以下の文章は、電子フロンティア財団の「Geofence Warrants Threaten Civil Liberties and Free Speech Rights in Kenosha and Nationwide」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

2020年8月23日にジェイコブ・ブレイクが警察に射殺された事件を受けて、数百人の抗議者がウィスコンシン州ケノーシャの街をデモ行進した。だがそのデモ参加者の位置情報を、連邦警察が収集していたことが判明した。アルコール・タバコ・火器局(ATF)は「ジオフェンス令状」を用いて、器物破損事件が発生した場所周辺――ただし、その範囲はサッカー場1面分にも相当する――にいた人々の情報をGoogleに開示させたのだ。この令状は抗議の権利を脅かすものであり、(訳注:不合理な捜査押収を禁止する)憲法修正第4条に違反するものである。

ジオフェンス令状は、ある時点にある地理的範囲にあるすべての電子機器の情報を提供するよう企業に要請する。ATFは、Googleに発行された少なくとも12件のジオフェンス令状を使用して、ケノーシャでのデモ活動中に参加者の位置情報を収集した(今のところ、令状に従いデータを開示したことが確認されているのはGoogleだけである)。各令状の地理的範囲は、放火事件が疑われる場所を中心としていた。だが、令状は必要以上に広い区域、長い時間の位置情報を要求している。ある令状では、デモ活動中の2時間の間、公共公園全体の3分の1の区域にまで及んでいた。ATFは修正第4条に違反する「一般令状」によって、多くのデモ参加者に事実上の監視網を張り巡らせ、政府のスパイ活動に怯えずに抗議活動をする修正第1条の権利を脅かしたのである。。

警察はジオフェンス令状を使って、デモ活動に参加する無辜の人々の情報や行動を収集できる。この情報には、端末情報、アカウント情報、メールアドレス、電話番号、端末の所有者が使用するGoogleサービスの情報などが含まれ、Android・Appleのいずれの端末からもデータが得られる。デモ参加者がたまたま犯罪現場の近くにいた場合には、警察の捜査に巻き込まれる恐れがある。たとえばミネアポリス警察は、ジョージ・フロイド殺害事件の抗議活動中にジオフェンス令状を使用した。これが公になったのは、器物破損事件の発生地点を中心とする(訳注:ジオフェンス令状に基づく)捜査網に、デモ活動を撮影しただけの無関係な傍観者が引っかかり、Googleがその人物に(訳注:情報開示について)通知したためであった(このような通知が常に行われるわけではない)。また、警察はこのデータを利用して、活動家やデモ主催者の情報を収集することもできる。

このように、ジオフェンス令状は、人々が公共の場で抗議活動など自由な連帯のために必要な匿名性を排除してしまう。法執行機関が平和的な抗議者の所在地を特定することは、彼らの修正第1条の権利の行使を阻害することになる。これは、2020年8月のケノーシャでのデモ活動のように、人々が警察自身の責任を追及するために参加している場合には、特に問題が大きくなる。

Googleは先日、警察が過去3年で少なくとも2万件の令状を発行したというデータを発表した。その数は年を追うごとに指数関数的に増加している。例えば、2018年に209件のジオフェンス令状を発行していたカリフォルニア州は、2020年には2000件近くの令状を発行している。それぞれの令状で、数十から数百のデバイス情報が開示されている可能性がある。こうした令状のほとんどは、州や地方の警察が発行していることもあり、追跡が非常に困難だ。

Googleは、こうした大規模な不正行為に対し、ユーザのために立ち上がらなければならない。ジオフェンス令状はプライバシーや表現の自由に深刻な悪影響を及ぼすのみならず、透明性を欠く運用が行われている。そうした不透明性に対する圧力が高まったことで、Googleも部分的にはデータを公開するようになったが、ジオフェンス令状の大部分は秘匿されたままで、対象者、地理的範囲、期間、令状の根拠について、Googleや法執行機関が明らかにすることはない。そのため、ほとんどの人は自分がジオフェンス令状の対象となっているかどうかを知る術がないのである。このような不確実性は、自由に抗議したり活動したりする憲法上の権利をさらに弱めることに繋がる。

Geofence Warrants Threaten Civil Liberties and Free Speech Rights in Kenosha and Nationwide | Electronic Frontier Foundation

Author: Matthew Guariglia, Mukund Rathi, Houston Davidson and Jennifer Lynch (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: September 10, 2021
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Chris Barbalis