以下の文章は、電子フロンティア財団の「KOSA’s Online Censorship Threatens Abortion Access」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

中絶が禁止または厳しく制限された22の州の住民にとって、インターネットは文字通り命綱となっている。ケアを受けられる場所や方法、中絶資金へのリンク、法的リスクを回避する方法など、ネット上には不可欠な情報が存在している。活動家たちはオンラインで組織化とコミュニティ構築を行い、リプロダクティブヘルスケア団体はそれを活用して貴重な情報を提供し、支援を必要とする人々とつながっている。

しかし今、共和・民主両党の議員たちが、若者をこれらの重要なヘルスケアリソースから遮断し、成人と子ども、双方のオンラインでの中絶情報を抑制しかねない連邦法の制定を積極的に推し進めている。

今夏、米国上院は子どもオンライン安全法(KOSA)を可決した。この法案は、子どものオンライン保護という名目で、連邦政府と州司法長官に問題があると判断したオンライン上の言論を制限する権限を与える。だが、その試みは的外れで効果的も期待できない。すでに多くの団体がKOSAがオンラインのLGBTQ+コンテンツにもたらす危険性について警鐘を鳴らしているが、この法案の危険性はそれにとどまらない。

KOSAは中絶を求める人々を危険にさらす。セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスケア(性と健康に関するヘルスケア)についての重要な情報、場合によっては命に関わる情報が検閲されかねない状況を作り出す。さらに、インターネットに年齢制限を設ければ、ウェブサイトはユーザに身分証明書の提出を求めるようになり、中絶情報を匿名で検索する自由も奪われかねない。

検閲される中絶に関する情報

EFFがこれまで再三警告してきたように、KOSAはオンライン言論を抑圧する。この法案は、政府当局者に、どのようなコンテンツがオンラインで共有され、読まれるべきかを決定する危険かつ違憲の権限を与える。主要な検閲条項の1つとして、KOSAは「注意義務」と呼ばれるものを設けている。この条項は、ウェブサイト、アプリ、オンラインプラットフォームに対し、すべての「設計機能」において「未成年者への害」を防止し軽減するという、曖昧で広範な義務を課している。

KOSAには、ウェブサイトが防止すべき害のリストが長々と記載されており、そこには感情的混乱、身体的危害につながる行為、オンラインハラスメントなどが含まれる。このリストは解釈の余地が広く、多くの害は極めて主観的であるため、政府当局者はあらゆる問題にこの法案を適用できると主張できてしまう。

これはKOSAの政治的な悪用への道を開くことになる。中絶に反対する当局者による悪用も含まれるだろう。KOSAは曖昧すぎるため、当局者がセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスケア情報もその義務に含まれると容易に主張できる。例えば、中絶情報が感情的混乱や死をもたらす、あるいは「性的搾取や虐待」につながるおそれがあると主張することもできてしまう。これがとりわけ懸念されるのは、中絶反対運動は長年にわたり、中絶がうつ病や自傷行為などの精神的健康問題を引き起こすと(信頼できる研究でそれが否定されているにもかかわらず主張し、中絶制限を正当化してきた歴史があるからだ。

その結果、未成年者が妊娠する可能性があり、ニュースや情報をソーシャルメディアから得る可能性が最も高い層であるにもかかわらず、ウェブサイトは未成年者にみられないように、そうしたコンテンツをフィルタリングしブロックすることを強いられることになる。このような情報をブロックすることで、KOSAは若者の命に関わるセクシャル・リプロダクティブ・ヘルスケア情報へのアクセスを断つことになりかねない。子どもを守るどころか、むしろ危険にさらすのだ。

KOSAの広範で曖昧な検閲要件は成人にも影響を及ぼす。責任を回避し、訴訟のコストと手間を避けるために、ウェブサイトやプラットフォームは、そのコンテンツが他の点では合法であっても、対象になるかもしれないコンテンツを過剰に検閲する可能性が高い。その結果、成人を含むすべてのインターネットユーザにとって重要なリプロダクティブ・ヘルス情報が削除されることにもなりかねない。

中絶反対派の手に渡る危険な武器

KOSAの「注意義務」条項が、リプロダクティブ・ライツ[生殖の権利]に敵対的な将来、あるいは現在の政権によって定義され執行されることを忘れてはならない。この法案は、大統領の所属政党が多数を占める連邦取引委員会(FTC)に、ガイドラインを策定し、遵守しないウェブサイトやプラットフォームを調査・提訴する権限を与えている。また、行政府に「オンラインプラットフォームに関連する未成年者への害の新たな、または現在のリスク」をさらに特定するための子どものオンライン安全評議会を設置する権限も与えている。

一方、KOSAは中絶制限州を含む州の司法長官に、「注意義務」と交差する他の条項に基づいて訴訟を起こす権限を与えている。EFFが指摘してきたように、これにより州の当局者は中絶情報を含む、気に入らないコンテンツを標的にし検閲するためのバックドアを手に入れることになる。

中絶反対の当局者がKOSAをこのように使用することは容易に想像できる。法案の共同提案者の1人であるマーシャ・ブラックバーン上院議員(共和党・テネシー州)は、子どもたちがオンラインで「洗脳されている」と主張し、KOSAが社会問題に関するオンラインコンテンツを検閲する手段であることを宣伝している。中絶反対の見解を表明する政治的影響力のある組織であるヘリテージ財団もKOSAに注目している。この組織は議員に法案の可決を働きかけ、将来の政権が子どものオンライン安全評議会を「プロライフの価値観を共有する代表者」で埋めることができると示唆している。

これらはすべて、オンラインの中絶情報を検閲しようとする動きが最高潮に達している時期に起こっている。中絶制限州では、当局者がすでに熱心にインターネットから中絶の痕跡を消そうとしている。サウスカロライナ州テキサス州の議員は、オンラインの中絶情報を検閲する法案を提出したが、どちらの試みもまだ成功していない。全米生命権委員会(National Right to Life Committee)もまた、デジタル情報へのアクセスを含む様々な方法で中絶の権利を制限することを目的とした中絶法のモデルを作成している。

KOSAがオンラインの匿名性を奪う

KOSAはまた、インターネットの重要な情報リソースの多くを年齢制限の壁の向こう側に追いやってしまう。オンラインサービスは未成年のユーザを特定するために、年齢確認システムを導入しなければならなくなるだろう。これは成人と未成年の双方に、政府発行の身分証明書やその他の個人記録を含む身元確認情報を提供して年齢確認を求めるものだ。

リプロダクティブケアへのアクセスを維持する上で、これは深刻な問題となる。年齢確認は、ウェブページや情報にアクセスする前にユーザに身元確認を求めるため、オンラインで匿名性を保つ憲法修正第1条の権利を損なう。これにより、自身の身元を明かしたくないユーザがオンラインの中絶リソースにアクセスしたり共有したりすることを躊躇させ、他のユーザの身元が晒される危険性を高めることになる。

ロー対ウェイド判決後の米国において、州がますます中絶を禁止、制限、起訴するようになる中、匿名で中絶情報を求め共有する能力はかつてないほど重要になっている。中絶制限州に住む人々にとって、オンラインで中絶情報を検索・共有することは大きなリスクを伴う。法執行機関がインターネット履歴を含むデジタル証拠を中絶関連の刑事事件で使用した事例がすでに複数あるのだ。また、中絶に寛容な州においても、医療専門家に対するオンラインハラスメントやドキシングの増加が見られる。

このため、EFFを含む多くの組織が、オンラインでのプライバシーと匿名性を保護するための措置を講じるよう人々を支援しようとしてきた。KOSAはこれらの取り組みを台無しにしてしまう。我々のオンライン環境はすでに広範囲にわたる民間の監視で満ちている。しかし、年齢確認は大規模なデータ収集の新たなレイヤーを追加するものとなる。オンラインでのIDチェックでは、成人はさまざまなデータの詰まった政府発行のIDをウェブサイトまたは外部認証者にアップロードしなくてはならず、そのウェブサイトへの訪問記録が残され続けることになるかもしれない。

このことは、すでに匿名を維持し、監視を避ける対策を講じている中絶希望者に、さらに困難な状況を生み出すことになる。公共のコンピュータを使用したり、ソーシャルネットワークで匿名プロフィールを作成したりしても、必要な情報にアクセスするためにIDをアップロードしなければならないのであれば、安全は到底確保できない。

まだ「子どもオンライン安全法」は阻止できる

KOSAはまだ下院を通過していないため、阻止する時間は残されている。しかし、上院での可決は、下院がいつでも採決にかける可能性があることを意味している。また、下院は同様に欠陥のある独自版のKOSAを提出している。オンラインでの中絶情報へのアクセスを守りたいのであれば、今すぐKOSAの可決を阻止するために行動を起こさなければならない。

KOSA’s Online Censorship Threatens Abortion Access | Electronic Frontier Foundation

Author: Lisa Femia / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: September 17, 2024
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Oscar Keys