以下の文章は、コリイ・ドクトロウのMediumの記事「Amazon’s new employee chat app blocks “fairness,” “grievance” and “diversity”」を翻訳したものである。

「ニュースピークの狙いは語彙を減らし思考範囲を狭めることにある」

Amazonはオーウェル問題を抱えてきた。2009年、AmazonはKindleの所有者のデバイスにネットワーク経由でアクセスして『1984』のコピーと所有者の注釈を削除し、仰天させたことがある。驚くべきことに、これは珍しくもないしくじりでしかなく、メーカーが所有者の意に沿わないこともできてしまうというネットワーク接続デバイスの危険性を警告する自己批判的な演出などではなかった。

https://www.nytimes.com/2009/07/18/technology/companies/18amazon.html

Amazonのオーウェルへの愛は尽きることはなかった。彼らはオーウェルが警句として書いた本を、提案として理解しているのかもしれない。

たとえば、同社が近々リリース予定の従業員向けチャットアプリ「Shout Outs」。このアプリは、過酷な低賃金労働を「ゲーム化」するもので、労働者が「直接的なビジネス価値を付加」するとバーチャル・スターで労うというものである。このアプリの計画のために2021年11月に開かれた経営会議の議事録がリークされ、Amazonコンシューマー部門トップのデイブ・クラークの「一部の人びとはイカれたスターコレクターだ」との発言が記録されている。

この議事録は、The Interceptのケン・クリッペンシュタインにリークされたものだ。彼の取材により、このチャットアプリには「ポジティブなコミュニティ」を促進するという名目で、Amazon従業員が電子的に発してはならない禁止ワードが多数リストアップされていることを突き止めた。

https://theintercept.com/2022/04/04/amazon-union-living-wage-restrooms-chat-app/

リストには以下の言葉が含まれている。

I hate (嫌い)
Union (連帯・団結)
Fire (解雇)
Terminated (解雇された)
Compensation (補償)
Pay Raise (賃上げ)
Bullying (いじめ)
Harassment (ハラスメント・嫌がらせ)
I don’t care (気にしない)
Rude (無礼な・下品な)
This is concerning (気がかりだ)
Stupid (バカ)
This is dumb (バカみたい)
Prison (刑務所)
Threat (脅威)
Petition (請願書)
Grievance (苦情)
Injustice (不当)
Diversity (ダイバーシティ・多様性)
Ethics (倫理)
Fairness (公正さ)
Accessibility (アクセシビリティ)
Vaccine (ワクチン)
Senior Ops (上級オペレータ)
Living Wage (生活賃金)
Representation (抗議)
Unfair (不公正)
Favoritism (優遇措置)
Rate (レート)
TOT
Unite/unity (団結/結束)
Plantation (プランテーション・農園)
Slave (奴隷)
Slave labor (奴隷労働)
Master (主人)
Concerned (心配)
Freedom (自由)
Restrooms (トイレ)
Robots (ロボット)
Trash (ゴミ箱)
Committee (委員会)
Coalition (連合)

このリストをざっと見ただけでも、Amazonは従業員が自分たちの労働条件について話すことを非常に気にしていることがわかる(同社の悪名高きおしっこボトル問題を考えれば、「トイレ」が含まれていることは実に示唆的である)。

だが、従業員の語彙をコントロールするだけでは不十分であろう。Amazonのスタテン島JFK8倉庫の従業員は、激しい闘争の末に組合を承認された。

https://jacobinmag.com/2022/04/amazon-labor-union-alu-staten-island-organizing

この組合活動は、Amazonの元倉庫チームリーダーであるクリス・スモールズが主導したものた。彼はコロナ・ロックダウン開始時に倉庫内の危険な労働条件を内部告発し、報復として解雇され人種差別的中傷にさらされた。

https://pluralistic.net/2020/03/31/reality-endorses-sanders/#instacart-wholefoods-amazon

Amazonはその後、倉庫労働者を死に至らしめる義務を倍増させた。たとえば昨年12月、壊滅的な竜巻が迫るなか、イリノイ州の従業員は避難所を探すことすらできなかったのである。

https://theintercept.com/2021/12/13/amazon-illinois-tornado-safety-protocols/

労働者の不満の深さと、Amazonの利幅の分厚さを考えれば、チャットアプリでニュースピークを押し付けて労働者を無力化しようなど笑止千万だ。

Amazon’s new employee chat app blocks “fairness,” “grievance” and “diversity” | by Cory Doctorow | Apr, 2022 | Medium

Author: Cory Doctorow CC BY 2.0
Publication Date: April 5, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: duncan c (CC BY-NC 2.0)

Amazonの従業員向けチャットアプリのNGワードリストについてはThe Interceptの記事にアップデートがある。広報担当者によれば、このチャットアプリがローンチされたとしてもリストされたワードの「多く」がスクリーニングされることはない、とのことである。コメントを見る限り、fどうもこのリストそのものを否定してはいないようである。開発段階であれ、このようなNGワード候補があったというのが実にAmazonらしい。