以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Everything advertised on social media is overpriced junk」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

「行動ターゲティング広告と消費者福祉」という論文で、著者のカーネギーメロン大学とパンプリンカレッジのビジネス研究者たちは、高度にターゲット化されたオンライン広告と単なるウェブ検索で購入される商品の違いを調査し、ソーシャルメディア広告がより高額なジャンク品を売りつけているとの結論に至っている。

https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4398428

具体的には、ターゲット広告の商品価格は平均して10%ほど割高で、商事改善協会(Better Business Bureau)の評価が低い業者の商品である可能性が非常に高いという。何を今さら……と思われるかもしれないが、これはメディア、商業的監視、そしてインターネットの未来に多大な影響を及ぼすものである。

伝説的データジャーナリスト、ジュリア・アングウィンがニューヨーク・タイムズに書いた記事で、その影響が解説されている。アングウィンがケーススタディの軸に据えたのは「ジェレミーズ・レザー(Jeremy’s Razors)」ーー男の中の男のための「ウォーク・フリー」なシェービング・ソリューションとして自社プロダクトを宣伝するカミソリ企業だ。

https://www.nytimes.com/2023/04/06/opinion/online-advertising-privacy-data-surveillance-consumer-quality.html

ジェレミーズ・レザーは広告にクソほど金をかけている。Facebookの広告ライブラリによると、同社は3月に80万ドルを投じ、「ハーシーズ」、「究極の戦い」、「狩猟」、「ジョニー・キャッシュ」が好きな小学生の父親をターゲティングしてFB広告を出している。

https://pluralistic.net/jeremys-targeting

冷静に考えて、「反ウォークのカミソリ」なんて笑えるくらい頭悪いんだが、それはさておき。ここでのポイントは、ジェレミー社は消費者にリーチするために月80万ドルを費やさなければならない、ということである。つまり、80万ドルの減益を受け入れるか、それを価格に添加するか、品質を落とすかのいずれかを選ばなければならない。

クリエイターやメディア企業、オーディエンスの間に陣取るアドテク・プラットフォームにとって、ターゲティング広告は非常に旨味があり、そして極めて有利にできている。アドテク企業は広告をターゲティングするために、あらゆるインターネットユーザのプライベートかつセンシティブな、時に誰にも見られたくないような情報を同意を得ずに収集しなくてはならない。

ターゲティング広告への転換は、FacebookやGoogleなどの企業が高品質なサービスを餌にエンドユーザをおびき寄せるというメタクソ化(enshittification )サイクルの一部となった。当初、Facebookはユーザが見たいといった投稿を見せていたし、Googleは最高の検索結果を返していた。

そうして、ユーザたちは囲い込まれていった。友達みんながFacebookに登録してしまうと、その友達とのつながりが切れるのを恐れて、Facebookから離れることができなくなる。お互いがお互いの人質になってしまうのだ。Googleは資本市場からの資金をテコにーーたとえばAppleデバイスのデフォルト検索エンジンの座に年間数百億ドルを支払うことでーーライバルの検索企業を検索市場から追い出すことに成功した。

いったん我々を囲い込んでしまうと、大手テック企業はメディア企業や広告主を厚遇するために、我々を冷遇するようになる。MySpaceに代わるプライバシー重視のサービスを謳っていたFacebookは、我々のデータを収集しないという約束を反故にして大規模監視へと方向転換し、安価で正確な広告ターゲティングを実現した。

https://lawcat.berkeley.edu/record/1128876?ln=en

Googleは創業当時の技術文書であるページランク論文の予言「広告ベースの検索エンジンは、本質的に広告主に傾斜し、消費者のニーズからは遠ざかるだろう」を見事に成就してみせた。Googleもまた、安価で高度なターゲティング広告を提供したのである。

http://infolab.stanford.edu/~backrub/google.html

FacebookとGoogleは、広告主を厚遇するだけでなく、メディア企業やクリエイターにも多大な恩恵を与え、両者に膨大なトラフィックを流してやった。Facebookはメディアのコンテンツを望んだわけでもないユーザのフィードにメディアコンテンツを流し込み、本当に望んでいた友達の投稿を追いやった。Googleはメディアの投稿を上位に表示することで同じことをした。

エンドユーザとビジネスパートナーの囲い込みに成功したFacebookとGoogleは、その両者に与えていた余剰を剥奪して、自社の株主に献上した。かくして広告費は高騰し、メディア企業の広告収入の分前は減り、ユーザのフィードや検索結果には広告が溢れかえった。

FacebookとGoogleは違法に結託し、広告主(訳注:買い手)とメディア企業(訳注:売り手)の双方から金を巻き上げるために、Jedi Blueと呼ばれるプログラムで広告市場を不正に操作した。

https://techcrunch.com/2022/03/11/google-meta-jedi-blue-eu-uk-antitrust-probes/

Facebookのモバイル監視を阻止したAppleだが、自社のターゲティング広告プログラムのために、たとえユーザが明示的に監視を拒否していたとしても、iPhoneやiPadユーザの監視を強化した。

https://pluralistic.net/2022/11/14/luxury-surveillance/#liar-liar

現在、我々は歯と爪が真っ赤に染まった(訳注:弱肉強食の)メタクソ化した終末の時代を生きている。メディア企業の収益は減少し、広告主のコストが高騰する一方で、大手テック企業は数千億ドルを稼ぎ、数十万人の労働者を解雇し、自社株買いに数百億ドルをつっこんでいる。

https://doctorow.medium.com/mass-tech-worker-layoffs-and-the-soft-landing-1ddbb442e608

アングウィンが指摘するように、行動ターゲティング広告以前の時代なら、ジェレミー社は雑誌『Deer & Deer Hunting』だとか、少なくともウォーク・カミソリを欲しがらないガチムチ系向けの雑誌の広告を買っていたのだろう。だが、同じことがすべてのプロダクト、すべての出版物にも当てはまる。非同意の大規模監視が行われる以前には、広告は内容や文脈の関連性が重視されていたのであって、読者の過去の行動とは無関係だった。

今日の広告は以前のようには戻れないんだ、なんてことはない。コンテクスト広告は、ターゲティング広告と同じ「リアルタイム入札」メカニズムによって、記事の内容とユーザの基本的なパラメータ(IPアドレスに基づく大まかな位置、時間帯、デバイスの種別)に応じて広告を掲載するので、監視というものを必要としない。

https://pluralistic.net/2020/08/05/behavioral-v-contextual/#contextual-ads

コンテクスト広告はターゲティング広告と同等のパフォーマンスを発揮するが、その権力構造は根本から異なる。大規模監視を実践し、データブローカーから購買データ・位置情報・家計データを購入するアドテクの巨人ほど、メディア企業はユーザのことを知らない。だが、記事の文脈や内容については、それを掲載するメディア企業ほど詳しいアドテク企業も存在しないのだ。

コンテクスト広告は、メディア企業やクリエイターの作品に付随して表示される広告である。テック企業がこうした広告をメタクソ化するのは非常に難しい。メタクソ化には囲い込みが不可欠だが、何を公開し、それが何を意味するのかを誰よりも良く知るパブリッシャを囲い込むのは困難だからだ。

監視広告は禁止されなければならない、以上だ。企業は我々の意味あるオプトイン同意なしに我々のデータを収集してはならない。それがスタンダードであったなら、(訳注:現在のような)データ収集など行われてはいなかっただろう。

https://pluralistic.net/2022/03/22/myob/#adtech-considered-harmful

Appleがトラッキング(追跡)のオプトアウトボタンを導入したとき、94%以上のユーザがそれをクリックしたのを覚えているだろうか(「Facebookにスパイさせてもよいですか?」に「はい」をクリックしたなら、そいつはFacebookの従業員か、錯乱していたに違いない)

https://www.cnbc.com/2022/02/02/facebook-says-apple-ios-privacy-change-will-cost-10-billion-this-year.html

広告ターゲティングは、政治的偽情報から収益を上げるといったような、さまざまな邪悪を可能にする。そして、割高で低品質なプロダクトを生み出す。Consumer Reportsに掲載されたシュミット・シャルマのレポート「消費者への不当な仕打ち(A Raw Deal For Consumers)」には、技術的規制の欠如が米国人にもたらすさまざまなコストが列挙されている。

https://advocacy.consumerreports.org/wp-content/uploads/2023/04/A-Raw-Deal-for-US-Consumers_March-2023.pdf

シャルマは、EUデジタル市場法・デジタルサービス法によって欧州市民、価格の低廉化、プライバシーの強化、選択肢の増加、モバイル機器でのクラウドゲーム、アプリストアの競争などの利益がもたらされると説明している。

だが、EUと米国ーーさらにはカナダとオーストラリアーーのニュース産業向けの法整備は、テック企業にニュースのリンクやスニペットのライセンス料を支払わせるという、トンチキな「リンク税」ばかりに集中している。これは現状を見誤った見当外れのアプローチだ。テック企業はメディア企業のコンテンツを掠め取っているのではなく、メディア企業の金を掠め取っているのだから。

https://pluralistic.net/2022/04/18/news-isnt-secret/#bid-shading

誰がニュースを議論してよいかをコントロールする新たな疑似著作権を生み出そうなど、まったくひどいアイデアである。テック企業への鋭く、批判的な報道が切実に求められている時に、メディア企業がテック企業に依存するという歪な構造を生み出すことになってしまう。カナダでは法案C-18が最新のリンク税法案として法制化を目指しているが、すでにこうした利益相反が顕在化している。

ジェシー・ブラウンとベテラン記者から上院議員に転身したポール・サイモンズのポッドキャスト「Canadaland」で議論されていたように、トロント・スター紙は大手テック企業への鋭く丹念な批判記事をたびたび掲載していたが、テック企業から記事のリンクや抜粋のライセンス料を支払われるようになるとその批判もピタリと止んでしまった。

https://www.canadaland.com/paula-simons-bill-c-18/

一方オーストラリアでは、提案された「ニュース交渉行動規範」に基づき、テック大手はメディア企業との「自主的」な交渉に応じることになった。その結果、ルパート・マードック率いるニューズコープは金の大部分を要求し、返す刀で傘下媒体のニュースルームのレイオフを実施した。

フランスでは、パブリッシャはGoogle Showcaseへの参加を通じてリンク税が支払われている。つまり、Googleはニュースコンテンツからより多くの利益を上げるとともに、ニュースパブリッシャをGoogleに依存させられるのである。

https://www.politico.eu/article/french-competition-authority-greenlights-google-pledges-over-paying-news-publishers/

パブリッシャがリンク税の恩恵にあやかり続けるには、パブリッシャは大手テック企業に支配力を維持してもらい、リンク税を支払えるほどに巨額の利益を上げ続けてもらわなければならない。だが、マイク・リー上院議員のアドテク解体法案(まさかのテッド・クルーズとエリザベス・ウォーレンの共同提案!)のようなアドテク市場を修正する立法は、パブリッシャが力を取り戻し、それによって利益を上げることを可能にしてくれるだろう。

https://www.lee.senate.gov/2023/3/the-america-act

アドテク仲介業者が広告費の50%以上を掠め取っている現状にあっては、リンク税に頼らずともニュース業界を救える余地は十分にある。アドテク市場の再編により広告費に占めるプラットフォームの取り分が10%程度になれば、広告主とパブリッシャが残りを分け合うーー広告主が支出の20%を減らし、パブリッシャが利益を20%増やすーーこともできるだろう。

さらに、連邦プライバシー法を制定し、監視広告を一気に禁止できれば、プラットフォームではなくパブリッシャが主導権を握るコンテクスト広告に市場をシフトさせることもできる。おまけに、Tiktokが米国人をスパイすることもなくなるし、Google、Facebook、Apple、Microsoftのスパイ行為もなくなる。

https://pluralistic.net/2023/03/30/tik-tok-tow/#good-politics-for-electoral-victories邦訳

欧州が進めているアプリストアの競争義務づけによって、GoogleとAppleの30%の「アプリストア税」(AndroidとiOSのすべてのアプリで行われる取引から徴収される手数料)もなくなるだろう。クレジットカードの手数料だけになれば、各メディアの購読者1人あたりの売上は25%ほど跳ね上がることになる。

さらに、テック大手に対して、送り手から受け手への更新情報の配信を義務づけるエンド・ツー・エンド・ルールを設け、購読するニュースレターが迷惑メールフォルダ落ちしないようにしたり、フォローするメディア企業やクリエイターの投稿がすべてフィードに表示させるようにするのもいいだろう。

https://pluralistic.net/2022/12/10/e2e/#the-censors-pen邦訳

そうすることで、大手テック企業の浅ましいメタクソ化の手口を塞ぐことができる。つまり、クリエイティブ・ワーカーやメディア企業に、そのコンテンツを見たがっている人たちに届けたければ金を支払って「ブースト」しろ(あるいはブルーチェックに月8ドルを支払え)とは言えなくなるのである。

https://doctorow.medium.com/twiddler-1b5c9690cce6

メタクソ化のポイントは、独占テック企業の株主以外のすべての人たちが割を食うということである。ジェレミーズ・レザーも割りを食っている。同社の評価は、5点満点で2.7点。

https://www.facebook.com/JeremysRazors/reviews

同社はこの低評価のカミソリを高値で売っている。行動ターゲティング広告のお陰で、このプロダクトは広く知れ渡ることになる。その広告はメディア企業やクリエイターたちを飢えさせ、同時にソーシャルメディアや検索結果を荒廃させる。

リンク税も、ビッグテックがビッグであり続けることを前提とし、メディア企業にわずかなパンくずをばらまき、最大手のメディア企業を厚遇する一方で小規模で独立したローカルな報道機関を冷遇しながら、裕福な利害関係者を辛辣に報道できなくするものでしかない。

対照的に、プライバシー保護、アドテク解体、アプリストアの競争、エンド・ツー・エンド配信は、ビッグテックの支配力を打ち砕き、ユーザ、クリエイティブワーカー、メディア企業にその力を移譲する。こうしたソリューションは、ビッグテックが消滅しても機能するし、その消滅を早めるものでもあるのだ! しかも、大企業ばかりでなく、独立系企業にも有効なソリューションだ。

あなたがニューヨーク・タイムズであれ、退職してクラウドファンディングで地元の教育委員会や町議会を取材する元タイムズ記者であれ、支配権と利益分配の構造を変えることは、ビッグテックが存在していようといまいと、あなたにとって有益であり続けるのだ。

(Image: freeimageslive.co.uk, CC BY 3.0, modified)

Pluralistic: Everything advertised on social media is overpriced junk (08 Apr 2023) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: April 8, 2023
Translation: heatwave_p2p