以下の文章は、TorrentFreakの「Tor Project Unblocked But Russia Demands Censorship, Embroils Google」という記事を翻訳したものである。
昨年12月、プライバシー保護・検閲回避ツール「Tor」の主要ドメインがロシア当局にブロッキングされた。その後、デジタルライツ活動家らが異議申し立て訴訟を起こし、ブロッキングの撤回に成功した。現在、TorProject.orgへのブロッキングは解除されたものの、検察は新たな法廷戦略で巻き返しを図るとともに、検閲路線の拡大を進めている。検察側は、Torブラウザを禁止し、Google Playから削除されなくてはならないと主張している。
ロシア政府は長年にわたり、反対意見の抑圧や政府のナラティブ(訳注:プロパガンダ)の拡散のために検閲に頼ってきた。その結果、ロシアではフィルタリングされていないインターネットアクセスが脅威とみなされるようになった。
ロシアでは、ISPがアクセスさせてはならないサービスを列挙した膨大なドメイン名・IPアドレスのブラックリストが作成されている。FacebookやInsragramの背後の「過激派組織」であれ、BBC NewsやGoogle Newsであれ、あるいは数千のストリーミングサイトやトレントサイトであれ、そのアクセスは日常的に遮断されているのである。
必然的に、ロシア市民はこうしたブロッキングをVPNやTorなどのツールを駆使して回避することで対抗するようになった。一方、政府当局も、ブロッキングされたリソースへのアクセスを提供するツールそのものを禁止しブロッキングの対象とすることで対抗した。
昨年、ロシアはTorノードと公式サイトであるTorProject.orgのブロッキングを開始した。Torは下院情報政策委員会の委員長によって「絶対悪」の烙印を押され、犯罪者のためのツールとみなされたのである。
活動家たちの抵抗
TorProject.orgのブロッキングは異例だった。ISPブロッキング実施の許可自体は2017年にサラトフ地方裁判所で認められていたが、同国の通信規制当局ロスコムナゾールがTorプロジェクトへのブロッキングを警告したのは2021年12月上旬のことだった。Torプロジェクトは技術的な対応に加え、法的な抵抗が必要だと判断した。
Torプロジェクトはデジタルライツ団体のRoskomsvobodaと連携して、サラトフ地裁に控訴した。彼らはブロッキングの決定がTorの代表者に反論の機会を与えずに下されたものであり、手続き上の権利を侵害しているとしてブロッキングの決定を取り消すべきだと主張した。
ブロッキングの決定取り消し
Roskomsvobodaの弁護士により、控訴が成功したことが明らかになった。エカテリーナ・アバシナ弁護士は、Torプロジェクトの排除が「決定を無効にする絶対的な根拠」であり、裁判所もこれに同意したと話している。ドメインブロッキングの解除が命じられたものの、完全な勝利とはいえない状況が続いている。
ロシアの法律にはTorのような匿名化ツールに関連する情報発信を禁止する規定はないというTorプロジェクト側の主張は、検察官と通信規制当局ロスコムナゾールによって否定されている。ロスコムナゾールに至っては、裁判所はあらゆる情報を禁止情報と認定する「無制限の権限」を持っているとまで主張している。
裁判官は、こうした議論を控訴審で取り上げる必要はないとして、この事件を新たな裁判で審理するよう命じた。審問は今週にも予定されており、Torプロジェクトは参加を許可されることになっている。だが、ロシアの検察官はこの機に乗じて新たな当事者を登場させ、争点となっているドメイン以外にもTorへのブロッキングを拡大しようとしている。
Googleを巻き込む検察
Roskomsvobodaが伝えた予想外の展開によると、サラトフ検察はTorプロジェクトのブロッキング裁判にGoogleを巻き込むことを決定したという。検察は、裁判所に以下のことを要請している。
- Tor Browerソフトウェア・アプリケーションを含む情報がロシア国内で禁止されることを認定すること
- Google Playで公開されているTor Browserアプリケーションの公開を禁止すること
- Tor Browserアプリケーションへのアクセスを制限すること
- Google PlayからTor Browserアプリケーショのを削除するようGoogle LLCに命じること
この裁判にGoogleを巻き込むことが、どのような影響をもたらすかはわからない。Googleが断固として戦うことを決意し、強く抵抗すれば、Torプロジェクトを間接的に支援することになるかもしれないし、Torプロジェクトが望まぬかたちで事態が複雑化するのかもしれない。
Googleとロシアの情報戦争
先週、Googleのロシア法人は、ロシア政府に銀行口座を差し押さえられたことで破産を申請し、従業員をモスクワから移動させると発表した。この差し押さえは、オンラインでの禁止コンテンツ、許可コンテンツに関するロシア政府の意向に結びついたものだ。
Googleはこの1年間、モスクワが要求する「禁止」コンテンツの削除を拒否したとして、繰り返し罰金を科されてきた。GoogleのYouTubeもロシア国有メディアのチャンネルへのアクセスを制限したことで、クレムリンを激怒させた。ただ、ロシア政府が求めてきた検閲に関しては、Googleは他の企業よりも協力的であったように思える。
注目すべきは、Googleがロシア政府からの多数の要請に応じて(訳注:邦訳記事)、検索結果から数万件のURLを削除していることだ。削除されたURLは、他のほとんどの地域で完全に合法なVPNサービスにリンクしているが、ロシアでは禁止情報へのアクセスを可能にするツールとして違法化されているのである。
ロシア当局は機能的観点から、VPNとTorとの間にはほとんど違いはないと考えている。いずれもクレムリンが阻止したい「禁止」情報へのアクセスを可能にするという点で共通しているためだ。CIAがロシア人情報提供者をリクルートするためにInstagramを使用し、露見しないようにTorの使用を推奨していたという事実も、この問題に関係してくるのかもしれない。
Torプロジェクト Unblocked But Russia Demands Censorship, Embroils Google * TorrentFreak
Author: Andy Maxwell / TorrentFreak (CC BY-NC 3.0)
Publication Date: May 27, 2022
Translation: heatwave_p2p
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