以下の文章は、電子フロンティア財団の「European Commission’s Proposed Digital Services Act Got Several Things Right, But Improvements Are Necessary to Put Users in Control」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

欧州委員会は本日、デジタルサービス法(DSA)の草案を発表した。この提案は、欧州のインターネット規制がスタートしたこの20年間で最も重要な改革である。提案はEUインターネット法の基盤たる電子商取引指令を近代化するもので、Facebook、Amazonなどのコンテンツホスティング企業が、数十億ものユーザの投稿、コメント、メッセージ、写真、動画をどのように扱い、判断すべきかについて新たな責任と規則を定める。

これは、EUが透明性、開放性、情報の自己決定権といった原則を蘇らせる絶好のチャンスとも言える。多数のユーザが一握りの強大なプラットフォームに閉じ込められ、理解しがたいアルゴリズムの決定システムに翻弄されている。これを変えるときが来たのだ。

我々は85ページからなる草案のコピーを入手し、各セクションの分析を進めているところであるが、ここでは違法コンテンツに対する責任、コンテンツ・モデレーション、相互運用性に関する条項――インターネットの言論・表現の自由というユーザの基本的権利に最も重大な影響を及ぼす3つの問題に注目したい。

草案には、いくつかの好ましい提案が含まれているが、まだ十分とは言えない。コンテンツの削除に制限を設け、ユーザ側が検閲的決定に異議を申し立てられるようにするという点で、欧州委員会は正しい方向を向いている。また、ユーザの全体監視を求めるのではなく、表現の責任は発言者にあり、ユーザの投稿・共有をホストするプラットフォームにはないとした点も歓迎したい。だが提案では、データに対するユーザの自己決定権には触れておらず、巨大プラットフォームが相互運用性の確保に向けて努力するという要件も設けられていない。これらの点については改善の余地がある。我々は壊れている部分を修正し、ユーザが再びコントロールを取り戻すべく、条文を承認する立場にあるEU議会・評議会と協力していきたい。

コンテンツの責任と監視

EUの新たなインターネット法案は、EU電子商取引指令を具体化した現代のインターネット規則の支柱となる。欧州委員会の提案は、ユーザのオンラインでの表現やアップロードの監視・検閲をプラットフォームに強制すべきでないという我々の勧告に従っている。プラットフォームにユーザの表現の取り締まりを促す著作権指令第17条のような破滅的なインターネット規制から教訓を得たようだ。

草案では、仲介事業者は今後も包括的な免責の恩恵を享受できるとしており、原則としてはユーザのコンテンツの責任を負わされることはないだろう。ここには、欧州型の「善きサマリア人」条項によってプラットフォームが違法コンテンツに自発的に対処する状況も含まれる。だが、悪魔は細部に宿るものであり、プラットフォームが「自発的に」アップロードフィルターを導入するよう誘導されることがないようにしなくてはならない。

新しい善管注意義務(due-diligence obligations)

DSAは、すべての仲介サービスの提供事業者に違法コンテンツにフラグを立てる新たな善管注意義務を定め、オンラインプラットフォームの種類や規模に応じた(size-oriented)義務を課している。

以前から主張してきたように、インターネットが一握りの巨大プラットフォームに独占されている状況を考えれば、ソーシャルメディア・ネットワーク規制に汎用的な(one-size fit all)アプローチを採ることは不適切である。したがって、プラットフォームの種別と規模に合わせた新たな善管注意義務を定めたという点においてのみ、この提案を評価したい。欧州委員会は、超大規模プラットフォームにおける言論封殺はシステミック・リスクであり、コンテンツ・モデレーションの透明性を高めることで現状の改善につながると正しく理解している。だが、特定の種類の違法コンテンツについて法執行機関に報告するようプラットフォームに義務づけるといった、問題が生じかねない規定については慎重に分析を進めていかなくてはならない。監督・調査・執行に関する規則は、欧州委員会・評議会による綿密な審査が必要とされる。

削除通知と異議申し立て手続き

ここで、欧州委員会はさらなる手続的正当性に向けた歓迎すべき第一歩を踏み出した。重要な点は、プラットフォームのコンテンツ・モデレーションにしばしば間違いが生じていることを欧州委員会が認識していることだ。規制案では、プラットフォームによるコンテンツ削除やアカウント凍結の判断についてユーザに対する透明性を向上しなくてはならないという認識に立ち、オンライン・プラットフォームにユーザ・フレンドリーな異議申し立て手続きシステムの提供、誤って削除されたコンテンツやアカウントの復旧・復元を求めている。

だが我々は、裁判所ではなくプラットフォームがどのような言論をオンラインに投稿できるか、できないかを決定する仲裁者になりつつあることに懸念を抱いている。あらゆる種類のコンテンツの統一された通知システムは、プラットフォームにコンテンツの違法性の認識を促し、その結果として責任を問われるリスクを増大させることになる。

不十分な相互運用性への手当て

ユーザにインターネット体験の自由と自己決定権を与えるという点では、欧州委員会の草案には相互運用に関する規則が提案されておらず、その点は期待外れであった。ただこの点は、デジタル市場法(Digital Markets Act)の草案で対処されるのかもしれない。EUがインターネットを独占するプラットフォームの支配力を打破したいのであれば、ユーザがプラットフォームの垣根を越えて友人とコミュニケーションを取ったり、複数のアカウントを作成しなくても異なるプラットフォームでお気に入りのコンテンツをフォローできるようにするための規則が必要となる。

司法・行政によるコンテンツ削除命令

インターネットはグローバルなネットワークである。したがって、グローバルな範囲に及ぶ削除命令は極めて不当であり、ユーザの自由を損なうものである。草案では、グローバルなテイクダウン命令の危険性に対処するために、命令がユーザの権利を考慮し、地域を限定したものでなければならないとしている。

制裁

提案されている規則の下では、ヘイトスピーチや違法製品の販売に関するルールに違反した場合、最大規模のプラットフォームで年間収入の最大6%の罰金が科せられる可能性がある。適切な執行措置と抑止的な制裁は、巨大プラットフォームに独占された現在のデジタル空間を変えるための重要なツールと言える。とはいえ、それは規制の中身が伴ってこそである。この点については、今後数週間をかけて詳細な分析を進めていきたい。

非EUプラットフォーム

EU域外のプラットフォーム・プロバイダは、そのサービスがEUと実質的な関係を持つ場合に法令遵守義務を課されることになる。提案されている規則は、EUのユーザにサービスを提供する米国などのEU域外企業を特に対象としている。しかし義務を課す基準が不明確で、非EUプラットフォームがEUでの法定代理権を義務づけられた場合、一部の企業がEUでのサービス提供を拒否する可能性が懸念される。

European Commission’s Proposed Digital Services Act Got Several Things Right, But Improvements Are Necessary to Put Users in Control | Electronic Frontier Foundation

Author: Christoph Schmon and Karen Gullo (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: December 15, 2020
Translation: heatwave_p2p