以下の文章は、電子フロンティア財団の「The New Filter Mandate Bill Is An Unmitigated Disaster」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

ビッグコンテンツはSOPA/PIPAの敗北後、可決必須の法案に潜り込ませなければならないほど支持されず、違憲も甚だしいCASE法案をはじめ、著作権法制への介入は水面下での取引に注力してきた。だが、SOPA/PIPAの敗北からちょうど10年がたった現在、SOPA/PIPAと同等にひどい法案を真正面から求めるようになっている。今回こそ、インターネットブラックアウトに潰されないことを祈りながら。

SMART著作権法(SMART Copyright Act)という皮肉な名が冠せられたこの法案は、米国議会図書館に他の政府機関と「協議」して、インターネットサービスが著作権侵害に対処するために使用しなくてはならない「技術的手段」を指定する権限を与える。この法律は、著作権局にインターネット技術やサービスに関する規則を定める権限を与える一方、異議申し立ての機会をほとんど与えない。

まず、背景から少し説明しよう。デジタルミレニアム著作権法(DMCA)にはセーフハーバー(法的責任の免除)の規定がある。このセーフハーバーは、編み物のサイトからあなたのISPまで、あらゆる仲介者やプラットフォームの生存に不可欠なものとなっている。DMCAでは、このセーフハーバーの保護を受けるための要件の1つとして、プロバイダはオンライン著作権侵害を取り締まるためのあらゆる「標準的な技術的手段(standard technical measures)」に対応しなければならないとした。議会は賢明にも、そのような措置が「オープンで公正、自発的、業界横断的な標準化プロセスにおいて、著作権者とサービスプロバイダの幅広い合意に基づいて開発される」ことを要求した。現実問題として、(訳注:DMCAの施行から20年以上が経過した現在でも)そのような幅広いコンセンサスは得られていないし、それを開発するための「業界横断的な標準化プロセス」さえも存在していない。その理由は無数にあるが、最大の理由の1つは、1998年以降、サービスプロバイダと著作権者の双方が爆発的に増え、多様化したことがある。それぞれの業界や権利者は、構造も技術も利害も千差万別である。その一方で登場したのが、一民間企業が独自に開発・導入した自動フィルタであり、多くがプラットフォームレベルで導入されている。だが、一部の影響力のある著作権所有者たちは、こうした(訳注:自発的に開発・導入された)技術をすべてのレベルにおいて法的要件にすべきだと主張している。

このSMART著作権法案は、DMCAが定めたコンセンサスや公正なプロセスという概念をすべて捨て去って、新たなプロセスを設定することで、著作権所有者たちの望みを叶えようとしている。業界間のコンセンサスや公正なプロセスではなく、米国議会図書館帳に技術的手段の指定を担当させ、事実上全てのサービス提供者にその遵守を義務づけようとしているのである。

この法案はどう修正しようとマトモになることはない。その理由を数えていくことにしよう。

技術的義務化は必ず適法な表現を抑制する

数十年もの間、ビッグテックは彼らが愛する技術的手段であるフィルターを導入することで、ビッグコンテンツのご機嫌を取ろうと苦心してきた。その代表例とも言えるYouTubeのコンテンツIDシステムは、YouTubeが管理するデータベースに著作権者がコンテンツをアップロードすることで機能している。ユーザが新たにアップロードする動画はデータベース上の権利者のコンテンツと比較され、アルゴリズムが一致を検出すると、システムは削除や収益化(その利益は著作権者にもたらされる)など著作権者が選択したデフォルトルールを適用する。また、権利者は一致を通知されることで、DCMAクレームによってクリエイターのアカウントを凍結の危機に陥らせることもできる。

10年に渡る調整と1億ドルを超えるサンクコストにもかかわらず、コンテンツIDは定期的に間違いを犯している。たとえば2015年、セバスチャン・トムザックがYouTubeにアップロードした10時間のホワイトノイズ動画がそうだ。アップロードから数年後、YouTubeのコンテンツIDシステムは、トムザックの動画に複数の著作権クレームを送った。トムザック自身が制作したはずの音声に、5つのクレームがそれぞれ別個の権利者から送られてきたのである。その権利者たちはトムザックの動画の削除ではなく、収益化を選択していた。つまり、トムザックの同意なしに動画に広告が貼られ、トムザックが作った音声の権利を主張する第三者に収益をもたらすことになるのである。また、2020年にはCBSがComic-Conで開催した自社の展示のライブ配信が遮断されたりもしている(訳注:CBSがコミコン会場から自社コンテンツであるStar-Trekのパネルをライブ配信したところ、CBSのコンテンツを利用していることを理由にYouTubeのライブ配信を中断(Video unavailable)された)。さらに、YouTubeのクリエイターたちは、どれほど明らかに合法的であっても、著作権フラグを恐れて動画に音楽を使用しないようにしていると報告している

Faebookでも状況は同じだ。たとえば、Facebookのフィルターは、同じパブリックドメイン作品の2つの別個の演奏を見分けることができないため、ある作品の特定の演奏に対する著作権者の権利主張によって、それとは無関係な演奏者による演奏をブロックしてしまうことがある。その結果、あるニュースの見出しに書かれたように、「著作権ボットとクラシック絵音楽家とのオンラインバトル ボットの勝利」という状況にある。

外部のツールはさらにひどい欠陥を含んでいることもある。たとえば、Topple Trackという「コンテンツ保護サービス」は、Googleの検索結果からサイトを不当に削除するために、悪質な削除通知を大量に送付していた。Topple Trackは同社が「Google Trusted Copyright Programの主要メンバー」だと豪語していたにもかかわらず、Topple Trackのアルゴリズムは制御不能で、EFFの事例ページ、ビヨンセブルーノ・マーズの正規の音楽配信、愛国ソングに関するニューヨーカーの記事などを標的に、不当な通知を繰り返し送信した。さらにTopple Trackは、自動化された不当な著作権通知に懸念を表明する欧州議会議員のブログ記事を標的に不当な通知を送信していたのである。

問題の本質は、合法的な使用と違法な使用を区別するためには、通常は文脈が必要になるということだ。たとえばフェアユース分析における「量と実質性」の要素は、使用の目的によって異なる。つまり、音楽批評のように数秒の使用で足りる場合もあれば、音楽パロディのように曲全体が使用されることもある。このような違いは人間であれば判断できるが、自動化されたシステムには判断できない。

技術的義務化は競争を阻害する

フィルタリングなどの技術的措置の導入を義務づけてしまえば、高価なフィルタリングシステムを開発・導入できる潤沢なリソースをもつサービス事業者を優遇し、新規サービスへの投資を抑制し、技術的イノベーションのインセンティブを損なうなど、インターネットサービス市場を歪めることになるだろう。

実際、最大手のテック企業は、法案が義務づけようとしている技術的手段、あるいはそれに類するものを導入しており、義務化による負担の大部分は中小規模のサービスにのしかかることになる。コンテンツのホスティング・送信事業のコストに、著作権フィルターの構築と維持まで上乗せされてしまえば、投資家はもっと割の良い投資対象を探すようになり、現在のテックジャイアントの地位は競争の不在によってさらに強固なものになるだろう。

技術的義務化がもたらすセキュリティ/プライバシーリスク

技術的義務化は、実質的にセキュリティとプライバシーの懸念を引き起こす。例えば10年前、SOPA/PIPAの一部としてDNSフィルタリングが提案された際、セキュリティ研究者たちは異議を唱え、コストが便益を遥かに上回ってしまうと警告した。また、83人のインターネットのパイオニアや著名エンジニアらがサイトブロッキングなどの措置が引き起こす弊害について指摘したように、インターネットインフラに干渉するような措置は、必然的にネットワークエラーやセキュリティの問題を引き起こすことになる。これはネットワークを検閲する中国やイランなどの国ですでに見られていることであり、アメリカの検閲であっても、検閲がDNS、プロキシ、ファイアウォールなどどのレベルで行われようと、同じことが起こるのである。今日、我々が格闘しているネットワークエラーやインセキュリティは今後さらに拡大し、米国政府がブラックリストに載せるサイト以外にも影響を及ぼすことになるだろう。

ネット上の権利侵害を阻止する責任を大小のサービスプロバイダに押し付けようとうする一部の著作権者の野望ではなく、堅牢かつ信頼できるオープンなインターネットという重要な公益にこそ道は開かれるべきである。

技術的義務化は議会図書館に分不相応なイノベーションへの拒否権を与える

法案提出者は、競争、プライバシー、セキュリティへの影響のみならず、さまざまな公益への配慮を含むとされる指定プロセスを通じて、上記のデメリットの少なくとも一部を軽減しようとはしているようである。議会司書がさまざまな悪影響の評価に必要な専門知識を有しているとは考えにくいため、法案では専門知識を有する他の政府機関と競技することを求めている。

ここには、少なくとも2つの致命的な問題がある。第一に、これはせいぜい善意あるワシントンDCの官僚たちが、エビデンスと専門知識を提供する余裕のある人たちから寄せられた情報ばかりを見て、我々がどのようにテクノロジーを構築し、使用するかを決定することを意味しているのである。新興企業、中小企業、独立系クリエイター、そして一般ユーザなど影響を受けるであろうすべての人々が、このプロセスについて知ることも、ましてやその中で発言することなど望めそうにない。

第二に、してこの法案全体の最も皮肉な点として、提案されている仕組みは米国図書館がすでに3年毎に行っている1201条免責プロセスをモデルとしていることだ。このプロセスに実際に参加したことがあれば、このプロセスが最初から破綻していることは身に滲みて理解しているだろう。

DMCA1201条は、著作物へのアクセスを制御するデジタルロックを「回避」すること、およびデジタルロックを回避する装置の製造・販売を禁止している。だがそれでは適法なフェアユースを阻害する可能性があるため、同法では議会図書館が3年毎に規則制定プロセスを行い、そのような利用に対する免除を特定・付与する権限を与えている。この「安全弁」とされるプロセスは、文字通り安全弁以上の役割を果たすものではない。それどころか、拘束力のあるスタンダードを持たず、技術革新のスピードに対応できず、臨床実習生や公益団体の活動によってなんとか機能している、負担と費用ばかりがかかるスピーチライセンシング体制が構築されただけに過ぎない。3年ごとに著作権局に出向くために費やされたエネルギーは、もっとより良い活動に活かせたはずなのに。

さらに悪いことに、適法な表現のための1201条免除は更新されなければ失効するのに対し、いったん採用された技術的義務は異議申し立てが認められるまで半永久的に継続する。言い換えれば、フェアユースの保護には高いハードルを課しつつ、フェアユースの妨害をより容易にしようとしているのである。

もっと悪いことに、議会図書館は技術的義務化の指定と、フェアユースの目的での適法なデジタルロック回避の指定の両方を担当することになるのである。これは恐るべき権力であり、いかに善意があろうとも、ワシントンDCの弁護士集団の手に委ねるにはあまりにも過ぎた権限である。1201条が施行されてからの6年間、著作権局が意味のある免除を1つも認めなかったことは記憶に新しい。今後6年間のイノベーティブな新サービスや、ビッグテックに対抗しうるチャレンジャーの芽が摘まれることになったとしたら、その未来はどのようなものになっているか想像してみてほしい。

エンターテイメント産業のためにインターネットを作り変えるなどというのは、10年前であろうと現在であろうと間違った考えである。この危険な法案は取り組むべき価値すらない。

The New Filter Mandate Bill Is An Unmitigated Disaster | Electronic Frontier Foundation

Author: Corynne McSherry / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: March 21, 2022, 2022
Translation: heatwave_p2p