以下の文章は、電子フロンティア財団の「Here’s How Apple Could Open Its App Store Without Really Opening Its App Store」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

それに対して我々にできること

今年、EUのデジタル市場法(DMA)が可決され、超巨大プラットフォーム(EUで750億ドル以上の収益を上げ、少なくとも4500万人以上のEUユーザを抱えるプラットフォーム)は、競合アプリストアに自社デバイスを開放しなければならなくなった。

これはゲーム機にも影響を及ぼすが、最大の焦点はモバイル市場であり、とりわけAppleのiOSベースのモバイルデバイス(iPhone、iPad、iPod、Apple Watch)の行方である。これらデバイスは、Apple公式のApp Storeにロックインされている。EU法では、2001年EU著作権司令(EUCD)第6条は、ユーザがApple以外のベンダーの代替アプリストアを使用するためにデバイスを改造することを禁じている。

ユーザは競合アプリストアを使うためにデバイスを適法に再設定できないため、iOSアプリをApp Store以外から入手したい場合、Appleに許可を貰わなければならない。ブルームバーグの報道によると、Appleはまさにそれを行おうとしているようだ。

Appleは、自社デバイスを競合アプリストアに開放する計画を正式には発表していない(実際、DMAの遵守についても明言していない)が、ブルームバーグのマーク・ガーマンは、初期プランの詳細についてApple従業員の話を引用している。

Appleは消費者を保護する、投資家を犠牲にしない限りにおいては

いつものごとく、悪魔はその細部に宿る。AppleのApp Storeは、悪意のあるコードやプライバシー侵害、不正な慣習からユーザを保護すべく、概して素晴らしい仕事をしている。だが、いつもそうだとは限らない。他の企業と同じようにAppleも時には間違いを犯す。ただ、Appleの消費者のリスクは、決して見落としやミスに限定されるものではない。

消費者のプライバシーとインテグリティに対するAppleのコミットメントは称賛に値するが、それは絶対的なものではない。Appleは消費者の利益と株主の利益とのバランスを取り続けている。中国政府がAppleに対し、App StoreからVPNアプリを削除するよう命令すると、Appleはそれに従った。中国政府がAppleに対し、自社のクラウドバックアップサービスにバックドアを設けるよう命令すると、Appleはそれに従った。中国政府がAppleに対し、AirDropを反政府デモの組織化に利用できないよう修正を命令すると、Appleはそれに従った

一方、FBIがAppleに自社デバイスのバックドアを追加するよう命令すると、Appleは拒否した。もちろん、それは正しい選択である

このことは、Appleが中国の消費者の安全性やプライバシー、表現の自由を、米国の消費者の安全やプライバシー、表現の自由よりも重視していることを意味するものではない。

もしAppleが低賃金の中国の製造工場と3億5000万人の中国中産階級の消費者へのアクセスを遮断されれば、プロダクトの製造により高額なコストを支払わなければならなくなり、販売台数も激減することになるからだ。当然中国での販売台数はゼロになるし、製造コストの上昇によって価格が上がれば他の地域での販売台数も減ることになる。

アプリ税

強力な政府が関与していない場合でも、Appleは消費者よりも株主を優先することがある。同社は非常に高額な決済手数料(大企業は30%、一部の中小企業は15%)を徴収しているため、一部の製品やサービスは赤字を垂れ流さなければアプリを提供でない。たとえばオーディオブックの卸売割引は20%だ。iOSアプリでオーディオブックを販売しようとすれば、1冊売れるごとに損することになる。

オーディオブックの場合、Appleはその高額な手数料を利用して自社製品のApple Booksの競合を排除している。さらにApple Booksは、電子書籍を販売するごとに(DRM:デジタル著作権管理を通じて)、その購入者をAppleのプラットフォームに永久にロックインしている。

恐ろしいことに、この「アプリ税」はAppleにとっては最良の結果をもたらしている。他のケースでは、企業は値上げすることでAppleの手数料をAppleの消費者に転嫁している(iOSアプリを介して販売する企業はアプリ税を支払わなければならないので、価格を上げざるを得ない)。それでも、アプリ税を支払うと採算が合わないので製品やサービスが市場に出回らない、アプリ税を販売価格に上乗せすると製品が売れなくなるという最悪の事態よりはマシではある。

こうした悪い結果は、あらゆるアプリストアビジネスについて回る。何が買えて、何が買えないか、いくらで買わなければならないかを決定できる支配的な企業は、その力を使って消費者から株主に価値を転嫁できる。消費者がプラットフォームに投資すればするほど、プラットフォームの経営者は消費者が離脱することを恐れることなく、より虐げることができるようになる。高いスイッチングコストは、良き企業行動の敵なのだ

囲まれた庭と監獄の壁

企業がバッドアクターを排除するために製品を堅牢な要塞にするのは悪いことではない。だがその要塞の壁は消費者を閉じ込める牢獄の壁になりかねない。たとえば、AppleはiOSにプライバシーに関する変更を加え、サードパーティによるトラッキングの大部分を遮断した。だが、iOSユーザがトラッキングをオプトアウトしても、Apple自身はひそかにスパイ行為を続けている。そこでDMAの出番だ。DMAはアプリストアをライバルに開放するよう強制することで、競争を利用して大企業を懲らしめる。Appleに要塞を築くことを許すが、それを牢獄にすることを許さないのだ。たとえば、サードパーティのアプリストアは、AppleによるiOSデバイスのトラッキングをブロックし、Appleデバイスの所有者がすべてのトラッキングからの真のオプトアウトを可能にすることができる。

だが繰り返しになるが、悪魔は細部に宿るものである。ブルームバーグで報道されたApp Storeのプランは、法の文言やその趣旨(消費者にAppleおよび同社の打算的な判断以外の真の代替選択肢を提供すること)を満たすことなく、AppleがDMAを遵守していると主張できるようなのまやかしを多分に含んでいるのである。

DMAを妨害する方法

Appleのプランが煮詰まってくるにつれ、注意すべき赤信号がいくつかある。

ソフトウェア開発者がAppleのDeveloper Programへの登録を強要されること。AppleのDeveloper Programは、お金を支払って参加を選択したソフトウェア開発者に、さまざまなツールやサービスを提供している。だがそれは任意でなくてはならない。お金を払ってAppleのお墨付きを得ることにメリットを感じる開発者もいれば、節約したい開発者もいるだろう。あるいは、目が眩むほど長く、肝が冷えるほど恐ろしい開発者規約にサインしたくない開発者だっている。

iOSデバイスを他のアプリストアに開放する一環として、AppleはiOS開発者向けのライバルツールチェーンやソフトウェア開発キット(SDK)の開発を妨害してはならない。ソフトウェア開発がどのツールを使うかを選択できるようにしなくてはならない。

競合アプリストアがApp Storeと同じ編集基準を強要されること。DMAは、App Storeを自由競争の場にすることを提案しているわけではない。Appleは、サードパーティのiOS App Storeに何らかのセキュリティ基準を課すことは許されている。だが、Appleがセキュリティ上の懸念を口実に、競合ストアを監督することは許されない。Appleの編集基準を満たさないアプリ――たとえば海外の搾取工場での労働をシミュレートするゲームや、米国の無人爆撃機による民間人の死亡事例を報告するアプリ――であっても、他のアプリストアの編集基準を満たしていれば、ブロックされるべきではない。

サードパーティアプリストアがセキュリティ審査のためにAppleへの支払いを強要されること。Appleがサードパーティアプリストアが取り扱うアプリのセキュリティを評価する基準を監督することと、Appleが競合に対して販売するアプリの審査費用を要求することはまた別の問題である。ブルームバーグによると、Appleはそうした計画を立てているようだ。Appleが世界各国の政府に提出した資料に反して、アプリのセキュリティを評価できるのはAppleだけではないしAppleがそれを完璧にこなせているとも言い切れない

サードパーティアプリストアにAppleを介した決済処理を義務づけること。サードパーティアプリストアおよび扱われるアプリは、どの決済手段であろうと選択できなくてはならない。Appleがアプリビジネスを守りたいなら、競争力のあるプロダクトを作るべきで、すべての参入者に30%のアプリ税を支払うよう命令する立場に置いてはならない。

サードパーティアプリストアの恣意的な排除。AppleのApp Storeに依存する企業に共通する不満は、Appleが気まぐれかつ恣意的にアプリの申請を却下することだ。Appleは一部のアプリをルール違反だとしてApp Storeから排除する一方で、同じルールに違反する他のアプリは黙認している。このことは、個々のアプリに適用された場合にも不満を生み出すが、アプリストア全体に適用された場合には、より深刻な事態を引き起こすかもしれない。

Appleがセキュリティ義務を果たしていないとの理由でアプリストアを排除した場合、その措置が妥当であったかを判断するのに長い時間がかかるだろう。その間、削除されたアプリストアの利用者は購入したメディア、利用するサービス、アプリに預けたデータへのアクセスを失いかねない。

アプリストアの不誠実な排除は、DMAそのものにとっても深刻な危険性をはらんでいる。サードパーティアプリストアが何の前触れもなく消えたという嫌な経験が何度も繰り返されれば、サードパーティアプリストア自体を使う気にはならなくなるだろう。

DMAを守るために

幸いなことに、DMAはこうした問題について、企業に最終的な決定権を与えていない。EUの行政機関である欧州委員会が、規制の遵守・監督・強制の権限を持つ。

セキュリティ審査基準、編集基準、アプリストアの削除基準、削除されたアプリストアのユーザへの救済措置など、こうしたことは関係する企業の判断だけに委ねることはできない。企業は時には消費者の側につくこともあるが、消費者の利益と株主の利益との板挟みになれば、常に株主の側に立つのである。

なぜ欧州の動きを歓迎すべきなのか

状況はいまだ不透明だ。Appleのプランも確定しているわけではないし、EUはDMAの運用と執行の準備を進めているところである。

だが、欧州の消費者が取り戻した権利を、Appleが世界中の消費者にも認めることを我々は切に願っている。誰であろうと、どこに住んでいようと、我々は技術的自己決定権を持つべきなのだから。

Here’s How Apple Could Open Its App Store Without Really Opening Its App Store | Electronic Frontier Foundation

Author: Cory Doctorow / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: December 20, 2022
Translation: heatwave_p2p
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