YouTubeにおける動画の削除について、あまり知られていない部分もあるようなので、YouTubeに投稿した動画が削除されてしまった方、YouTubeの削除の仕組みを知りたい方の参考になればと思い、電子フロンティア財団(EFF)の「A Guide to YouTube Removals」を翻訳しました。

削除の理由や、削除された際に取りうる選択肢とそれに伴うリスクなどが説明されています。米国の法律を前提ににした説明のため、日本とは事情が異なる点がありますが、YouTubeでの手続きとしてはほぼ同じなので、その辺りは参考になるかと。


なぜビデオは削除されたのか?

ビデオが削除された理由は、通常、YouTubeからアカウント所有者にメールで通知されます。YouTubeからそのようなメールが届いていない場合には、スパムフォルダーに入っていないか、またはYouTubeアカウントに登録されているメールアドレスを確認しましょう。このメッセージは、YouTubeアカウントにも表示されるので、そちらもチェックしましょう。

利用規約違反

この種の削除は、通常、著作権とは無関係です。一般的には、ビデオがヌードや過度の暴力を含んでいたり、その他YouTubeの利用規約コミュニティ・ガイドライン違反のフラグが立てられた場合に、このような削除が行われます。また利用規約では「YouTubeは事前の通告なくコンテンツおよびユーザ投稿を削除する権限を保持する」と述べられており、YouTubeはいかなる理由でもビデオを削除することができるという姿勢をとっています。

利用規約違反による削除について詳しく知りたい方は、YouTubeのヘルプページをご覧ください。きちんと説明をすれば、YouTubeは削除の再調査や再考をしてくれるかもしれません。ただし、これは正式なプロセスではないことに留意する必要があります。

コンテンツIDとのマッチ

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YouTubeの「コンテンツIDツール」(ビデオIDツールとも呼ばれています)に引っかかったために、ブロックされるビデオも数多くあります。YouTubeはコンテンツIDを「著作権者がYouTube上にある自分のコンテンツを簡単に特定し、対処」するためのシステムだと説明しています。コンテンツIDは、アップロードされたすべてのビデオを、権利者が提出した音声・映像の「指紋」データベースと照合しています。ビデオの説明やタイトルのなかで、曲名や演奏者名に言及していなくても、コンテンツIDはビデオのなかで使用されている曲を特定することができます。ビデオがマッチしているかどうかは、ビデオの横の「マイビデオ」のページで確認できます。

権利者は「利用制限」設定により、マッチしたコンテンツをどうするかを決めています。権利者はブロック、追跡、マネタイズ(たとえば、そのビデオに広告を掲載し、その一部を収益化する)を選択できます。一般的に大手音楽レーベルは「マネタイズ」アプローチを選択しています。ほとんどの場合、人間がビデオをチェックしているわけではありません――YouTubeのコンピュータがマッチするビデオを発見し、自動的に「ブロック」の利用ポリシーが適用されます。

YouTubeが提供するこのツールを利用すれば、権利者がビデオにブロック、マネタイズのいずれを適用するかを事前に確認できます。

DMCA削除通知

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DMCA削除は、一般的には、権利者がYouTubeのビデオに著作権侵害を正式に通知することで行われます。

1998年のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)のなかで、議会は(YouTubeのような)オンライン・サービス・プロバイダに、一定の要件を満たす限りにおいて、著作権侵害の責任を免除する保護を与えました。この「DMCAセーフハーバー」の要件として、オンライン・サービス・プロバイダは「ノーティス・アンド・テイクダウン」システムを実装することが義務づけられました。もう1つの要件は、「侵害を繰り返すユーザ」のアカウントを抹消することです。

この法律があるために、YouTubeは権利者から正式なDMCA削除通知を受け取った場合に、そのビデオを削除しています。また、削除通知を受けた動画の投稿者には「ストライク」が宣告され、オンラインの「著作権学校」プログラムを受講しなくてはならなくなります。そして、アカウントに3度目の「ストライク」が宣告されると、YouTubeはそのユーザのYouTubeアカウントを抹消し、投稿されたビデオをすべて削除します。そのYouTubeアカウントの復旧も拒否します。

DMCA削除通知が有効であるためには、一定の要件を満たす必要があります。たとえば、侵害コンテンツを明確かつ具体的に特定すること、送付者が当該コンテンツ著作権侵害を誠実に信じていることなどです。しかし、単にキーワードだけに基づいた、あるいは完全に自動化されたプロセスによる不当な削除通知、削除が頻発しているのも事実です。

もしビデオがDMCA削除されてしまったら、必ず通知を確認しましょう。

YouTubeの「契約上の義務」

YouTubeは一部の権利者に、不適当なコンテンツを削除できる特権を与える契約を交わしています。この理由によってビデオが削除された場合、YouTubeはそのことを通知し、この削除について交渉するために権利者の連絡情報を提供します。

ビデオを復旧するためには

次に、異議申し立てを送付するか否かを考える上で重要なことを議論していきましょう。

コンテンツID削除への異議申し立て

ビデオがコンテンツIDにマッチしたために削除された場合、権利者側の人間が目視でビデオを確認しているわけではありません。デジタル指紋のマッチングはYouTubeのコンピュータが行っており、通常はブロックは自動的に行われています。異議を申し立てると権利者に通知され、ビデオは「再評価」待ちとなります。

つまり、異議申し立ては、ビデオを目視で評価させるための最初のトリガーだと言えます。権利者に雇われた人間が、そのビデオを見た時にどう思うかを自問してみましょう。「後回しでもいいや」と思うでしょうか? それとも、最優先で削除すべきだと思うでしょうか? 権利者と言っても千差万別ですから、どのようなポリシー、敏感さを持っているかは予測しようがありません。ただし、いくつか意識しておくべきことはあります。

  • 第一に、再評価を行うスタッフは、権利者の作品がまるまる投稿されることを快く思うことはないでしょう。それは彼らが「海賊版」と呼ぶものです。
  • 第二に、権利者たちは作品の使用に非常に敏感です。もしそうした使用が広範囲にわたって行われた場合、既存の、あるいは将来の収益の流れが阻害されてしまうかもしれないからです。たとえば、音楽産業は車のコマーシャルに楽曲が使用されることで、お金を得てきました。もし、誰かが自分のビジネスを宣伝するビデオをYouTubeに投稿し、そこに音楽がBGMとして無断で使用されていたとしたら、音楽産業の一部の人たちは、その使用がインターネットのビデオ広告に伴う音楽ライセンスビジネスを損ねるものだと懸念するかもしれません。
  • 第三に、権利者のなかには、批評、パロディ、リミックスなどのビデオについて、敏感な人たちもいます。もちろん、そうした行為はフェアユース(下記参照)や修正第一条によって保護されることにはなっています。にもかかわらず、一部の権利者たちは、この種の表現を封殺しようと考え、たとえ不当であったとしても、DMCA削除を行おうとします。

もし、ビデオがコンテンツIDツールによってマッチしてしまった場合、「異議(dispute)」を申し立てることができます。意義を申し立てることで、ビデオは復旧します。この手続きは当該のビデオの「著作権通知」セクションから行うことができます。その際、いくつかの質問に答えることになります。異議申し立てが受理されると、権利者はコンテンツIDのクレームを維持して異議を却下するか、クレームを取り下げるかの判断をします。この段階では、YouTubeアカウントに影響はなく、却下された異議について、いつでも3回まで再評価の申し立てができます。その場合、権利者はビデオへのクレームを取り下げるか、DMCA削除通知(上記参照)を提出することができます。権利者はコンテンツIDへの異議を再評価するために30日間の猶予が与えられます。また、却下された異議申し立てへの再申し立ての場合も30日間の猶予が与えられます。

コンテンツIDクレームへの異議申し立て手続きの際に留意すべき点は、どの段階においても権利者はDMCA削除プロセスを開始したり、提訴することができるということです。もし彼らが訴訟を起こせば、裁判費用のことを考えなければなりませんし、さらに敗訴してしまえば、多額の損害賠償や権利者側の弁護士費用を支払うよう命じられるかもしれません。

つまり、コンテンツIDツールによるビデオの削除に意義を申し立てることは、権利者の尾を踏むことであると理解すべきです。権利者がビデオは削除されるべきではなかったと判断することもありますし、単に放置されることもあります。しかし、権利者が本当にビデオをブロックしておきたいと考えた場合、そのためのもっとも簡単かつ安価な方法は、DMCA削除通知を送ることなのです。

DMCA削除への異議申し立て

ビデオがDMCA削除通知によって削除された場合、「異議(counter-notice)」を申し立てることができます。しかし、異議申し立てを有効にするためには、個人の連絡情報、署名、偽証罪に問われる可能性を理解したうえで「誤りあるいは誤認に基づいて、コンテンツが削除または無効にされた」ことの表明、および(権利者が訴訟をおこす場合の)裁判所の管轄権への承諾が必要となります。この異議申し立てを受理した後、2週間以内に権利者が著作権侵害訴訟を起こさなければ、ビデオは復旧し、アカウントに宣告された「ストライク」は破棄されます。権利者が実際に訴訟を起こした場合には、ビデオは訴訟が解決するまでブロックされ続けます。

さらに、 投稿したビデオにDMCA削除通知が提出されるたびに、そのアカウントには「ストライク」が宣告されます。合計3回のストライクが宣告されると、YouTubeはそのアカウントを抹消し、そのアカウントのビデオを全て削除します。このストライクをを取り消すためには、正式な異議申し立てを提出しなくてはなりません。

YouTubeに異議申し立てを提出すると、権利者は10営業日後にビデオを復旧することを認めるか、引き続きビデオをブロックするために訴訟をおこすか(訴訟の前に権利者から異議申し立てを取り下げるかどうかの確認の問い合わせがある場合もあります。ただしそれは必須ではありません)の2択を迫られます。それゆえ、これはコンテンツID削除への異議申し立てに比べると、リスクの大きいいゲームと言えるでしょう。権利者がビデオをブロックしておくためには、訴訟を起こす以外に方法はないからです。DMCAへの異議申し立てを送付する前に、きちんと著作権法について理解し、適切な弁護士に相談することをお薦めします。

契約違反クレームへの異議申し立て

こうした反ユーザ的な契約のもとでは、通常の方法では著作権者のクレームに意義を申し立てることはできません。多くの場合、DMCA異議申し立てが受理されたとしても、そのビデオが復旧することはありません。これらの契約は不透明で、何が可能となっているか、その範囲も定かではありません。契約期間も短期的である場合もあれば、長期的な場合もあります。

こうした契約のもとでは、フェアユースが深刻な打撃を受けています。

削除に異議を申し立てるべきか

削除への異議申し立ては、重大な法律トラブルに見舞われるリスクが伴うため、慎重に判断しなくてはなりません。以下の文章は、一般的な情報提供を意図したものであり、法律相談ではありません。ビデオを復旧させるために異議申し立てをしようとしているのであれば、まずは弁護士に相談することをお薦めします。

第一に、クレームが正しいかどうかを考えなくてはなりません。ビデオに著作物が使われていますか? その著作物を使用する権利はありますか? 著作権法は、さまざまな状況で、他者が所有する既存作品の使用を許容しています。そのなかで最も重要なのは、「フェアユース」として知られる法原理です。フェアユースにより、著作権侵害を構成する場合であっても、その行為が正当化されるのです。フェアユースに該当するかどうかを評価するにあたり、裁判所は以下の4つの要素を考慮すると言われています。

  1. 使用の性質(変形的な作品はフェアユースと判断されやすい。非商用作品も同様である)
  2. 著作物の性質(純粋に創作的な作品よりも、ニュースのような事実に基づく作品のほうが、フェアユースと認められやすい)
  3. 著作物から抜き出す程度(量的、質的のいずれにおいても)
  4. 作品の市場や価値に及ぼす影響

どの要素が突出して重要だということはありません。裁判では、全ての要素を総合的に検証する必要があり、4つの要素を勝敗表のように単純に計算するわけではありません。

フェアユースは大きなトピックとなっています。幸い、インターネット上には、フェアユースの更に詳細な解説も数多くあります(たとえば、スタンフォード大学 Copyright and Fair Use CenterChilling EffectsFair Use NetworkCenter for Social Media)。

まずは以下の質問に答えるかたちで自己分析するのがよいでしょう。

  • ビデオは変形的か?
  • 非商用か?
  • オリジナル作品の代わりになっていないか?
  • このビデオを見ても、オリジナル作品を買いたい気持ちを損ねないか?
  • 量的に質的にオリジナル作品をどの程度使用したか?
  • 使用は非営利、教育、研究を目的としたものか?
  • その使用が広く行われた場合、オリジナル作品の市場や価値を毀損することはないか?

私の行為は適法だと考える。何か考慮すべきことは?

ビデオを削除されると場合、大抵の人は次の2つのことが気にかかるようです。

  1. 異議を申し立てたら、訴えられてしまうのか?
  2. 訴えられたら勝ち目はあるのか?

この疑問への答えは、削除されたビデオの内容、権利者、状況次第ですので、一概にこうすればいいという答えはありません。適任の弁護士に相談するのが良いでしょう。

まずは次の2つの事実を押さえておきましょう。

  1. もしビデオのなかに他人の著作物(たとえば、映画、テレビ番組から抜き出したクリップ、他人が演奏または作曲した楽曲)が含まれている場合、その権利者はいつでも訴訟を起こすことができます。権利者は事前に警告をしなければならないわけでも、コンテンツIDを使わなければならないわけでも、DMCA削除通知を送付しなければならないわけでもありません。
  2. 典型的なYouTubeユーザであれば、ビデオをアップロードしたとして大手のエンターテイメント企業に訴えられることは極めて稀です。業界内部の人物がリークした未発売のコンテンツに関連した特殊なケースもありましたが、これは典型的なYouTubeユーザではありません。また、一部の攻撃的な著作権トロールが訴訟を起こすということもあります。つまりはこういうことです――数百万のビデオがYouTubeに投稿され、大手メディア企業により数十万のビデオが削除されていますが、大手メディア企業がYouTubeユーザ個人を相手取って訴訟を起こすことはほとんどありません。

訴訟の可能性を常に念頭に置く必要はありますが、エンターテイメント産業がYouTubeユーザを相手取って大規模な訴訟キャンペーンを展開するとは考えにくいです。もちろん、それはある日突然変わってしまう可能性もあります(たとえば、かつて音楽産業がP2Pファイル共有ユーザにそうしたように)。しかし、異議または反論通知を送るのであれば、自分自身の行いを振り返り、自分の法的な立場、リスクをきちんと確認するのが良いでしょう。

訴えられたらどうなる?

自分が訴えられる可能性があるのは承知しているが、異議・反論通知を提出したい――そうであれば、きちんとした法律相談を受けるべきでしょう(EFFに相談することもできますが、すべての相談に対応できるわけではありません)。ただ、ここではいくつかの一般的な情報を提供します。

裁判には高額な費用がかかります。米国の民事裁判制度では、訴訟は非常に高額な費用を要します。著作権法では、法廷は敗訴した側に勝訴した側の弁護士費用を請求しますが、絶対にそうなるというわけではありません。また、もし勝訴した場合でも、自分の訴訟費用を負担しなければならないこともあります(幸いにも、EFFを含む一部の弁護士たちは、プロボノとして訴訟を引き受けています。しかし、プロボノとしてのリソースには限りがあり、より守るに値する人の弁護を優先することになります)。

負けたらどうなる?

著作権法は、勝訴した側にさまざまな救済策を提供しています。ここには実際の被害(侵害されたビデオによって権利者が被った被害金額)、不正利得(侵害されたビデオによってあげた利益)への賠償などが含まれています。その著作物が侵害が行われる以前に著作権局に登録されていた場合(大手のメディア企業は通常、自らのテレビ番組、映画、楽曲などを登録しています)、その権利者は弁護費用を弁済される資格を得ることになり(損害賠償よりもはるかに高額になることもあります)、「法定損害賠償」を選択することもできるようになります。法定損害賠償は、裁判所が課す、侵害された1作品につき750ドルから30,000ドル(意図的な侵害の場合は最大150,000ドル)の罰金です。

さらなるリソース

Author: Electronic Frontier Foundation / CC BY 3.0 US
Translation: heatwave_p2p
Header Image: Jorge Caballero Jiménez / CC BY-SA 2.0