以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「How to ditch Facebook without ditching your friends」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

多くのFacebookユーザが、Facebookを嫌いだ嫌いだと言いながら使い続けている。これを指して、やはりFacebookには「中毒性」があるのだ、という人もいる。だが、もっと簡単な説明がある。Facebookを嫌々でも使い続けなければならないのは、愛する人たちとのつながりを失いたくないからだ。

Facebook「中毒」という物言いは、同社自身の神話、つまり、広告主への謳い文句に加担することになる。Facebookは「ビッグデータ」と「ドーパミンループ」に熟練した神経魔術師であり、誰にでも何だって売ることができる、だからFacebookの広告を購入すべきだ、というわけだ。

もっと単純な説明――Facebookがあなたの愛する人たちを人質にとっていて、その人たちとのつながりを失いたくないがために嫌でも我慢している――のほうが、「悪しき魔術師師」説よりもよほど説得力がある。なによりFacebookが洗脳光線を発明したなどという非現実的な妄想を受け入れずに済む。一方で「人質」説は、目に見え、簡単に検証できる事実――つまり、あなたがFacebookを離脱すると、残った人たちにメッセージを送信できなくなるという事実に基づいている。

経済学者は、これを「スイッチングコスト」と呼ぶ。あるサービスから別のサービスに乗り換える際に、諦めなければならないあらゆるものを指す。実際、Facebookのプロダクトマネージャーは、スイッチングコストを可能な限り高めるように意図的に設計していることを社内で非常に率直に語っている。

https://www.eff.org/deeplinks/2021/08/facebooks-secret-war-switching-costs

Facebookから簡単に離脱できるようになれば、Facebookといえどもユーザを丁重に扱わなければならなくなる。だが、Facebookからの離脱に苦痛が伴うとなれば、どれほどユーザを虐げてもユーザはなかなか離れてはいかない。スイッチングコストが高ければ高いほど、ユーザ離れのリスクを負うことなく、ユーザを乱暴に扱うことができるのだ。

デジタルテクノロジーは、本来的にはスイッチングコストは低い。なぜなら、我々が作り方を知る唯一のデジタルコンピュータ――チューリング完全フォン・ノイマン型マシン――は、我々が書き方を知るあらゆるプログラムを実行できるからだ。新しいものを古いものに接続する方法は、いつだって、誰にだって、編み出すことができる。

新しいものを古いものに接続することを相互運用性(interoperability)という。Facebookに新しいサービスを接続し、Facebookに残してきた友人にFacebookの外からメッセージを送信し続けられるようにすることに技術的な障害はない。もしFacebookがFacebook以外の多数のサービスと連合していたなら、スイッチングコストは劇的に低かっただろう。

容易に離脱できるようになれば、Facebookはユーザの待遇を改善せざるを得なくなる。とはいえFacebookの悪名高い企業文化を考えれば、スイッチングコストが低減してもユーザを虐待し続けるかもしれない。だがそうであっても、ユーザは簡単にFacebookを離脱し、もっと良いサービスを見つけることができるのだから、さほど問題にはならない。

こうした想像上の「相互運用可能なFacebook」は、私がEFFとともに立ち上げた「友人を失わずにFacebookを去る方法」のテーマでもある。

https://www.eff.org/interoperablefacebook

このプロジェクトの原動力は、EUデジタル市場法(DMA)に対する我々の不満だ。この法律は、あらゆるテック企業にライバルへのAPIの提供を義務づけることでスイッチングコストを低減させるという、非常に有望な相互運用性法だ。

https://www.eff.org/deeplinks/2022/04/eu-digital-markets-acts-interoperability-rule-addresses-important-need-raises

だがDMAは、相互運用性の義務づけをわざわざWhatsappやiMassageなどのエンドツーエンド暗号化(E2EE)メッセージングサービスから始めてしまった。この方針はおそらくは大きな混乱を招くことになってしまうのだが、その結果として相互運用性という考え方自体が完全に否定されてしまうことを懸念している。

重要なポイントは、セキュアな暗号化メッセージングというものは非常に難しく、わずかなエラーを含んでいただけでも、(EU域内にとどまらず)そのサービスを利用する世界中のユーザが危険にさらされるということだ。豊富な資金を持つNSOグループのような悪質なサイバー傭兵企業は、こうしたわずかなエラーを武器に、世界最悪の独裁国家のための盗聴ツールを作ってしまう。

NSOのPegasusのようなサイバー兵器は、野党勢力や人権活動家、ジャーナリストを攻撃するために使われている。Pegasusはサウジアラビア政府によるジャマル・カショギの誘拐・殺害・遺体切断事件でも重要な役割を果たした。

E2EEの相互運用化自体は素晴らしいアイデアだが、それは細心の注意を必要とする長期的な標準化プロジェクトとして進められるべきだ。DMAはE2EEの相互運用に非現実的なスケジュールを課している。おそらく、EUがこの期限を見直すことになるか、最悪の場合にはセキュリティ上のリスクに目をつぶって生煮えのスタンダードを押し通すかのいずれかになるだろう。

とりわけ、相互運用可能なソーシャルメディアというアイデアは、世界最大のテック企業の市場支配力を打ち砕く方法であることが明らかであるのに、EUがE2EEから取り掛かるというのも、いささか不可解である。

EUの政治家たちはみな、SMSという相互運用可能なメッセージングツールを使ったことがあるはあるだろう。ブリュッセルでオランダの電話から、スペインで休暇を過ごすドイツの同僚にメッセージを送ったことがあるなら、マルチベンダーのシームレスで相互運用可能なメッセージングシステムという概念は容易に理解できるだろう。

問題は、SMSがトンデモないセキュリティリスクを抱えていて、災害級の惨事を何度も引き起こしてきたということだ。たしかにSMSは便利だが、欠点があまりにも大きすぎる。

一方、相互運用可能な連合型ソーシャルメディアという概念は、(Googleの囲い込みによって窒息死した)Usenetの死や、ブログとその後継者の囲い込みによって、数十年前に息の根を止められた。E2EEから手を付けることにした政策決定者たちは、連合型ソーシャルメディアというものを経験したことがないため、それがどのようなものであるかを容易に想像するすべを持ち合わせていないのだろう。

そこで、この「相互運用可能なFacebook」を立ち上げることにした。このプロジェクトは連合型ソーシャルメディアがどのように機能するかを説明するものだ。

  • Facebookから、組合・非営利団体・スタートアップが運営する相互運用可能なプラットフォームにアカウントする方法
  • メッセージ送信の同意を友達から得る方法
  • Facebookの禁止事項を許可したり、その逆など、連合型サービスはFacebookとは異なるモデレーションポリシーを課すことができる

相互運用可能なソーシャルメディアがどのようなものかを想像するのは難しいかもしれないが、一部の議員たちはこのアイデアを理解している。たとえば、米国のACCESS法はソーシャルメディアに相互運用性を義務づけようとしている。

ACCESS法を成立させ、DMAを軌道に乗せ、「他の4つのウェブサイトのテキストのスクリーンショットで埋め尽くされた巨大な5つのウェブサイト群」で構成されるインターネットから脱却するためには、相互運用性という概念への国民的支持が必要になる。

https://twitter.com/tveastman/status/1069674780826071040

なぜ相互運用性が必要なのか、それがどのように機能するのかを理解してもらうために、我々はこのデザインフィクションを作成した。邪悪な魔術師が我々を「中毒」にさせているという自己満足的なビッグテックのストーリーを越えて、本当の問題に焦点を当てなければならない。ビッグテックは我々の愛する人たちを城壁に閉じ込め、人質にしている。我々はその壁を打ち壊さなければならない。

※ 上記の動画はオリジナルの動画に日本語翻訳字幕をつけたものである。オリジナルの動画はこちらから
Pluralistic: 19 Sep 2022 How to ditch Facebook without ditching your friends – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: September 19, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Thought Catalog