以下の文章は、電子フロンティア財団の「UN Cybercrime Draft Treaty Timeline」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

2017年10月

ロシア連邦が国連加盟国への配布のための「サイバー犯罪との戦いにおける協力に関する国際条約」の草案を含む書簡を国連総会に提出

2019年11月

ロシア、ベラルーシ、カンボジア、中国、イラン、ミャンマー、ニカラグア、シリア、ベネズエラが提出したサイバー犯罪と戦うための国連条約設立決議が国連総会で採択された。米国やEUは反対した。Association for Progressive Communicationsなどの人権団体やEFFは、「人権を行使し、社会的・経済的発展を促すインターネットの利用を損なうおそれがある」との懸念から、総会で決議案に反対票を投じるよう求めた

2019年12月

国連総会は、「犯罪を目的とした情報通信技術の使用に対抗するため」の国連条約を起草するアドホック委員会(AHC)設置の決議を採択した。AHCへの参加は、全世界の加盟国のほか、程度の差はあれ、非加盟国のオブザーバー(EUや欧州評議会など)や市民社会、非政府組織(NGO)にも門戸が開かれた。国連薬物犯罪事務所(UNODC)が条約局の組織犯罪・不正取引部を通じてアドホック委員会の事務局を務めている。だが、別の国連総会決議では、サイバー犯罪法が「人権擁護者を標的とするために悪用されたり、国際法に違反して彼らの活動を妨げたり、安全を脅かしているケースがある」との懸念が示されていたことから、このような進展には批判も寄せられた。

2020年8月

AHC、新型コロナウィルスの影響で、ニューヨークでの最初の会合を2021年に延期。

2021年1月

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国連加盟国がサイバー犯罪条約の手続きを開始したことに警鐘を鳴らした。「(このサイバー犯罪条約の)提案者たちは、世界で最も抑圧的な政府であり…この構想は深刻な人権上の懸念をもたらす」。

2021年5月

AHCは、設立会合を開催し160カ国以上の代表が交渉の概要と手順に合意した。AHCは2022年から少なくとも6回、それぞれ10日間の交渉会合をニューヨークとウィーンで開催することを求めた。最終文書について加盟国に事前相談がなく、起草プロセスも包括性に欠けるとの不満が英国などから寄せられたが、総会はこの案を採択した。

多数の発言者が同様の異議を唱え、AHCの意思決定構造をめぐって意見が分かれた。ブラジルは、交渉の条件として、ロシアが支持する単純多数決ではなく、3分の2以上の代表の承認を得ることを求める修正案を提出し、「議長は、合意による合意を得るためのありとあらゆる努力を講じたことを委員会に通知しなければならない」とした。この修正案は88対42で承認された(棄権32)。透明性と包括性の向上を求める決議では、加盟国はEFF、Eticas、Red en Defensa de los Derechos Digitales、Global Partners Digital、Hiperderecho、Instituto Panameño de Derecho y Nuevas Tecnologíasなどの学術機関、民間セクター、NGOの代表者のAHCへの参加を承認した。プライバシー・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、Derechos Digitalesなど、ECOSOCの協議資格を持つNGOも参加できることになった。

2021年12月

AHCの最初の交渉会合を前に、EFF、ヒューマンライツウォッチ、および56の国・地域や国際的に活動する100以上の団体、学者が、AHCのメンバーに対し、最終条文に人権セーフガードが確実に組み込まれるよう書簡で要請した。書簡では、国連サイバー犯罪条約は、国連人権機構が世界各地のサイバー犯罪法の乱用に警鐘を鳴らしている最中に提案されたものであることが強調された。各団体は「サイバー犯罪に関するいかなる条約であろうと、人権を保護するうえで、その範囲を限定することが不可欠だ」と訴えた。

2022年1月

ジャーナリスト保護委員会(CPJ)は、国連サイバー犯罪条約案が、ニュース報道にかかわる人々を罰したい当局に新たな手段を与え、ジャーナリストを危険にさらすおそれがあると警告した。「世界中の多くの当局が、ジャーナリストを処罰するために、すでにサイバー犯罪法やサイバーセキュリティ法を口実にしている。ジャーナリストはネットワークやシステムをひそかにハッキングしたわけではなく、不正行為を公表するために自らのシステムを使用しただけである」とCPJは声明で述べている。

2022年2月

AHCの初の公式会合10日間の会期でニューヨークで開催され、交渉が開始された。EFFや人権NGOは現地・リモートで参加し、提案された国連サイバー犯罪条約において人権保護の重要性を強調した。ウクライナ危機はこの協議に大きく影響し、国連総会と安全保障理事会の緊急会合と重なった。メンバーはロシアのウクライナ侵攻を非難した。

条約の目的、範囲、構造に対応するロードマップと作業手順が採択された。重要な点としては、条約案の形成について人権団体やデジタルライツ団体を含む多様なステークホルダーの意見を求めるため、AHC交渉会合の合間に開催される会合間協議が承認された。

第1回会合に参加した加盟国からは、何が「サイバー犯罪」を構成し、この条約をどの程度拡大するかについて、コンセンサスが著しく欠如していると指摘する声が上がった。ブラジルドミニカ共和国欧州連合(EU)リヒテンシュタインノルウェースイス英国米国などの国は、犯罪の範囲を絞るよう求め、この条約を利用したインターネットの規制を警告した。また一部の国は、テロ扇動(中国ロシア)、偽情報(中国・インドネシア)、著作権侵害(インドネシア・リヒテンシュタイン・メキシコ・ノルウェー・ロシア・米国)などのコンテンツ関連犯罪を対象とすることを求めた。

2022年3月

人権団体等のマルチステークホルダーの第1回会合間協議がウィーンで開催された。国連加盟国を前にしたパネルディスカッションで、ARTICLE 19は、サイバー犯罪条約の必要性と、条約がすでに顕在化しているサイバー犯罪の悪用を永続化させるリスクについて懸念を表明したAccessNowは犯罪化に対する過度な拡大解釈を避けるよう求めた。EFFは人権保護を優先させることが重要であり、それを怠れば悲惨な結果を招くおそれがあることを強調し、条約の適用範囲を刑事事件にのみ限定するよう求めた。

2022年4月

ヒューマン・ライツ・ウォッチ、EFF、プライバシー・インターナショナルは、当初は条約に反対していた多くの国(国連加盟国の約3分の1)が、今では交渉に積極的に参加し、指導的役割を果たすまでになった地政学的ダイナミクスの変化に注意を喚起した

2022年5月

ウィーンで第2回交渉会合が開催された。AHCは犯罪化、一般条項、手続き上の措置、法執行の章の条文案について、多様なステークホルダーに意見を求めた。EFF、プライバシー・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチはAHCに声明を提出し、条約には中核的なサイバー犯罪のみを含めること、過度に広範な規定を避けることの重要性を強調した。EFF、プライバシー・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国連加盟国を前にした口頭説明で、情報通信技術(ICT)を標的とした犯罪に焦点を当てなければならないことを改めて強調した。EFFは、中核的なサイバー犯罪をICTを犯罪の直接的な対象にすると同時に手段としても機能する犯罪と定義した。また各団体は、ICTへの違法、非合法、無許可のアクセスに関する条項が、セキュリティ研究や内部告発者の活動、および最終的に市民に利益をもたらす新規かつ相互運用可能な技術の使用を犯罪化しないことを条約が保証するよう求めた。このセッションには143の国連加盟国の代表が参加した

2022年6月

複数のステークホルダーが参加する第2回会合間協議がウィーンで開催された。会合に先立ち、EFFは一部の国連加盟国がヘイトスピーチ、過激主義、テロリズムと戦うためとして曖昧な規定を提案しており、それによって表現の自由が著しく損なわれるおそれがあるとの懸念を表明した。たとえばヨルダンは条約案を利用して、「情報ネットワークやウェブサイトを利用したヘイトスピーチ、宗教や国家を侮辱する行為」を犯罪化する提案を行い、エジプトは「対立や騒乱、憎悪、人種差別の拡散」を禁止するよう求めている。ロシアは、ベラルーシブルンジ中国ニカラグアタジキスタンと共同で、曖昧に定義された過激主義に関連した行為など、言論(content)に関連したさまざまな行為を犯罪化するよう提案している。これらが用いる曖昧な用語は、表現の自由の人権基準を満たさない、過剰に広い解釈を導く可能性が高い。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、サイバー犯罪条約にオンライン表現の内容に基づく犯罪を含めるべきではないと強調し、「サイバー犯罪法は、過激主義やヘイトスピーチなどの様々なオンラインコンテンツを犯罪化し、表現の自由に過剰かつ広範に制限するために使用されてきた」と述べている。加盟国間のコンセンサスを欠いた状態で、活動家の訴追に利用されてきたコンテンツ関連犯罪の普遍的な採用を義務づける必要性はあるのかが問われているのである。こうした犯罪には、「政治的、思想的、社会的、人種的、民族的、宗教的憎悪に動機づけられた違法行為を扇動する」資料の配布を犯罪化することも含まれている。さらに、この提案では、人種、民族、言語、出自、宗教的所属に基づいて、個人または集団をICTを通じて辱めることを禁止する立法を各締結国に義務づけている。こうした条項が採用されれば、(表現の自由によって)保護された言論すら犯罪化できるようになるだろう。

テロ支援罪に関連したインドの提案も、世界的にコンセンサスのとれた定義がないために同様の問題を抱えている。「テロ」という用語は、しばしば自国政府に批判的な活動家を弾圧する口実に使われていることからも、コンセンサスの欠如は極めて深刻な問題である。その結果、こうした曖昧な規定は政治的反対意見を抑圧し、言論の自由を脅かすことになりかねない。

2022年7月

市民社会がアドホック委員会に書簡を送り、最初の登録期間を逃したステークホルダーの認定プロセスの再開を要請するも拒否される。

2022年8月

ニューヨークで開催された第3回交渉会合では、EFFを含む人権団体が、国際協力、技術支援、予防措置の各章に関する口頭説明を実施した。EFFは交渉に先立ち、国際協力の章には、二重犯罪メカニズム(訳注:当該の行為が引き渡し国側においても犯罪化されていること)を含める必要があり、あらゆる犯罪に適用されうる無制限のものであってはならないことを強調した。また各国政府に対し、刑事共助条約(MLAT)システム運用の改善に向けて、より多くの資源を投入し、トレーニングを実施するよう求めた。このセッションには149の国連加盟国の代表が出席した。

この条約はサイバー犯罪に関するものであるはずだが、一部の国は、あらゆる犯罪捜査の証拠収集の国際協力の基盤を形成すべきだと主張している。たとえばEUは、強力な人権セーフガードが講じられる限り、重大犯罪に限らず、ブダペスト条約で規定されたあらゆる犯罪の証拠収集に協力を適用するとの考え方に前向きであるという妥協的表現を提出している。

ブラジルロシアは、「民事・行政」事件や、「不法行為」に対する捜査・訴追のための相互協力を含みうると提案した。

2022年11月

マルチステークホルダーによる第3回会合間協議がウィーンで開催された。EFFと人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、加盟国に見解を伝えるために招待された。EFFは将来起こりうる乱用を防ぐために、人権保護のための強力なセーフガードを含む、より限定的な条約にするよう改めて要請した。OHCHRは、国連サイバー犯罪条約案は、その前文で国際人権法または各地域の人権に関する文書・基準に言及すべきだ強調した。これは、条約の要素、解釈、適用を導くものとなり、普遍的な人権原則に沿うことを保証するだろう。このセッションには149の加盟国の代表が出席した

協議終了後、AHCは加盟国の提案から作成された条約条項案の条文である統合交渉文書(CND)を発表した。CNDは3章からなり、まず一般規定として、目的、適用範囲、一般人権規定が含まれている。第2章は、国レベルで採用されるべき刑事の実体規定を扱い、11の「クラスタ」に分類される。このクラスタの多くは、保護された言論を阻害するあk農政をはらんでおり、市民的および政治的権利に関する国際規約第19条3項に反するコンテンツ関連犯罪も含まれる可能性がある。第3章には刑事手続上の措置と法執行が含まれ、管轄権、手続き上の措置の範囲、条件とセーフガード、指示書、創作と欧州、交通データのリアルタイム収集、リアルタイムデータ収集、コンテンツデータの傍受、その他の監視権限を用いた犯罪記録の確立など扱われている。

2022年12月

EFFをはじめとする10の市民社会組織は、CNDは「国際人権法に抵触するおそれがある」との懸念を表明する書簡を、世界中の数十の団体、学者の賛同を得てAHCに提出した。この書簡は、加盟国が様々な言論(その多くは国際人権法のもとで完全に保護されている)を犯罪として扱いかねない条項に対処するようCNDの修正を勧告するものであった。さらにこの書簡では、CNDにおいて扱われるサイバー犯罪は、ジャーナリスト、内部告発者、セキュリティ研究者の本質的な活動を阻害しうる制限を課すものであり、その点においても修正が必要だと訴えている。

EFFとプライバシー・インターナショナルは、人権裁判所や人権機関の既存の法理に沿うよう、加盟国が条約案に強力なチェック・アンド・バランスを盛り込むことを求めるコメントを提出した。たとえば、条約案に適合性、必要性、比例性の原則を盛り込み、事前の独立した(可能であれば司法の)認可、事後の独立した監視、有効な救済を受ける権利などが含まれなければならない。また、EFFとプライバシー・インターナショナルは、条約に記載された捜査権限が、デジタル通信やサービスのセキュリティを損なわない方法で実施されることを保証するセーフガードを求めた。

2023年1月

ウィーンでアドホック委員会(AHC)の第4回交渉会合が開催され、国連加盟国149カ国の代表が出席した。委員会ではCNDについて議論された。EFFDerechos Digitales、R3D、Global Partners Digital、Access NowはCNDの最も懸念される特徴として、条約案に盛り込むべき犯罪の提案リストが広範囲かつ拡大していることを強調する口頭声明行った1月21日に発表されたCNDの最新版で、中国が条約に「虚偽の情報の流布」を犯罪化するよう提案したことは、懸念をさらに高めるものであった。

交渉中、犯罪化の章に関する議論は、クラスタ5と7のコンテンツ関連犯罪に焦点が当てられた。AHC委員長は、最も争点となる問題に対処すべく積極的なアプローチを採用し、議論を公式会合外で、NGO関係者との非公開・非公式グループに持ち込んだ。最も議論が白熱したのは、クラスタ3、6、8、9と、クラスタ2 第Ⅲ章「手続き上の措置及び法執行」の47条、48条、49条であった。これらクラスタで提案されている犯罪は、「著作権侵害」、「自殺の奨励または強要」、「破壊活動の扇動」から「テロ」、「過激主義」、「麻薬取引」まで、その定義について統一されたコンセンサスが得られていない広範囲の行為に及んでいる。手続き上の措置と法執行については、コンテンツの傍受リアルタイム傍受、蔵置されたコンテンツとトラフィックデータの収集、電子記録の管理等に関する条文が最大の争点となっている。提言の文言は曖昧で、過剰な解釈・執行につながるおそれがある。交渉中、シンガポールマレーシア、ロシアなどの数カ国が、監視権限に対する基本的な人権セーフガードを定めた第42条の削除を求めた。

2023年3月

4回目の会合間協議がウィーンとオンラインで開催され、61の加盟国と非加盟国のオブザーバー国が出席した。「国際協力の章における小売的かつ迅速な強力およびその他の側面」と第されたパネルディスカッションでは、INTERPOLのパネリストが複数法域にまたがる完了的プロセスや資源の制約を理由に、刑事共助条約(MLAT)の有効性に疑問を呈した。INTERPOLの懸念に対し、市民社会はそのアプローチに疑念を表明した。400以上のNGOが支持する「必要性および比例性の原則」の第12原則にあるように…

「国家が法執行の目的で援助を求める場合、二重犯罪性の原則が適用されなければならない。…国家は、通信監視における国内の法的制限を回避するために、刑事共助手続きや外国への保護情報の要請を用いてはならない」

INTERPOLは、民間企業が保有する通信記録の保全や、基本的な加入者情報、トラフィック、コンテンツデータの要求は、データを保有する国が異なる証拠基準をもっていることから、いっそう複雑であると主張している。だが、こうした懸念は懐疑的に受け止められている。EFFは以前のセッションで、このような主張は「すべての国に国連サイバー犯罪条約案に署名するよう促すために、悪しき人権慣行が許容され、結果として底辺への競争へと向かう現実のリスク」をもたらしかねないと警告した

2023年4月(予定)

AHCの第5回交渉会合は、ウィーンとオンラインで開催され、前回会合で取り上げられなかったCNDの各章について議論することになっている。新たに議論される章は、前文、国際協力に関する規定、予防措置、加盟国感の技術支援、実装メカニズム、提案されている包括的な国際条約の最終規定である。

2023年6月(予定)

5回目のマルチステークホルダー会合間協議がウィーンで開催される。

2023年8月(予定)

AHC第6回会合、ニューヨークで開催。条約のゼロドラフトテキストを予定。

2024年1月~2月(正確な日程は未定)

AHCの最終会合となる見通し。ニューヨークで開催。この会合で条約の条文案の議論、完了、承認が行われることになる。この条約案が2024年の国連総会で検討・採択に付される予定。

UN Cybercrime Draft Treaty Timeline | Electronic Frontier Foundation

Author: Karen Gullo and Katitza Rodriguez / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: April 7, 2023
Translation: heatwave_p2p