Wantedlyに恨みはないが、あまりにも下劣かつ不埒なやり口であると思われたので、全力で批判したい。
インターネットに特化した求人情報サイト「Wantedly」を運営するウォンテッドリー株式会社が、「Wantedly(ウォンテッドリー)のIPOがいろいろ凄いので考察」と題したブログ記事について、Googleに検索結果からのDMCA削除を要請した。同記事からは既に削除されているが、当初はウォンテッドリー創業者でCEOの仲暁子氏の顔写真が掲載されており、それがウォンテッドリーの著作権を侵害しているため、検索結果から削除してほしい、というわけだ。
これだけを聞けばそれほど問題がないようにも思われるが、既に報じられているように、状況から総合的に推測すれば、自社に不都合な記事へのアクセスを防ぐために、DMCAを悪用したとしか思えない。
DMCAとは
ウォンテッドリーがGoogleに対して、検索結果から当該記事を削除するよう申し立てた根拠は、米国のDMCA(デジタル・ミレニアム著作権法)という法律だ。
DMCAは、ユーザ投稿型のインターネットサービス提供者に、ユーザの著作権侵害を免責させる条件を定めている。たとえばYouTubeには大量の著作権侵害ビデオが投稿されているが、その責任を負わされてはいない(もちろん、批判も多い)。そうしたユーザの著作権侵害に対する責任は、DMCAで求められている対処を確実に行っていれば、サービスの提供者が負わなくても良い、ということになっているためだ(いわゆるセーフハーバー条項)。裏を返せば、DMCAに定められた対処をしなければ、ユーザの著作権侵害の責任を負わされるということでもある。
では、サービス提供者は何をしなければならないか。1つは、著作権者から著作権侵害の申し立てがあった場合、当該のコンテンツの提供を中止すること(いわゆるDMCA削除)。もう1つは、著作権侵害を繰り返すユーザに適切に対処すること。特に前者のDMCA削除は、たとえば映画や音楽のクリエイターが迅速に削除されなければ被害が拡大する、という事態を防ぐために、問答無用で削除されることになっている(投稿したユーザに異議申し立ての機会が与えられるのは、削除後となる)。
このDMCA削除は、基本的に手続き上の誤りがなければ受理され、たとえ不当な申し立ててあってもとりあえず削除されてしまう、という問題を抱えている。その理由としては、サービス提供者は莫大な数の削除申し立てを処理しなくてはならないこと、不当な削除申請に対するペナルティがないこと、サービス提供者が削除申請を受理しないメリットがないことなどがある。
そのなかで、DMCA削除の濫用が問題視されつつある。手続き上の不備がなければだいたい通ってしまうために、適法な利用(たとえばフェアユース)であったとしても、削除されてしまうケースが後を絶たない。自らにとって不都合な情報をネット上から排除するために、このDMCAが悪用されているのだ。
ウォンテッドリーは悪評を排除しようとしたのか
ウォンテッドリーが行ったのは、まさにそのDMCAの悪用だ。
もちろん、件の記事が仲氏の画像を無断で使用したことについては、議論の余地はある。しかし状況から推測するに、それはDMCA削除申し立てを行うに至った直接的な理由ではないだろう。
著作権侵害によって被る直接的損失は?
著作権とは、クリエイターの直接的(経済的)利益を保護するための制度であるのだが、件の記事で使用されることによってそれが毀損されるとは思い難い(使用料を支払えばよかったか、という問題ではない)。もちろん、直接的利益によらず、どう使われるかは著作権者のみが判断しうるものではあるが、裏を返せば、都合の悪い内容の記事なのでそのなかでは使われたくはない、ということである。
なぜ著者に直接削除を申し立てなかったのか?
写真の無断使用が著作権者に損害を与えているのであれば、検索結果から削除されることよりも、当該の記事から削除されるほうが有効な対処と言える。件の記事は、企業のオウンドメディアともいえる媒体であり、筆者はその社長である。削除を要請しても応じてもらえないという相手ではない。
にも関わらず、相手に要請するのではなく、GoogleにDMCA削除を申し立て、検索結果からの削除を求めるというのは、ウォンテッドリーにとって削除してほしい対象が、写真そのものではなく、記事の内容にあったのではないかと推測される。
継続的に削除申し立ては行われていたのか?
インターネット上のサービスに対してなされたDMCA削除申し立てを収集し、データベース化しているlumendatabase.orgというプロジェクトがある。このサイトでは、DMCA削除手続きの透明性を高めるため、誰が、どこ(のURL)に対して、何を根拠にDMCA削除を申し立てているかを知ることができる。
では、ウォンテッドリーはこれまでどういった相手にDMCA削除を申し立ててきたのか。
Lumenのデータベースでは22件ヒットしたが、そのすべてが「Wantedly(ウォンテッドリー)のIPOがいろいろ凄いので考察」の記事に関連したもので、それ以前に仲氏の写真に関連した削除の申し立ては行われてはいない。
さらにこの記事そのものだけではなく、ツイッター社にこの記事に言及したツイートを削除するよう求めてもいる。残念ながら、ツイッター社に対する申し立てには記述がなく、その理由については知ることはできないが、おそらく当該記事のURLをツイートしたことを理由に削除を申し立てたのだろう。
しかし、削除を申し立てられたツイートがそれぞれ仲氏の写真をアップロードしていたとは思い難く(もしかしたらスニペット機能で表示されていたのかもしれないが、それは各人のツイートを削除する理由にはなり難い)、適法なリンク行為を著作権侵害だと主張した不当な削除申し立てであるといえる。こちらも悪評がツイッター上で拡散するのを防ぐために不当に削除させたとものと推測される。
情報の恣意的な遮断は許されない
ウォンテッドリーが悪評を封じようとしてDMCA削除を申し立てた、というのはあくまでも私の推測にすぎない。しかし、状況証拠からは、著作権侵害が問題だったのではなく、当該記事の内容が問題であったようにしか思えない。また、当然ながら第三者からは何を意図して行われたのかは推測の域を出ることはできない。
一部ブログ記事で利用されていた画像に関しまして、有識者に意見をいただきながら社内で協議した結果、当社が著作権を有する画像の無断使用はやめていただきたいとの判断に至りました。
ウォンテッドリーからこのような説明なされてはいるが、なぜ当該の記事のみが削除申し立てに至ったかについての説明は十分ではない。その経緯について明らかにならなければ、上記の説明だけで納得できるはずがない。
著作権侵害だけが問題なのであれば、当事者間の問題として処理されるべきなのだろう。しかし、情報の遮断を意図していたのであれば、これは当事者間の問題ではなく、万人にとっての問題なのである。我々の情報の取得を阻害する悪意ある試み――それは検閲にほかならない。ネット企業であるはずのウォンテッドリーが、このような不埒なやり口で言論を封殺し、検閲を試みる。本当に残念でならない。国内でもDYMがしでかした事件があったというのに、そこから何を学んだのだろうか。
当該の記事の指摘が、正しいのか誤りであるのかはわからない。しかし、誤りであるのだとしても、システムを利用した検閲によって排除することはあってはならない。
皮肉なことに、検閲を試みたことによって、ウォンテッドリーにとってもっとも望まない結果がもたらされたといえるだろう。封じ込めたかったはずの悪評が、もとの数十倍、数百倍と拡散し、さらに悪評を不当に排除しようとしたというさらなる悪評を招いたのだから。