Electronic Frontier Foundation

歴史的に、インターネットの力はエッジから生まれてきた。イノベーション、成長、そして自由は、中央集権的な監視によってではなく、ユーザとその貢献によってもたらされてきたのだ。しかし今日、ユーザの数が増えるに従い、インターネットには、強力で、非競争的・非代表的な中心部が現れた。

インターネットそれ自体は、これまでと同じように広大かつ複雑で、数十億人のユーザが物理的距離を問わず通信でき、数十億のウェブサイト、アプリ、そして無数のコミュニケーションチャンネルが、万人に開放されている。しかし現在、一握りの大手企業が、多くの人に利用される機能をコントロールしている。さらにまずいことに、従来のテクノロジーサイクルが停滞し、巨人企業の支配力は強まる一方だ。もちろん、ウェブサイトの制作やアプリの開発、インターネット・グループの作成は今も気軽にできる。しかし、そのために必要なリソースは、一握りの大手企業に支配されている。つまり、それらの企業が、表現、プライバシー、イノベーションに強力な影響力を持っているのだ。

その具体例

GoogleとFacebookは、西側諸国のユーザのあらゆる行動を追跡する情報探索・アドネットワークツールを支配している。この2社に加え、AppleやMicrosoft、Twitterなども、膨大なヒューマン・コミュニケーションをモデレートしている。こうした状況は、一握りの企業に、検閲監視を可能にする強い権限を与えている。

Amazonは米国のネット通販、そして世界中のバックエンド・ホスティングを支配し、膨大なサービス、活動のチョークポイントになっている。オンライン決済処理の大部分がごく一部のクレジットカードネットワークに依存している状況は、販売や寄付に依存するあらゆる組織が餓死に追い込まれうることを意味する。よりインフラに関連した部分では、米国の大半の市民が、インターネット接続事業者の選択肢を、ほとんどあるいはまったく持ち合わせていない。この状況は、一握りのブロードバンドISPに、インターネットユーザを遮断、帯域制限、そして差別的に扱う力を与える。

危機に瀕する市民的自由

競争と選択の欠如は、インターネットユーザの市民的自由のさまざまな側面に悪影響をもたらす。友人や家族、ソーシャルサークルとのやり取りの大半がFacebookで行われれば、そのコンテンツの配置や削除が極めて重要な意味を持つようになる。検索をGoogle、ビデオの発見をYouTubeに強く依存する状況は、それらの検索結果の順位やレコメンドに強大な影響力を持たせる。GoogleやFacebook、Amazonが膨大なコミュニケーション、購入履歴、移動履歴、インターネット利用のデータを蓄積することで、そのプライバシーポリシーやプラクティスが大きな問題をもたらす。ComcastやAT&Tが固定ブロードバンド・インターネットアクセスの唯一の選択肢である場合、特定のトラフィックに対する遮断、帯域制御、優先順位付けの決定権が問題を引き起こす。

これら企業の力は著しく大きく、その決定は政府の決定と同程度に私たちの生活に影響を及ぼすことになる。さらに、先日Amazonが警察に顔認識技術を売り込んでいたことが示すように、巨人企業と政府との距離は狭まりつつある。

多様な意見のための多様な選択肢

インターネットの重要な領域に多様性をもたらす慎重な選択をすることで、ユーザは再び力を取り戻すことができるだろう。有効な相互運用性とデータ・ポータビリティの実現によって競争が進めば、ユーザは自らの意思で、データを収集・共有する有害なプラットフォームやサービスから離脱できるようになる。企業は人質を取ってユーザを縛るのではなく、ユーザを守ることで価値を高めようと努力するようになるだろう。

適切な競争によって、市民の自由は強化される。イノベーターはユーザの表現を守り、プライバシーを保護し、コミュニティを育て、建設的な議論を後押しするオルタナティブなアプリやプラットフォームの開発を進めるだろう。こうした選択肢は、必ずしも商用であるとは限らない。分散型、連合型などの協調型ソリューションによっても、ユーザはツールを変更・採用する権限を取り戻すことができる。

競争が激しくなるだけで、すべての問題が解決するわけではない。しかし、この戦略は、司法や政治家が正しく理解してくれれば、素晴らしいアイディアを持った個人やスモールビジネス、コミュニティにドライブされたボトムアップのイノベーションの余地を広げることを約束する。

喜ばしいことに、すでにそのような競合は存在している。DuckDuckGoやQwantなどの監視フリーな検索エンジン、MastodonやSecure Scuttlebuttなどのオープンソースのソーシャルメディアツール、SnapchatやYelpなどの独立系サービス、Sonicをはじめとする競争的ISPなど枚挙に暇がない。しかし、こうしたサービスの多くは、今も巨人企業の脅威にさらされており、さらに多くの選択肢を必要としている。

反トラスト法(独占禁止法)に力を

ではどうすればそこに辿り着けるのか。そのための手段の1つは、反トラスト法(国際的には競争法)だ。反トラスト法は、競争を促し、独占的地位の濫用を防ぐことに主眼を置いている。残念なことに、かつては強力な「自由の憲章」であった米国反トラスト法も、近年ではその威光を失っており、執行は緩慢になり、司法的・学術的関心も短期的な消費価格の上昇を抑えるという狭い範囲に終止している。その結果、現在のドクトリンにおいては、「無料で」提供されているように見えるビジネスモデルを持った強力なサービスが影響力を統合し、結果的にユーザの選択肢を減らしていることについてはほとんど手当されていない。AT&Tとタイム・ワーナーの合併を承認した最近の判断もその一例と言えよう。

それでも、反トラスト法の執行はインターネットの発展に重要な役割を果たしてきた。1990年代のインターネットの爆発的な成長は、80年代に司法省がAT&Tの独占する電話事業を分割したことによってもたらされた。その独占禁止措置こそは、ISPに電話システムを利用したインターネット接続事業を促したのだ。政府が Windowsオペレーション・システムの独占的濫用に関してマイクロソフトに起こした反トラスト法訴訟(1998〜2002)は、最終的には失敗に終わったものの、黎明期にあった新たな競合(生まれたばかりのGoogleやAmazon)への抑圧的な慣行を抑止することに繋がった。

今日、政治的立ち場によらず、反トラスト法への新たなアプローチを求める声が高まっている。米国政府の反トラスト執行機関である連邦取引委員会は、9月に予定されている「今日のインターネットにおける反トラスト執行」の改定に向け、パブリック・ヒアリングを開始した。これは歓迎すべき動きであり、我々も議論に参加するつもりだ。

米国の反トラスト法を見直したとしても、経済学や実務的経験に基づくアプローチがすべて否定されるわけではない。反トラスト法は、製品やサービスの品質を低下させないためにこそある。そしてEFFが長年に渡って提唱してきたように、検閲の回避やプライバシーの保護は、デジタルサービスや製品の品質にとって中心的な要素である。

まず、現在提案されている合併や買収について、詳細な調査を実施することを求めたい。新たな競合を捻り潰すインターネット・ジャイアントの支配力を抑止することは、新たなサービスやプラットフォームの登場を可能にする。監視を前提としたビジネスモデルに依存しないサービスやプラットフォームも誕生するだろう。また、反トラスト分析の基盤として、検閲の害やプライバシーの喪失を測定・記述する新たな手法も必要だ。独占的な力の濫用や、そうした力を取得、維持するための不道徳な試みによる弊害が確認された場合、規制当局は企業の分割を含めて検討しなければならない。

CFAA、DMCA、利用規約が競争に及ぼす影響

この領域に影響を及ぼす法律は、反トラスト法だけではない。EFFはこれまで、競争を阻害するために誤用されてきた3つの法的ドクトリンーーコンピュータ詐欺と濫用に関する法律(CFAA)、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)の1201条、そしてウェブサイトの利用規約の無分別な行使――と戦ってきた。

CFAA(および準拠する州法)は、相互運用性を脅かすために利用されてきた。たとえばFacebookは、ソーシャルメディアのフィードや連絡先の統合を可能にするツールを開発、実行させたとしてPower Venturesという会社を訴えている。

DMCAも、大手エンターテイメント企業からプリンターメーカーに至るまで、さまざまな企業が我々のデバイスの設計や機能をコントロールするために利用されている。

また、大手インターネット企業は、既存サービスと連携する競合を抑え込むために、リバース・エンジニアリングその他の行為を禁止する過剰な利用規約を利用している。

競争を促進するためには、こうした法的ツールも見直さなければならない。

誤ったソリューションはソリューション足り得ない

インターネット・ジャイアントを抑制するために定めたルールが、結果としてその支配力を強めることもある。政府が押し付けようとしている「プラットフォーム中立性」提案や、EU著作権指令提案第13条の義務的フィルター提案のように、極めて高コストな編集コントロールの義務化というかたちですでに現れている。また、ユーザの行動からインターネットサービスを免責する「通信品位法」第230条の厳格化を求める動きもある。一見すると第230条が独占的パワーを生み出すなどとは思えないかも知れないが、皮肉なことに、これら提案の義務を満たすコストを担えるのは、世界中でGoogleとFacebookだけである。

合併の再審査や、ある領域での市場優位性を利用して別領域で競合つぶしをする企業の解体も、望ましい選択肢の1つだろう。あるいは、企業に対して、ソーシャルメディア間の相互作用を可能にするオープンスタンダードを採用し、ユーザの権限を強化する外部ツールを認めるようパブリック・プレッシャーを醸成することも1つの手だ。

表現とプライバシーを守る多様性と競争のために

我々は今後数週間かけて、ネットワーク化された世界におけるこれからの競争と多様性のあり方、相互運用性とデータ・ポータビリティの実現に向けた道筋、そしてそのためのツールとしての反トラスト法について探っていくつもりだ。表現の自由やプライバシー、イノベーションの重要性を理解しているのであれば、今こそ公正な環境を作り、大手プラットフォームのパワーを削ぎ、ユーザにこそ権限を与えるオンラインサービスやツールの多様性が再現するよう支援すべき時だ。我々の表現の自由やプライバシー、継続的なイノベーションは、それにかかっている。

Competition, Civil Liberties, and the Internet Giants | Electronic Frontier Foundation

Author: MITCH STOLTZ, CORYNNE MCSHERRY, CINDY COHN, AND DANNY O’BRIEN (EFF)/ CC BY 3.0 US
Publication Date: June 27, 2018
Translation: heatwave_p2p