以下の文章は、電子フロンティア財団の「Leaving Twitter’s Walled Garden」という記事を翻訳したものである。
本稿はMastodon・fediverseシリーズ記事の1つである。他にもなぜfediverseは(我々次第で)素晴らしいものになりうるか、Mastodonにおけるセキュリティとプライバシーなどの記事を提供している。EFFのMastodonはこちらから。
たくさんの人たちが、Twitterを離脱してMastodonなるものに移行すると宣言している。一方で、多くの人たちが「Mastodonとは何なんだ?」といぶかしがっている。さらに言えば、「fediverse(フェディバース)」とは何か、「ActivityPub」とは何か、を知りたがっている。本稿の解説は、コミュニケーションとソーシャルメディアにおける新たなアプローチの理解に役立つだろう。
Fediverse、Federation、Mastodonとは何か?
連合(Federation:フェデレーション)とは、広義には、その内部に小さなグループを内包し、各グループがある程度の自律性を保っている状態を意味する。インターネット用語で言えば、最もよく知られているフェデレーションシステムは、我々の古き友人である電子メールがある。
電子メールそのものの好き嫌いは別として、電子メールは半世紀以上に渡って連合システムとして機能してきた。どのメールサーバを使うか、どのメールクライアントを使うかは関係なく、我々は誰でもメールを使うことができ、しかもその体験はほとんど同一であり、それなりに上手く機能する。同様に、どのウェブサイトも他のサイトにリンクしたり、埋め込んだり、参照したりできる。インターネットは連合システムとして誕生し、現在も連合システムなのである。
fediverseで最も知られているサービスがMastodonだ。最近のTwitterの混乱を受けて、多数のユーザが乗り換えるTwitter風のSNSコミュニケーションシステムである。Mastodonを簡単に説明すると、ソーシャルネットワークとして機能するウェブサーバ(またはアプリ)である。TwitterやTikTokなどのサービスと同じように、ウェブサイトやスマートフォンアプリを介して、テキストや画像、動画を投稿し、フォロワーに見てもらうことができる。また、他のユーザをフォローし、その人の投稿を自分のタイムラインで閲覧することもできる。このように、Mastodonはみなさんが日常的に使用しているサービスと非常によく似ている。実際、Twitterと(訳注:機能的には)ほとんど変わるところはない。だからこそ、Twitterに不満を持つ人達が、Mastodonをオルタナティブとして検討しているし、我々もこのエッセイを綴っている。だが、Mastodonが面白いのは、あなたが使用するサーバ(または「インスタンス」―この用語は交換可能である)が、世界で唯一Mastodonを動かしているわけではないということだ。
囲い込みを越えて
インターネットの初期にはたくさんのサービスがあった。America Online(AOL)、Prodigyなど、インターネットが普及する以前から、誰もがアクセスできる場を提供していた。こうした古いシステムには、インスタントメッセージ、電子メール、ショッピングなど、現在利用されているものと同様のツールやサービスが数多くあったが、他のサービスを利用する人にメッセージを送ろうとしても、その方法がわからないという問題があった。たとえばAOLのメールをProdigyユーザに送信できなかったのだ。こうしたインターネットそのものに敵対的なサービスのあり方は「囲い込み(Walled Garden:壁に囲まれた庭の意)」という言葉で表現された。
こうした囲い込みは、通常、基盤となるオープンで相互運用可能な標準プロトコルを使用することで、最終的に開放されることになった。たとえばSMTPは、あるシステムから別のシステムに電子メールを送信するプロトコルで、現在でも使用されている。HTTPは、各サービスが異なる方法でページを構築・表示するのとは対象的に、ウェブページを取得するオープンで相互運用可能な手段である。こうした系譜に連なるものとして、ActivityPubがソーシャルメディアにおける囲い込みを打破してくれるのではないかと期待する人たちがいる。
ActivityPubで構築されたエコシステム
Mastodonは、ActivityPubを用いてコミュニケーションを行う複数のサービスの1つに過ぎない。あるMastodonのサーバから、世界中のMastdonのサーバにいるユーザをフォローしたり、フォローされたりできる。まさに、どのサーバからでも世界中のサーバのユーザにメールを送信できるとの同じだ。ActivityPubは、テキスト、画像、動画はもちろん、「いいね」やリプライ、投票など、さまざまなコンテンツを扱うことができる。
実際、ActivityPubは非常に柔軟性が高く、Mastodon以外にもさまざまなサービスのバックボーンとなっている。YouTube風のソーシャルビデオホスティングサイトのPeerTube、画像に特化したPixelFed、Goodreadsなどの書籍カタログやレビューサイトのBookwyrmなど、Mastodon以外にもさまざまなサービスのバックボーンを形成している。ActivityPubを利用したオープンソース・フードデリバリーサービスまである。ActivityPubの威力は、他のサービスからでもそのサービスのアカウントをフォローできることだ。
こうしたサービスは、それぞれがオープンソース・ソフトウェアなので、新たなサーバを立ち上げるとすぐに他のすべてのサーバと交流できる。もしあなたに自分のサーバを維持するノウハウや意欲がなくても、公開サーバに自分用のアカウントを作成することができ、そのサーバを介して、他のサーバのユーザと交流できる。また、あなたのドメイン名でサーバを運営してくれるホスティングサイトもたくさんある。そのようにしてあなた自身がコントロールできるActivityPubサービスを作ることもできる。
サーバを越えてやり取りするというのは、ともすれば理解し難いかもしれないが、上述したように、電子メールのような仕組みと考えてもらえればいい。メールアドレスを見たことがあるなら、@マークの前がユーザ名、@マークの後ろがドメイン名という2つの要素があることにお気づきだろう。大学や勤務先のメールアカウントを持つ人もいれば、GoogleのGmail、MicrosoftのOffice365、Protonmailなどのパブリックサービスを利用する人もいるが、@マークの後ろにどんなドメインが来ようとも、母親、友人、銀行など誰にでもメッセージを送信できる。これらのサーバがすべて同じプロトコル(SMTP:Simple Mail Transfer Protocol)で会話しているからである。
拡張可能なネットワークに接続できるサービスに制限はない。FacebookやTwitterも、ActivityPubに対応した適切なプロトコルを実装することでfediverseに参加し、連合するActivityPubサーバとそのユーザの宇宙にコンテンツを送り出すことができるのである。
Fediverseのロードマップ
Mastodonのようなfediverseアカウントはメールアドレスとよく似ていて、誰もが同一のサーバ(たとえばtwitter.com)にいるのではなく、複数のサーバに分散して存在している。誰かのハンドルネームは単に@aliceではなく、@alice@example.comとなる。Mastodonのアカウントを無料で提供するサイトはすでに無数にあり、メールやウェブサーバと同じように、自分で運営することも可能だ。どのMastodonインスタンスがよいか選ぶのを手伝ってくれるサイトもある。
ここで、ActivityPubにアクセスする際、特にTwitterからMastodonに移行する人が直面しがちな疑問がある。つまり「どのサーバがいいの?」
幸いなことに、慌てずに済む理由が2つある。第一に、ユーザがどのサーバにいても、別のサーバのユーザをフォローしたりされたりできるので、友人や家族が別のサーバに移行したとしてもつながりが失われることはない。第二に、fediverseにはサーバ間でアカウントを移行できる仕組みがあり、投稿やフォロー、ブロックリストのエクスポートやインポート、あるサーバから別のサーバへのプロフィールのリダイレクトなどが可能である。したがって、最初に降り立ったサーバが何かしらの理由で気に入らなくなっても、後からいつでも引っ越しできるのである。
とはいえ、サーバを選択する理由もある。最大の理由は「モデレーション」である。Fediverseのサービスは、タイムラインで見たくない他のアカウントやサーバ全体をブロックする機能を個人に提供することに長けている。また、サーバ側でも、サーバのモデレーションポリシーにそぐわないアカウントやサーバ全体をブロックすることができる。極端なことをいえば、「猫」という単語を含む投稿のみを許可し、「犬」という単語を使用するユーザを永久にブロックするインスタンスだって作成できる。つまり、こうしたモデレーションポリシーに同意できるサーバを探せるというのも、fediverseの利点でもある。
サーバを選ぶもう1つの理由は、そのサーバが共通の趣味や言語を通じて、共通のコミュニティから組織されている場合、そのコミュニティに関連する会話が多くなるということにある。もしあなたが「Twitterの法律コミュニティ」や「Twitterの情報技術コミュニティ」、「Twitterの歴史コミュニティ」などに参加していたなら、コミュニティ重視でサーバを選択する理由になるだろう。また、Twitterの現役社員や退職社員のサーバなど、特別なテーマを持ったサーバもある。
Fediverseは何が違うのか
多くの人がTwitterからMastodonに移行しているが、はっきりさせておきたいのは、Mastodonはfediverseのすべてではないし、fediverseはTwitterの代替品でもないということだ。
確かにfediverseは、ソーシャルメディアのあり方にパラダイムシフトを起こせるかもしれない。だが今はまだ、小さな町が好景気に沸いているレベルの成長痛を味わっている段階である。新規参入者が大量に訪れると、ネットワークのソーシャルな部分の軌道が変化し、それぞれに摩擦を生じることになる。
現在のTwitterは15年以上の時間をかけて発展し、多くの変化と新機能を生み出していった。たとえば、Twitterのハッシュタグとアットマーク(リプライ)はユーザが考案したものだ。また、そのような発展はプロフェッショナルの専門チームに構築されていったものだ。一方、今日のfediverseサービスはソフトウェアコミュニティの愛の結晶である。
Fediverseソフトウェアは、いまだTwitterのソフトウェアほど堅牢ではない。独自の機能や問題を抱えたクライアントも複数存在しているし、マルチアカウントのサポートも完全とはいえない。とはいえ、これらのサービスには文字数上限の引き上げ、コンテンツの警告、古い投稿の自動削除オプションなど、Twitterユーザが求めていた多数の機能が備わっている。
連合には中央機関が存在しないため、Twitter独自の認証バッジなどの複数の機能はまったく意味をなさない。「認証(verified)」に近いものとしては、自分のプロフィールに特定のハイパーリンクを掲載し、外部のウェブページやリソースを管理していることをインスタンスに証明するというものがある。
fediverseは分散型であるため、投稿を管理したり、アカウントを削除する単一の権限はなく、すべてはユーザとサーバに委ねられている。Mastodonのユーザは一般に、投稿にコンテンツ警告マークをつけている。これは本当にセンシティブなコンテンツ(たとえば、戦争のニュースに関するコンテンツ警告)のためだけではなく、タイムライン上の投稿の足跡を最小化するためにも用いられている。また、ハッシュタグと合わせて、センシティブではない投稿の分類やキュレーションにも用いられている(たとえば、コンテンツ警告:「うちの猫 #pets」)。
だが、こうした違いを逆から、つまりMastodonユーザがTwitterに乗り換える際に知っておくべきことは何かという視点で考えてみるのもいいだろう。既存のソーシャルメディアと、それに変わる連合型メディアの間には常にトレードオフが存在する。プラットフォームとフェデレーションとの競争という新たな火種は、新たなイノベーションとオンラインにおける我々の自律性の向上という2つの可能性を秘めている。
Leaving Twitter’s Walled Garden | Electronic Frontier Foundation
Author: Ross Schulman and Jon Callas / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: November 18, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Lucas van Oort