以下の文章は、電子フロンティア財団の「EFF Calls for Limiting Mandatory Cooperation, Safeguarding Human Rights in International Cybercrime Investigations as Talks Resume for Proposed UN Cybercrime Treaty」という記事を翻訳したものである。
EFFは、国連サイバー犯罪条約の策定に向けた新たな協議において、条約の国際協力条項の範囲を明確に制限し、刑事支援要請に応じる際に国家が人権を尊重することを保証するセーフガードを設けるよう要請する。
EFFは、国連が2月から開始した協議にデジタル・人権団体の一員として参加している。昨日、ニューヨークで始まった第3回協議では、条約の協力及び相互支援規定の範囲に焦点があたった。その目的は、各国政府がサイバー犯罪の捜査にどの程度まで協力し、刑事支援を提供すべきかについてコンセンサスを得ることにある。
国際的な法執行機関が自国外の地域のユーザデータにアクセスする際の協力のあり方、既存の相互支援協定の尊重、犯罪捜査に適用される国内法の調整、そして重要なポイントとしてプライバシーと人権の保護の優先など、極めて難しい問題が議論のテーブルに山積しているのである。
サイバー犯罪の定義や条約の対象となる犯罪など、基本的な事柄でさえもコンセンサスを得ることは難しいことが、条約策定の初期段階からすでに露呈している。
条約の起草を任された、世界各国の100人以上の政府関係者からなる国連委員会、国連薬物犯罪事務所のアドホック委員会事務局の最初の会合は、ロシアによるウクライナ進行の4日後だった。ロシアは条約策定の初期の進行役であったが、加盟国からは、ウクライナに侵攻しサイバー攻撃を仕掛けながらサイバー犯罪条約策定の主導権を握らせてよいのか、という疑問が呈された。
6月の第2回会合で、加盟国がコンテンツ関連犯罪を含む広範な犯罪を条約の対象にしようとする動きを見て、我々は憂慮した。対象範囲が広く、濫用しやすいルールは適法な言論すら排除してしまい、世界中の表現の自由を脅かす結果をもたらしかねないという懸念から、我々はこれに断固反対している。
今週の第3回会合に向けたコメントで、EFFは協力の範囲を慎重に制限し、人権の保護に必要な戦略について概説した。
我々の提言は、相互に関係する3つのカテゴリから構成されている。すなわち、協力と技術支援の提供に関する明確な制限、支援提供時の無差別の保証、刑事協力アプローチとしての刑事共助条約(MLAT)の継続である。
慎重に限定されるべき協力の範囲
この条約は、国際刑事法を実質的に変更し、ユーザデータへのアクセスや共有について、国際的な警察の監視権限を強化するおそれがあり、これは世界数十億人の人権にも関わる。我々は、表現の自由を侵害し、批判者を標的にし危険に晒すために、曖昧な文言のサイバー犯罪法が悪用されるのを世界各国で目撃してきた。この条約が、定義が曖昧な犯罪事件であっても各国に捜査協力を義務けてしまえば、濫用や行き過ぎを招くことになる。そうならないようにすることが重要である。
この条約はサイバー犯罪への対処を目的としているにも関わらず、捜査中のあらゆる犯罪の証拠収集のための国際協力の基盤とすべきだと主張する国もある。たとえば欧州連合は、重大犯罪に限定されず、ブダペスト条約に規定されたあらゆる犯罪の証拠収集に適用される協力の概念について議論の余地があるとの妥協案を提示している。
しかし、越境捜査は侵入的であり、人権侵害の危険性が高まる。したがって、我々はこの国際条約を汎用的な捜査手段にすべきではなく、実際のサイバー犯罪に限定するか、少なくとも国家が真に深刻だと合意する犯罪の捜査に限定すべきと考える。また、重大犯罪といいつつ些細な事件である場合もあり得ることを考えれば、そのような場合に捜査協力を拒否することも認められるべきである。それゆえ、カナダが求めているde minimis(些事)条項を支持したい。
また、この条約は刑事司法制度以外の支援の基盤とすべきと主張する国もある。例えばブラジルとロシアは、国際協力には「民事・行政」事件や、未定義の「不法行為」の捜査・訴追のための相互援助を含めるべきだと考えている。だが、民事・行政上の調査がプライバシーに及ぼす影響は著しく、問題によっては対象となる個人に極めて深刻な被害をもたらすおそれもある。
あるいは、コンピュータ機器や通信ネットワークの利用を妨害するためにセキュアなネットワークへの侵入を必要とする、新たな攻撃的サイバーセキュリティ活動における連携のために、この条約を足がかりにしたいと考える国もあるかもしれない。こうした破壊的活動は、人権にとりわけ陰湿な脅威をもたらすものである。刑事司法制度で扱われるべきものではないし、国際的な制度によって正当化されるべきでもない。
捜査協力に不可欠な人権セーフガード
この条約は、国家が人権を尊重した上で刑事支援の要請に応じることを保証するために、適切な保護の最低限の水準を確立することによって、MLAT体制を補完するものでなくてはならない。人権セーフガードが機能しているかを監視し、あらゆる濫用と戦い、それを終了する手段を提供するためにも、監視とモニタリングのメカニズムを条約に組み込むべきである。
サイバー犯罪捜査の国際協力の際にプライバシー権の侵害が生じうる場合には、その侵入により特定の犯罪の証拠が得られる蓋然性が高いことを第三者から認定された場合を除き、明確に禁止されるべきである。国際人権法が定める必要性、正当性、比例性が欠如したデータ処理についても、人種、宗教、国籍、性自認、政治的主張に基づいて個人を訴追・処罰するための協力と同様に禁止されねばならない。
残念なことに、人権を行使するための強力な国際的メカニズムは存在していない。したがって、国家は義務ではなくとも、外国政府による国境を越えたアクセスを、独立した司法当局を通じて慎重かつ継続的に精査することが認められるべきであり、規制当局には、人権を適切に保護できない国や機関との協力を見直し、打ち切る権限が与えられるべきである。
MLATを中核に据えた協力体制の維持
国際的な刑事支援の枠組みとしては、現在のMLAT体制が主流である。ある国が他国政府に対し、相手国の領域内の人物や証拠の捜査に既存の刑事権限を行使するよう要請する。国境を超えた捜査協力の要請が高まっていながら、各国はMLAT体制に十分な投資を行ってこなかった。それゆえ、国際協力のための代替制度が求められ、議論されているのである。
残念なことに、MLAT体制の代替提案の多くは、プライバシー、データ保護、デュープロセス、人権保護の著しい侵害を伴うものばかりだ。
この条約は、MLAT制度を廃止するものとしてではなく、各国政府がその運用に多くのリソースとトレーニングを投入することを約束し、法執行機関が他国政府のMLATシステムを利用する際の手助けとなる国際的なナレッジ・エクスチェンジ・ポイントを設けることで、MLAT体制を活性化させるものであるべきだ。
我々の提出書類の全文はこちらから。加盟国によるコメントと提出書類の要約はこちらから。
EFF Calls for Limiting Mandatory Cooperation, Safeguarding Human Rights in International Cybercrime Investigations as Talks Resume for Proposed UN Cybercrime Treaty | Electronic Frontier Foundation
Author: Karen Gullo and Tamir Israel / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: August 30, 2022
Translation: heatwave_p2p