難しいか、あるいは不可能だ」。

https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-09-27/software-makers-restrictive-license-rules-targeted-by-new-group

このグループは、「クラウドの公平性」について9つの要求を掲げていて、「ライセンス条項は明確でわかりやすくあるべき」という至極当たり前のことから、「クラウドの選択に対する報復からの自由」(「侵入的なソフトウェア監査」や「高額なソフトウェアライセンス料」などを含む)などさまざまな要求を突きつけている。

https://www.fairsoftwarelicensing.com/our-principles/

連合は、19世紀に反トラスト法が制定されるに至った経緯と同様の問題意識を持っている。当時、中小企業は生産者と消費者の間をつなぐ鉄道という別のインフラに翻弄されていた。

鉄道は、生産者と消費者の間のチョークポイントの役割を担っていた。当時、貨物鉄道は貨物船と直接競争していた。そこで鉄道会社は、貨物船から運ばれてくる貨物には高額な運賃を課し、競争を阻害したのである。

この問題は、規制で解決するには難しい問題であることがわかった。たとえ誰に対しても同一の料金体系を提示せよという規制が合ったとしても、鉄道会社はいくらでもごまかすことができたのだ。

たとえばロックフェラーのスタンダードオイル社は、賄賂をはじめさまざまな裏技を使って多数の鉄道会社を支配し、採掘から精油製所、そして市場までの石油の輸送を支配していた。鉄道会社は、自社の石油を運搬する列車も、ライバルの石油を運搬する列車も、同一の料金を課すよう命じられた。

確かにロックフェラーはその規制に従った。オハイオから港に運搬される石油はすべて同じ価格で運搬された。シカゴから港に運搬される石油はすべて同じ価格で運搬された。だが、オハイオの運賃はシカゴの運賃より遥かに高額だった。ロックフェラーはシカゴの製油所をすべて所有していて、オハイオの製油所は独立系企業の所有だったからだ。

しかも、石油以外の貨物(たとえば木材)はシカゴでもオハイオでもマイル単価は同じで、石油だけが特別に価格差が設けられていたのである。競合他社を差別的に扱うなという規制は、「同一路線での差別をするな」というだけで、「路線間の差別」は容認していたのである。

インフラを支配すると、そのインフラを利用する企業に不正を働く方法が多岐にわたり、それを発見するのも難しくなっていく。たとえ発見できたとしても、その戦術を塞ぐ抜け穴のないルールを作るのも難しい。

その結果、対トラスト戦略は「構造的分離」、つまり企業はプラットフォームを所有することも、利用することもできるが、その両方はできないという原則を重視するようになった。鉄道会社による貨物輸送事業を禁止し、銀行には取引先と競合する企業の所有を禁止した。

審判がどちらかのチームに所属していても誠実であるよう求めるのではなく、審判か選手か、いずれかの役割を選ぶように企業に命じたのである。

今日、世界中でテクノロジー反トラストが急増している中、我々はまさに鉄道男爵の教訓をスピードランしている。企業に垂直独占を禁止するのではなく、垂直独占の濫用を禁止するルールを課そうとしているのだ。

https://locusmag.com/2022/03/cory-doctorow-vertically-challenged/

結局、MicrosoftとOracleがクラウドの運用とクラウドをソフトウェアの販売のいずれかを選択しなければならなくなれば、クラウド契約をソフトウェアライセンスのレバレッジに、ソフトウェアライセンスをクラウド契約のレバレッジにするために企業を騙す理由はなくなるはずだ。両社が両方のビジネスを展開している限り、我々がどんな規制を課そうとも、彼らは巧妙に(そして露骨に)ごまかすことのできる無限のツールを自由自在に使うことができる。

ゲーリー・ピーターズ上院議員は、連邦調達規則を見直し、米国政府に対してクラウド企業に公正な取引を義務づける法案を提出している。

https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-09-09/revamp-of-federal-software-buys-could-force-microsoft-changes

これは非常に強力な動きだ。米国、外国、連邦、州、自治体を問わず、すべての政府が、「御社の製品に公金を投じるなら、我々を囲い込まないことを条件とする」という規則を設けるべきだ。これは基本的な慎重なガバナンスであり、前例も豊富にある。リンカーンは、北軍のライフルを相互運用可能な工具と弾丸を使用する企業からしか購入しないという方針をとっていた。今月は独占サプライヤが弾丸を製造してくれないから、今日の戦闘はキャンセルなどというわけにはいかないのだから当然のことである。

この方針は、政府の車両にも適用できる(メーカーはサードパーティ製の修理部品を排除してはならず、非メーカー系の整備士にも診断コードを提供するよう義務づける)し、そうすべきである。Google Classroomなどのソフトウェアも同様だ(Googleに第三者の教科書や評価ツールをブロックしないよう義務づける)。あるいは、公共セクターと取引するプリンタ会社にサードパーティ製のインクをブロックしないよう義務づけるなど、普遍的な原則であるべきである。

クラウドの囲い込みは強い反発を生んでいる。Bloombergのフォードの記事による、テック企業幹部の90%がCoalition for Fair Software Licensingの要求を支持しているという。だが、テック系独占企業に公正に行動するよう命令するだけでは問題は解決しない。彼らが不正を働くインセンティブを奪わなければならないのである。

そのための機運が次第に高まってきている。FTCのリナ・カーン委員長はかつて、コロンビア・ロー・レビューで「プラットフォームとコマースの分離」という法律評論家としては画期的な論文を発表している(「支配的技術プラットフォームによる統合の潜在的危険性は、構造的分離の復権を呼び込む」)。

https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3180174

大企業というものは不正を働くものであり、それにより途方もない利益を得ていることを考えれば、公正さを求めるだけでは問題は解決しない。たとえば、自社の販売データをマイニングして、自社顧客の製品の類似品をいつ売り出せばよいかを分析する誘惑に、Amazonは勝てないのである。

https://pluralistic.net/2020/04/24/slicey-boi/#moral-hazard

あるいは、App Storeを支配するAppleが、自社アプリと直接競合する企業をブロックする誘惑には勝てないように。

https://pluralistic.net/2022/06/17/no-gods-no-masters/#oh-the-irony

裁判官自身の利害に関わる事件をその裁判官に審理させることはないし、弁護士に原告と被告の双方の代理人をさせることもない。チームのオーナーに試合の審判を任せることもしないのである。

Pluralistic: 28 Sep 2022 Maintaining monopolies with the cloud – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: September 29, 2022
Translation: heatwave_p2p
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