以下の文章は、EDRiの「Johansson’s address to MEPs shows why the CSA law will fail the children meant to benefit from it」という記事を翻訳したものである。
2022年10月10日、EU内務担当委員のイルヴァ・ヨハンソンは、EU児童性的虐待規則案(2022/0155)について欧州議会の市民自由(LIBE)委員会で説明した。この説明は、オンラインでのすべての人のプライバシー、セキュリティ、表現の自由に対するリスクから、市民的自由団体、データ保護当局、さらには政府から数カ月にわたる批判を受けてのものである。
EUは、子どもの保護の名のもとに、暗号化を破壊する危険な技術を用いてでも人々のプライベートなメッセージを監視し、適法なオンラインサービスへのアクセスを阻害しようとしている。
EU児童性的虐待規則案は、児童性的虐待資料(CSAM)の拡散を阻止することを目的としている。にも関わらず、この法律案は、我々のデジタルチャットやメッセージ、メールのプロバイダに、我々が何を入力し、何を共有しているのかを常に監視させるものとなっている。さらに、合法的なオンライン空間から匿名性を排除したり、あらゆるデジタルデバイスに危険なソフトウェアをダウンロードさせることにもつながるおそれがある。
国連の最高人権機関が述べているように、プライベートな生活をおくる権利はすべての人々の安全を守っている。ここにはジャーナリスト、人権擁護者、マイノリティ、そしてもちろん子どもたち自身も含まれる。
EUが提案する法律は、若者のプライバシーとセキュリティの侵害を義務づけるものであり(たとえば危険な暗号化バックドアを組み込むことによって)ありとあらゆる害を呼び込むと同時に、児童性的虐待のサバイバーや若い活動家など、オンラインでひどいハラスメントにさらされている若者が必要とするデジタルプライベート空間を奪う。
また、無国籍者やロマの若者など、社会から阻害された若者がメッセージングサービスにアクセスできなくなるおそれもある。LGBTQ+の若者にとってとりわけ有害なのは、同意の上で適法に性的自己表現を模索する若者すら報告してしまうことだ。また、サービスプロバイダにソーシャルメディアへのアップロードを検閲するよう要求したり、子どもたち(そしてすべての人々)の携帯電話を攻撃に対してより脆弱にしてしまうことにもなる。
加害者が家族の場合、虐待から逃れるためのデジタルコミュニケーションから被害者が締め出される危険性もある。児童保護の専門家が指摘するように、児童虐待のサバイバーの9割が知り合いに虐待されていた。サバイバーのアレクサンダー・ハンフは、監視は子どもたちが虐待を通報しづらくすると警告している。
児童への性的虐待が忌むべき重大な犯罪であることは、EUの規則案のアプローチの正しさを保証するものではない。
EU議会の政治家たちは、この問題に適切に対処しなくてはならない。欧州委員会の審査委員会からリークされた資料によると、彼らはこの提案が違法な一般監視に該当する可能性を認識していることが明らかになっている。また、必要性と比例性という重要な人権基準にも合致していない。
なぜなら、提案されている措置は極めて侵入的であり、違法行為の証拠がある者をターゲットにするのではなく、インターネットを利用するすべての人を容疑者として扱うためである。これは推定無罪や法の支配などの重要な原則を損なう。もしこの法律が可決されたとしても、いずれ司法裁判所に無効とされ、結局振り出しに戻ることになる。それでは誰も救われない。
この規則案は技術的に中立ではなく、技術的にナイーブであり、欧州委員会の提案しているようなかたちで実施することは不可能である。
CSA規則は、独立した検証や精査もなく、民間企業から提供された精度の主張に頼っている。公開された僅かな証拠からも、これらの統計が信用に値せず、新規則が膨大な量の誤通報をもたらすことが示唆されている。欧州の警察は、すでに受理したCSAの報告に対処しきれていない。我々が近々公表予定のポジションペーパーでは、CSA規則がこの問題を悪化させるだけであることを説明している。
この提案では、エンドツーエンド暗号化メッセンジャーのプロバイダでさえ、プライベートメッセージの内容をスキャンするよう義務づけられるおそれがある。世界中のテクノロジーの専門家の評価は極めて明確だ――これを暗号化の完全性を尊重した上で安全かつセキュアに実施することは不可能で、プライバシーの権利の本質を侵害する可能性すらある。
子どもを含む全ての人にとって安全なインターネットを確保するために、EUはCSA規則に代わるより良い方法を追求しなければならない。114の市民社会団体がEUに法律案の撤回を求めているのはそのためだ。
若者を常時監視し、デジタルプライバシーを奪うのではなく、デジタル世界を安全に渡り歩けるように教育し、エンパワーしなければならない。子どもの権利団体の多くは、制度的な支援ばかりではなく、子どもたちが通報窓口を利用できるようにすることを求めている。また、子どもの保護、貧困対策、被害家族支援などの福祉への投資を拡大する必要性も強調している。
欧州全域の警察と司法当局がCSAに対応できるようにするには、被害者家族が司法にアクセスできるようにすることも含め、抜本的な改革が必要となる。また、非現実的な「応急処置」に頼るのではなく、既存の規則(2011年Child Sexual Abuse Directiveなど)や常識的な対策を実施し、予防にさらなる投資を行わなければならない。EUのデータ保護当局が確認しているように、これらの措置は「保護しようとする者に害をもたらす」可能性すらある。
Johansson’s address to MEPs shows why the CSA law will fail the children meant to benefit from it – European Digital Rights (EDRi)
Author: Ella Jakubowska / EDRi (CC BY-SA 4.0)
Publication Date: October 10, 2022
Translation: heatwave_p2p