以下の文章は、電子フロンティア財団の「The Fediverse Could Be Awesome (if we don’t screw it up)」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

本稿は、Mastodonとfediverseに関するシリーズの一部である。他にもfediverseとは何かMastodonにおけるセキュリティとプライバシーなどの記事を提供している。EFFのMastodonはこちらから。

驚くべきことが起こっている。この2週間、人々がTwitterから離れつつある。残っている人たちも、Twitterへの依存度を下げようとしている。多数の元Twitterユーザや従業員が、イーロン・マスクによる買収の混乱から逃れ、「fediverse」に新居を構えた。この離脱には、市民社会、テック法やテック政策、ビジネス、ジャーナリズムに携わる著名人らも含まれている。ある意味では、インターネットの一角をより良くする機会と捉えることもできる。……もちろん、我々がその機会を台なしにしなければ、だが。

fediverseはFacebookやTwitterのような、単一の巨大ソーシャルメディアプラットフォームではない。それは相互接続された拡張可能なソーシャルメディアサイト/サービスのエコシステムであり、ユーザはどのサイト/サービスのアカウントを持っていても互いに交流できる。

つまり、ユーザは自分自身のソーシャルメディア体験をカスタマイズし、コントロールできるようになる。一握りの大手テック企業がもたらしたモノカルチャーへの依存を減らすことができるのだ。

今日、最も人気のあるfediverseサービスは、Mastodonだ。Mastodonは誰もがホストでき、自分のニーズに合わせてカスタマイズできるTwitterに似たサービスである。各サーバー(「インスタンス」と呼ばれる)はユーザに独自の体験を提供でき、ユーザの側も連絡先(つながり)をサービス側に握られて囲い込まれることもない。

Mastodonはfediverseの一部に過ぎず、万人向けではないかもしれない。ただ重要なのは、MastodonがAcitivityPubというオープンプロトコルを採用していることだ。つまり、Mastodonのすべての機能は、相互運用可能なサービスで構成される広大な宇宙の一片にすぎないのである。

fediverseは未だ発展途上のプロジェクトであり、大規模ソーシャルプラットフォームが抱える問題をすべて解決できるわけでもない。他の分散型システムと同様に、欠点も複雑さもある。だが、連合型ソーシャルメディア・エコシステム(federated social media ecosystem)によって、中央集権的なプラットフォーム型ソーシャルメディアの世界で見られていた深刻な問題のいくつかからは逃れられるかもしれない。

はっきりさせておきたいのは、どんなテクノロジーを用いようとも、我々が引き起こす問題は我々自身にしか解決できない。とはいえ、相互運用可能なソーシャルメディア環境が構築されれば、現在のロックイン(囲い込み)モデル以外の道を模索することができるようになるだろう。すばらしいものが生み出されるかもしれない――ただし、我々自身がそれを台なしにしなければ。

もはや改善を望めないソーシャルメディアプラットフォーム

数週間前まで、ほとんどのソーシャルメディアユーザは“誰に支配されるか”しか選びようがなかった。現在、オンライン・ユーザが抱える多くの問題は、そうした集中によって生み出されている。

プライバシーを例に取ろう。既存のプラットフォームは、プラットフォーム側が提示する条件を呑むか、アカウントを削除するかというオール・オア・ナッシングの二者択一をユーザに迫っている。設定の奥深くに埋もれたプライバシー・ダッシュボードで多少の調整はできるようになったが、すべてのチェックボックスを外しても大手サービスはあなたのデータの収集をやめようとはしない。主要プラットフォームに依存することによって、我々のプライバシー、セキュリティ、表現の自由の自律性が大幅に損なわれているのだ。

こうしたプラットフォーム企業に共通するのは、ユーザの追跡に基づくビジネスモデルだ。それが引き起こすプライバシー侵害は、単に薄気味悪いというだけでは済まされない。あなたの位置情報、友人や知人とのやりとり・つながり、あなたの思想など、膨大かつ不必要な量と種類のデータが収集され、頻繁に外部との共有され、漏洩し、販売されているのである。さらに、こうしたデータはあなたに関する推論を作成するためにも使用されている。このような推論は、あなたの人生を左右するリスクさえはらんでいる。

データを収集されても構わないと思うユーザもいるかもしれない。だが、センシティブな情報が一箇所に集約されると、それは有害な資産にもなりうる。セキュリティ上のちょっとした不備が、数億人のユーザのプライバシーと安全を脅かすこともある。また、一度情報を収集されてしまうと、外部と共有されたり、捜査機関に提供されるリスクを常に抱えてしまうことにもなる。ドッブス事件(訳注:中絶の権利を確立したロー対ウェイド判決を撤回した最高裁判決)後の米国にあっては、捜査機関からのユーザ情報へのアクセスはひときわ懸念される。すでに一部のソーシャルメディア上の活動に基づく刑事訴追が行われている。

また、我々はソーシャルメディアが我々の生活を侵食していることにウンザリしてきている。多くのプラットフォームは、我々がスクロールし、投稿し、目をそらすことができないように最適化されている。こうした誘惑や提案は、我々のメンタルヘルス公共の議論に有害な影響を与えかねないという認識が広まっているにも関わらず、それを遮断するためにできることはほとんどない。こうした環境で、偽情報・誤情報、ハラスメント、いじめが蔓延しているのである。

また、グローバルなコンテンツモデレーションを大規模に実施するという不可能なタスクも抱えている。コンテンツモデレーションは、2つの側面で失敗を重ねてきた。第一に、プラットフォームが極めて有害なコンテンツ――プラットフォーム自身のポリシーで明示的に禁止されている偽情報や扇動など――を削除できていないことを世界中のユーザが目の当たりにしている。第二に、プラットフォームは多数の重要な表現、とりわけ社会的弱者の声を不当に削除してきた。追い打ちをかけるように、ユーザには異議申し立てや復旧のための意味のある手続きがほとんど提供されていない。

こうした失敗を背景に反発が高まっているのである。米国では、政治的右派・左派の双方から、ソーシャルメディアによるモデレーションを規制することを目的とした生煮えの法案が相次いで提出・提案されている。米国以外でも、「オンライン有害情報」への対策をうたいながら、ユーザ、とりわけ周縁化された弱者をさらに追い詰めるような提案が散見されている。トルコなどの一部の国では、すでにそうした悪法が現実のものとなっている。

Fediverseを正しく理解するには

善き独裁者を選んでも、独裁体制を修正することはできない。独裁者は排除されねばならないのである。まさに今、より良い、より民主的なソーシャルメディアへの移行が約束されている。

デジタルライツ団体、インスタンス運営者、コーダーなどは、ソーシャルメディアの改善に向けて戦うだけでなく、ソーシャルメディアを相互運用可能なオープンプロトコル上に構築し、現在のプラットフォーム・ロックインの世界から脱却する機会を手にしている。この再出発は、オンラインコミュニティのイノベーションとレジリエンスを促進してくれるかもしれない。

はっきりさせておこう。連合(federated )によって、これまでの問題が魔法のようにたちどころに解決するわけではない。もし連合型ソーシャルメディアが既存の中央集権型ソーシャルメディアよりも優れているのだとしたら、それはそこに集う人たちが良いものを作りあげようと意識的に選択したからであり、技術的決定論によるものではない。オープンで分散化されたシステムは、より良いオンライン世界に向けた新たな選択肢を提供する。だが、その選択をするのは我々自身なのである。

ここでは、連合システムの運用者と利用者に期待される選択肢を紹介したい。

  1. コンテンツ・モデレーションに関するサンタクララ原則を採用する。小規模な連合インスタンスへの移行は、コンテンツモデレーションの透明性、適正な手続き、説明責任の機会を創出する。EFFは、国際NGOとともに、ユーザの基本的人権をサポートするコンテンツ・ホスティングにおける原則を策定している。我々は、fediverseの大半が、とりわけネットワーク内の大規模なホストについて、ユーザ保護のためにこの原則の推奨を基本としつつ、それをさらに上回る実践を期待している。
  2. コミュニティ/ローカル・コントロール:fediverseは、コミュニティ/ローカル・コントロールを促すようセットアップされている。そのため、それがどのように発展していくかを見守ることになる。Mastodonインスタンスには、すでに非常に異なる政治的イデオロギーやハウルスースが存在する。GabもMastodonインスタンスであり、TruthSocialはActivityPubを用いている。サービスはユーザに好みに応じて別のサービスに接続したり、ブロックすることで、fediverseのセルフソートがすでに始まっている。また、ユーザによるインスタンスの民主的コントロールの大胆な実験も行われている。ユーザやコミュニティが自分たちのルールを決定できるソーシャル・インターネットは、株主や自尊心が肥大化した1人の金持ちの気まぐれに希望を託すよりも、良い結果をもたらすことができるだろう。
  3. コンテンツ・モデレーションのイノベーション:fediverseそれ自体はユーザを追放することはできない。だが、各サーバ(インスタンス)の運営者はモデレーションツールやブロックリストを共有し、ユーザが期待する体験に対応することができる。すでにこのようなアプローチに基づく改善が進められている。モデレーションツールの協働により、インスタンス間でのルール設定やその実践の違いが明白になり、協力と健全な競争の双方が促進される。バッドアクターからユーザを保護する場合、運営者はゼロから始める必要はないが、他のインスタンスやブロックリストの管理者と考えが異なる場合には、自らが良いと考える選択肢を保持すべきである。そして、ユーザはどの運営者を信頼するかを選択できる。
  4. 無数のアプリケーション:Mastodonは現在、多数のユーザに選ばれているアプリだが、可能性はそれだけにとどまらない。ActivityPubは様々なアプリケーション戦略をサポートしている。それゆえ、我々はMastodonのみならず、Mastodonを越えたイノベーションにも期待している。連合による接続の機能を維持しつつ、関係が切れた際には切断するといったように、コミュニティはさまざまなソーシャルメディアの利用方法を開発できる。
  5. リミックス可能性:競合、研究者、ユーザは、プラットフォームを創造的かつ想定外の方法で利用しても良いはずであり、サービスが認めないから、あるいは競合だからといって、アドオンを作ったりしたことで法的な脅威にさらされるべきではない。ActivityPubの自由かつオープンな性質は、我々に助走を与えてくれる。だが、ユーザを囲い込み、イノベーターを排除しようとする動きには注意しなければならない。それと同じくらい重要なことは、こうしたイジリはやりたい放題であってはならないということだ。ユーザのプライバシーとセキュリティに関しては法に基づく制限が必要である。fediverseに移行しようと我々は強力なプライバシー法を必要としているが、残念なことにそのような規制は実現していない。
  6. 多様な資金援助モデル:現在のfediverseは、そのほとんどがボランティアの創造性、時間、愛に頼って運営されている。だが、多くの人が参加すればするほど・システム運営者の負担は大きくなる。我々は多様な支援モデルが発展していくことを期待している。コミュニティ支援型モデル、学術機関、自治体などの統治機関が支援するモデル、フィランソロピーによる支援など、さまざまな支援モデルが開発されていくのが望ましい。ビジネスモデルとしては、サブスクリプション、コンテクスト広告、もしくはまだ想像もしないようなソリューションが生み出される可能性もあるが、(当然ながら)行動追跡広告は完全に廃れることを望んでいる。
  7. グローバルなアクセシビリティ:新たなグローバル・ソーシャルメディアのパラダイムは、万人に開かれてなくてはならない。これはあらゆるアクセシビリティの重視を意味する。視覚障害などさまざまな障害を持つ人たちだけでなく、先進国の開発者が見落としがちな途上国のコミュニティにも目を向けなければならない。特定のアクセシビリティや文化的ニーズに応えるために、新たな言語・機能を用意に実装できるようにすることは、こうしたアクセシブルな機能の提供を選択する事業者と同様に、不可欠なものである。
  8. 政府からの干渉への抵抗/ユーザの側に立つこと:国内外を問わず、政府がインスタンスを取り締まる場合、ユーザはサイト運営者に何を期待すればよいかを知り、明確な危機対応プランを持っていなければならない。たとえば、ユーザがインスタンスからブロックされたり、コンテンツを削除された場合に、簡単にインスタンス間を移行できるようなシームレスなポータビリティプロセスや、必要に応じてサーバ間で協力し、政府の圧力に抵抗できるようなソリューションの実装などである。手始めに、EFFの2017年版「Who Has Your Back」が提示するセーフガードから実践するとよいだろう。
  9. 真の連合:類似したサービスのユーザは、プラットフォームの境界を超えて互いにコミュニケーションできるべきである。fediverseプラグインを採用したサービスは、そのユーザが競合サービスのユーザと対等に交流できるようにすべきであり、外部から流入するユーザだからといって、セキュリティやプライバシーなど必須の機能をダウングレードしてはならない。
  10. 相互運用性と次の囲い込みの阻止:真の連合を支持するということは、囲い込みを防ぐということでもある。今日の独裁者を追放できても、未来の独裁者の支配下に置かれるようでは意味がない。さらに、現在の巨大テック企業がその市場支配力を利用して連合を乗っ取り、我々すべてを彼らの息のかかったインスタンスに囲い込むことを阻止しなければならない。我々は、MicrosoftやFacebookなどの企業が過去に試みた「3E(取り込み、拡張し、抹殺する)」戦略などの法的・技術的囲い込み戦略に対抗していく必要がある。そのための原則をいつくか挙げておこう。
    • 反競争的行為の阻止:新たなサービスは、競争を回避するために競合や後続のイノベーター企業を締め出してはならない。また、CFAAやDMCA1201条、利用規約の悪用も許されない。今日のテック大手は、プライバシー、コンテンツモデレーション、セキュリティへの懸念を口実に、反競争的な排除を正当化している。プライバシー・ウォッシングやセキュリティ・ウォッシングは、連合化されたオープンなインターネットにはふさわしくない。
    • ポータビリティ:あるサービスから競合サービスへの連絡先(つながり)、投稿コンテンツなどの移転、退会するプラットフォームからのデータ削除は、ユーザにとって容易に行えるものでなくてはならない。ユーザがアカウントに縛られることはあってはならない。
    • 委任可能性(delegability):サービスの利用者は、ライバル企業や技術者、あるいは利用者自身が開発したカスタムツールやインターフェースを用いてサービスにアクセスできるべきである。ニュースフィードの閲覧、メッセージの送信、コンテンツへの参加などの主要機能を、サードパーティ製クライアント/サービスに委ねることができるようにする必要がある。

つい最近まで、インターネットの終焉を想像することは、テック企業の終焉を想像するよりも簡単だった。無責任な巨大企業が支配するシステムのもとで暮らすことの問題は、避けられないように思えわれた。だが、こうした中央集権型プラットフォームは成長を停滞させ、Twitterは無様に崩壊しつつある。Twitterの崩壊、混乱は、これが最後ではないだろう。

我々は、既存のプレイヤーによって不当に扱われ、解雇された労働者たちに心を痛めている。主要プラットフォームはすでにメチャクチャだ。だが今、我々はそれを正しく理解することで、より良いシステムを構築するチャンスを得ているのである。

The Fediverse Could Be Awesome (if we don’t screw it up) | Electronic Frontier Foundation

Author: Cindy Cohn and Rory Mir / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: November 16, 2022
Translation: heatwave_p2p