スペインのサッカーリーグ「ラ・リーガ(リーガ・エスパニョーラ)」が、数百万人の海賊版スパイを作り出すために、自らの公式Andoroidアプリを使用している。このアプリは、マイクと位置情報のデータにアクセスし、ライセンスを得ずに試合を放送するレストランやバーなどの施設をスキャンできるようにしている。ラ・リーガは、「あなたのチームを守ろう」と強調し、ユーザにその機能を有効にするよう促している。
スポーツストリーミングサービスは世界中で利用されているが、誰もがそれにお金を支払う意思があるわけではない。
これは、海賊版サイトをはじめとする不正なチャンネルを利用する個人に限らず、バーやレストランなどの施設にも当てはまる。
「ラ・リーガ」は最近、この手の著作権侵害を取り締まるため、現代のテクノロジーとその利用者の恩恵にあやかることにした。前代未聞のことであるが、ラ・リーガは自らの公式Androidアプリを海賊版スパイマシンにしたのだ。
数百万のユーザがインストールするこのアプリは、インストールされた端末のマイクとGPSを使用し、海賊版ストリーミングの可能性があるインスタンスを報告する。
アプリはユーザの合意を得て、周囲の音声を分析し、ラ・リーガの試合が上映されているかどうかをチェックする。さらに、上映ライセンスを得た施設であるかをGPSデータで確認するという。
データ収拾を有効にするよう促す画面には「あなたのチームを守ろう」というッセージが表示される。
この尋常ではない機能については、プライバシーポリシーで詳述されており、主要な目的として海賊版対策が言及されている。
「この機能は、(i) サッカーの消費に関する統計パターンの開発、(ii) ラ・リーガの試合の再送信(海賊版)の不正行為の検出に用いることを目的としている」
マイクはラ・リーガの試合が放送されている時間にのみ起動される、とポリシーには記されている。
Eldiario.esがこのスパイツールについて報じると、ラ・リーガは更なる詳細を明らかにした。
ラ・リーガは、音声が「自動的に信号、バイナリ・コードになるため」、「マイクで収拾された音声フラグメントは誰にもアクセスできない」と説明。これはスペインでのみ実施され、「音声やコンテンツが保存されることはない」という。
ラ・リーガは、海賊版から最大で1億5000万ユーロ(約192億円)の損害を被っているため、こうした対策を実施せざるを得ないと主張している。データの使用方法については言及されていないが、ライセンスを得ずに試合を放映していた施設には警告が与えられている。
この機能を有効にしたものの、海賊版スパイとして動作させたくない場合には、スマートフォンの設定で音声および位置共有を無効にする必要がある。
Soccer League Turns App Users Into Piracy Spies – TorrentFreak
Publication Date: June 11, 2018
Translation: heatwave_p2p
実際にインストールしてみた
記事中に「合意を得て」との記述があったので、実際にラ・リーガの公式アプリをインストールしてどのような「合意を得て」いるのかを確認してみた。インストールすると、以下の説明で、音声、位置情報の取得を行うことが説明される。
ただし、スクロールしなければマイクの使用、位置情報の使用に関する項目は表示されない。
「I have read it.」というボタンを押すと、さらに利用条件の合意を求めるチェックボックスが、利用規約およびプライバシーポリシーのリンクとともに表示される。
プライバシーポリシーには以下のような説明がある(邦訳は筆者による)。
5 . ラ・リーガの試合の不正放映の検出。この目的のために明示的かつ具体的な合意をボックスにチェックを入れて与えた場合に限り、 ラ・リーガがマッチメイクしたチームの試合が視聴された場所に関する情報を取得し、公共施設におけるラ・リーガの知的財産権を侵害する可能性のある使用を検出するために、マイクと位置情報、および、あなたが接続するWifiのネットワーク名とMACアドレスを取得することを許可する。
ボックスが何を指すのかは不明だが、もしインストール時の合意ボタン(およびその説明)を意味するのであれば、GDPR施行後の欧州における「明示的かつ具体的」な説明とはいい難いように思える。
ただ記事中のスクリーンショットにあるように、スペイン国内のユーザには音声、位置情報の取得とその目的についての説明と合意ボタンが追加されているようだ。私の場合は、スペイン国外でインストールしたために表示されなかったのかもしれない1。
Eldiario.esの記事を西→英翻訳して読んでみたが、このボタンはオプションであり、アプリの利用に際して、プライバシーポリシーへの合意は必須だが、音声、位置情報の取得に関しては合意しなくても良い(オプション)らしい。
合意しなければインストールできないわけではないので、合意を強制しているわけではないというところなのだろうが、1つ目のボタンが必須で、2つ目のボタンが任意だというのは、控えめに言っても「まぎらわしく」、「わかりにくい」。辛辣に言えば、ユーザを騙して合意させ、ユーザをスパイにしようとしているのではないか、とすら思える。
また、合意をしたユーザであっても、「自身がサッカーの試合を見ている時間帯に周囲の音声および位置情報が取得・送信され(細かな仕様はわからないが、違法上映しているレストランやバーにいるときにだけ情報が取得・送信されているとは考えにくい)、その情報がライセンスを得ずに試合を上映するレストランやバーを取り締まるために利用される」ことを理解しているとは思い難い。
海賊版対策が必要なのは理解できるが、アプリの利用者を第三者の行為を監視するスパイにするというのは、その応用可能性を考えれば、かなり行き過ぎのように感じる。
- 日本で配信されている英語版アプリには含まれていないのかもしれない。スペインのIPアドレスからアクセスしても、マイク・位置情報の取得・送信の合意を求めるボックスは追加されなかった。 ↩