以下の文章は、電子フロンティア財団の「The Bipartisan Digital Advertising Act Would Break Up Big Trackers」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

5月、マイク・リー、エイミー・クロブシャー、テッド・クルーズ、リチャード・ブルーメンソールら超党派の上院議員が、「デジタル広告の競争と透明性法案」を提出した。「デジタル広告法」または「DAA」とも呼ばれるこの法案は、世界最大のオンライン広告企業を規制し、さらには解体しようという野心的な試みである。

Google、Facebook、Amazonなど、インターネット最大のトラッカー企業は、いずれも垂直統合されている。つまり、彼らはデジタル広告サプライチェーンのコンポーネント(構成要素)――より具体的には広告を表示するアプリやウェブサイトから、広告を販売する取引所(アド・エクスチェンジ)、ターゲティングに使用するデータの倉庫にいたるまで――を同時に複数所有しているのである。こうした企業は、意味のある同意なしに膨大な個人情報を収集し、そのデータを共有し、差別的・捕食的な行動ターゲティングを可能にするサービスを販売することで、ユーザに害を及ぼしてる。また、垂直統合を利用して市場のあらゆるレベルで競争を抑圧し、より害の少ない広告ビジネスモデルの構築を阻んでいる。

DAAは、主にデジタル広告業界における垂直統合をターゲットにしている。法案では、広告サービスを以下の4つのビジネスに大別する。

  • パブリッシャ(Publishers ):ウェブサイトやアプリを作成し、ユーザに直接コンテンツを表示する。そのコンテンツの周辺に置かれた広告枠を販売する。
  • アド・エクスチェンジ(Ad exchanges:広告取引所):様々なパブリッシャの広告枠のオークションを行い、広告主から入札を募る。
  • 販売側仲介業者(Sell-side brokerages):パブリッシャ側に立って、アド・エクスチェンジで広告枠を収益化する。業界内では「サプライサイド・プラットフォーム(SSP:supply-side platforms)」とも呼ばれる。
  • 購入側仲介業者(Buy-side brokerages):広告主の側に立って、アド・エクスチェンジで広告枠を購入する。業界内では「デマンドサイド・プラットフォーム(DSP:demand-side platforms)」とも呼ばれる。

端的に言えば、この法案は年間200億ドル以上の広告収入をあげる企業が、上記の複数コンポーネントを同時に所有することを防ぐものである。また、広告事業者に対しては、自社を優遇することなく公正に運営する義務を新たに定め、クライアントとの利益相反を禁止する。この法案は複雑かつ微妙なニュアンスを含むため、ここではすべての条項を分析することはしない。その代わり、この法案が制定されたのちに、背景にある主な考え方がインターネットにどのような影響を及ぼすかを考えたい。

現実世界にどのような影響を及ぼすのか

DAAは、おそらく世界最大のアドテク企業、つまりMeta、Amazon、Googleの3社に適用される。以下に説明するように、3社はいずれも、アドテクノロジーの「スタック」の複数のレベルで、パブリッシャとサービスプロバイダの両方の役割を担っている。

Metaは、Facebook、Instagram、Whatsapp、Oculusなど、コンテンツを直接提供するウェブサイトやアプリを運営している「パブリッシャ」である。同時に、「Audience Network」と呼ばれる大規模なサードパーティ広告プラットフォームを運営し、毎月「10億人以上」にリーチする「数千」のサードパーティアプリの広告枠を販売してもいる。Audience Networkは、基本的にサプライサイド・プラットフォーム、デマンドサイド・プラットフォーム、さらにアド・エクスチェンジとして機能する。また、Metaは自社アプリとAudience Networkに参加する「数千」のサードパーティアプリの双方で、我々のオンライン行動データを収集している。ソーシャルメディア・プラットフォームで収集したユーザのデータは、Audience Networkアプリ内でのターゲティングに使用され、さらにそれらのアプリはユーザの行動データを収集する。このようなクロスプラットフォームでのデータ収集は、アドテク業界のオルガリヒに共通しており、小規模な競合他社よりもユーザをより正確に(そしてより侵襲的に)ターゲティングすることが可能になっている。

一方、Amazonは独自の広告ビジネスを急速に発展させている。以前には、オンライン広告市場はGoogleとFacebookの2社寡占と見られていたが、現在では3社寡占と見るのが適切であろう。Amazonは、Amazon DSPAmazon Attributionという分析プラットフォーム、Sizmek Ad Suiteというサプライサイド・アドサーバーなど、複数のサードパーティ広告サービスを運営している。また、旗艦サイトのamazon.comや電子書籍端末のKindle、Twitch.tv、多数の動画ストリーミングサービスといったAmazon資産の広告枠を販売してもいる。Facebookのように、Amazonは自社の資産で収集したユーザの行動データを使って、サードパーティのパブリッシャにターゲティングさせてもいる。

デジタル広告業界で最大規模を誇っているのがGoogleだ。Google検索、YouTube、Google Mapsなどのユーザ向けサービスで広告を販売し、莫大な利益を稼ぎ出している。だがその舞台裏に目を向けると、Googleの広告インフラはさらに広大である。Googleは各種クライアントに対応する広告ビジネスを展開するために、少なくとも10の異なるコンポーネントを運営している。アド・エクスチェンジ(AdX、旧Doubleclick Ad Exchange)、サプライサイド・プラットフォーム(Google Ad Manager、旧Doubleclick for Publishers)、モバイル広告プラットフォーム(AdMob)はすべて、それぞれの市場セグメントを支配している。サードパーティ・ウェブサイトに挿入される同社のトラッカーは、ウェブ上で最も一般的なものとなっている。そして、競合他社に対する圧倒的な情報優位性に加え、Googleは自社のさまざまなコンポーネントを用いて密かに自社優遇を行い、競争を直接的に阻害していると繰り返し非難されてきた。その結果、同社は現在、世界各国で反トラスト法の調査対象になっている。

3社はいずれも、DAAがが定める収益の閾値を満たしていると思われる。つまり、この法案が成立すれば、3社とも広告事業の整理を求められることになるだろう。Googleは、Youtubeと検索、もしくはそれらのサイトで広告を提供するインフラを運営することはできても、その両方を運営することはできなくなる。さらに、広告コンポーネントを1つにまとめて「Google Ads」というコングロマリットに分割したとしても、200億ドル以上の収益を上げれば、その分割した会社も、アド・エクスチェンジ、サプライサイド・プラットフォーム、デマンドサイド・プラットフォームのいずれかを選択し、その他の部門を分割しなければならない。基本的に、広告大手は、各コンポーネントが収益の閾値を下回るか、アドテク・スタックの1つのレイヤーだけを運営する企業になるまで、自社を分割していかなければならなくなる。

なぜ分割が重要なのか

GoogleとFacebookはユーザ向けプラットフォームを展開しているが、彼らの主要な顧客は広告主である。この変えがたい利益相反によって、プライバシーを売り渡すようなビジネス・デザインが選択されてきたのである。たとえばGoogleは、競合するブラウザオペレーティング・システムがプライバシー保護の姿勢を明確に打ち出しているにもかかわらず、ChromeとAndroidのデフォルト設定でユーザの個人情報を共有させたままにしている。広告主の利益とユーザの権利が相反する場合、Googleは広告主の側に立つのである。

ユーザ向けプラットフォームとアドテクツールを分離することで、この緊張関係を切り崩すことができるだろう。ChromeやAndroidの開発者は、そのユーザのことだけを考えてツールをデザインするライバルとの競争に正面から立ち向かわなくてはならなくなる。

広告とパブリッシングの分離は、米国のプライバシー法では対応できていない権利の保護に資するだろう。米国で提案・制定されたプライバシー法の大半は、異なる企業間でのデータ共有を、単一の企業内でのデータ共有よりも厳しく規制している。たとえばカリフォルニア・プライバシー権法(CPRA)は、ユーザが自身の個人情報の「共有または販売」を拒否できるとしているが、Googleの検索エンジンがGoogle Adsとデータを共有し、Googleの資産内で超特定的行動ターゲティングを可能にしているような企業内データ共有に対しては、ユーザに拒否権を与えてはいないのである。ユーザ向けサービスと広告主向けビジネスを切り離すことで、こうした個人情報の流れを規制しやすくなる。

広告帝国の分割は、より公正な広告市場の実現にもつながる。テック企業のコンテンツ、アプリ・ビジネスを広告ビジネスから切り離し、アドテク・スタックのセルサイドとバイサイドを分離することで、自社優遇、不正入札詐欺などのイカサマが減り、収益が目減りし、その検出も容易になるだろう。メディア運営者や個人クリエイターが、自分の作品に掲載された広告から正当な収益を上げることを助け、中小企業をはじめとする広告主が強力かつ統合的なアドテクノロジー・ビジネスによる価格のつり上げや詐欺から守られることにもつながる。

結論

デジタル広告法は、大胆かつ有望な立法提案である。インターネットに競争、分散化をもたらし、プライバシー権などのユーザのデジタルライツを尊重するために、ビッグテックの最も有害な部分を分割する試みである。もちろん、このような複雑な法案がもたらす影響は、法律になる前に徹底的に検証されなければならない。だが、我々はこの法案に書かれた方向性に強く賛同したい。インターネットをより良いものに再構築する力を持っている。

The Bipartisan Digital Advertising Act Would Break Up Big Trackers | Electronic Frontier Foundation

Author: Bennett Cyphers / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: June 23, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Mel Poole