以下の文章は、電子フロンティア財団の「To Save the News, We Need an End-to-End Web」という記事を翻訳したものである。
本稿は全5回連載シリーズの第5回である。第1回のイントロダクションはこちら。アドテク企業の解体に関する第2回はこちら。監視広告の禁止に関する第3回はこちら。アプリストアの開放に関する第4回はこちら。このシリーズ全体は1つのPDFでダウンロードできる。
かつて報道機関は熱心にソーシャルメディアに取り組んだ。FacebookやTwitterといった新たなプラットフォームは強力な「トラフィック流入装置」だった。レコメンド・アルゴリズムがニュース記事の抜粋を莫大の新規読者に紹介し、読者は抜粋に付されたリンクを辿ってソースにアクセスする。それはニュース消費の1つのかたちとなった。
Facebookなどのプラットフォームが新規事業に不可欠になるにつれ、プラットフォームは取引を見直した。まず手を付けたのは、ニュース投稿全般の「優先順位を下げる」ことだった。
この見直しにより、ニュースパブリッシャをフォローしていないユーザに記事がレコメンドされにくくなった。だが、それはこの見直しの一面に過ぎない。パブリッシャをフォローしているユーザ、つまりパブリッシャの投稿を閲覧したいとFacebookに明示的に伝えている人たちにも記事の投稿が届けられなくなったのだ。
Facebookは表向き、「フレンド」の投稿を優先表示するようにしたためだと説明した。だがその一方で、Facebookのアカウントマネージャーたちは、パブリッシャに投稿を「ブースト」するよう強い圧力をかけつづけた。
つまり、「Facebookはユーザのフレンドの投稿を優先的にフィードに表示することにしました。実際、私達はユーザのフレンドの投稿を優先しています。もちろん、パブリッシャの皆様にはお金を支払ってさえいただければ、フレンドのポストと一緒にパブリッシャ様の投稿もフィードに戻して差し上げます」と言外に言っていたわけだ。
Facebookはパブリッシャが「リーチ(到達)」にお金を払うと踏んでいた。Twitterの新たなポリシーもそれを踏襲している。「あなたをフォローするユーザに確実にリーチしたいなら、Twitter Blueに登録してください。メディア企業の皆さんは月額1000ドルからです」。
Facebookの親会社、Metaもメディア企業への身代金を釣り上げている。有償の「認証(verification)」を受ければ投稿がフォロワーたちに届くようになるというやんわりした約束をエサに。
テック企業の理屈は単純明快だ。「エンドユーザとパブリッシャを囲い込めば、プラットフォームはその両者が生み出す価値すべてを簒奪できる(し、そうしなくてはならない)」。本来的には、ユーザフィードはユーザが見たいと求めたもの、ユーザが楽しむだろうと推測されるものだけを表示し、それによってプラットフォームはユーザを留めるべきである。
当然ながら、ニュースはユーザが集まる場所を必要とする。ユーザがプラットフォームに繋ぎ止められている限り、報道機関はプラットフォームに参加せざるを得ない状況に追い込まれる。それゆえプラットフォームは、フォロワーたちにニュースを届けたいなら「ブースト」や「認証」という名目でデーンゲルド(みかじめ料)を支払うよう報道機関に求めることができる。
このようなやり口――プラットフォームがユーザの意志を無視して、最も儲かるコンテンツを優先的に配信する背信行為――は、由緒正しきエンド・ツー・エンドの原則に反する。プラットフォームの第一の義務は、意思ある送信者から意思ある受信者に、可能な限り迅速かつ確実にデータを配信することでなければならない。
エンド・ツー・エンドをインターネットのそのものに適用した場合、それは「ネット中立性」と呼ばれる。ISPはユーザが求めるデータ(たとえば、あなたが好むストリーミングサービスのビデオ)を迅速かつ確実に配信すべきであって、ISPの株主を利するデータ(ISPが所有するストリーミング・サービスのビデオ)を優先してはならない、という考え方だ。
インターネットそのものがそうであったように、初期のソーシャルメディアには中立性があった。当初のソーシャルネットワークはユーザをつなぐ導管であり、すべてのユーザの投稿がそのフォロワーに表示された。次に、フォローしているユーザの注目を集めている投稿を優先表示するレコメンド・システムがフィードに組み込まれていった。
だが、デフォルトが「フォローするユーザの投稿を見せる」から、「ユーザが見るべきだと推測されるものを見せる」に変化すると、プラットフォーム管理者は抗いがたい誘惑に襲われることになる。ユーザが求めたものを届けるという暗黙の契約に反して、発信者(パブリッシャ、パフォーマー、クリエイター)にフォロワーに投稿を届けたければ身代金を払え、と突きつける誘惑だ。
金を払ってコンテンツを「ブースト」する――今やありふれた光景だ。広告手数料やモバイルアプリ手数料などの搾取と並び、テックプラットフォームがニュースの生み出す価値を不正に横取りする手法である。
ソーシャルメディアプラットフォームがエンド・ツー・エンドの原則を遵守すれば、このような身代金は消え失せる。そしてソーシャルメディア・ユーザは見たいと言ったものを見ることができ、パブリッシャは自らをフォローするオーディエンスにリーチできるようになる。
規制や法律でプラットフォームにエンド・ツー・エンドの配信を義務づけてもいいが、わざわざ立法を待つ必要もない。これまでプラットフォームは詐欺、プライバシー、競争の既存法に違反し続けてきた。最大手のテック企業は長年に渡って遅延戦術を成功させてきたが、それももう終わりだ。今やその悪行によって巨額の罰金を課されようとしている。
罰金を課すだけでは、企業のルール違反を抑止することはできない。企業にとって罰金は値札であり、罰金よりも不正によって得られる利益の方が大きいなら、企業は喜んで罰金を支払うだろう。
罰金額を上げれば、企業は落とし所を探るために訴訟を起こすことになるだろう。そうして、長く苦しい戦いに終止符を打つために和解を提案してくる。この和解こそ、規制当局が各サービスのエンド・ツー・エンド・ルールを策定する絶好の機会だ。
プラットフォームに対するハラスメント抑止義務などの規制とは異なり、エンド・ツー・エンドのルールは運用が容易である。ハラスメント禁止ルールを定めるには、ハラスメントの定義や、特定の事案がハラスメントに当たるか否かについて合意形成、そしてプラットフォームがハラスメント抑止に合理的措置を講じていたかを判断する事実関係に基づく調査が必要となる。
一方、プラットフォームが約束通りメッセージを確実に配信していないと疑われる場合、テストメッセージを送信し、それが届いているかどうかを確認すれば良いだけだ。
さらに、エンド・ツー・エンド・ルールの遵守は高額なエンジニアリングを必要とはしないので、ルールが小規模で善良なプラットフォームの参入障壁になることもないだろう。ソーシャルメディアのデフォルト状態は、送信者から受信者への配信である。余計なエンジニアリングは必要になるのは、フォロワーを拘束して人質にするためなのだ。
テック業界が競争していた時代、イノベーションの大部分はエンドユーザとパブリッシャの双方により多くの価値を提供することに費やされた。だが、テック企業が中小の競合企業を買収し、肥大化した企業によって支配される集中産業になると、「イノベーション」はユーザとビジネス顧客の双方から価値を横取りする新たな手口を意味するようになってしまった。
まさに電気通信市場で経験したことだ。電気通信の独占企業がレントシーキングに陥ったとき、我々はより良いネットワークを構築した。
その際に武器となったエンド・ツー・エンドの原則は、ソーシャルメディアプラットフォームの不公正を正すのにも大いに役立つだろう。
To Save the News, We Need an End-to-End Web | Electronic Frontier Foundation
Author: Cory Doctorow / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: June 12, 2023
Translation: heatwave_p2p