以下の文章は、Access Nowの「Syria’s new “cybercrime” law adds salt to injury」という記事を翻訳したものである。

Access Now


シリアの独裁者バッシャール・アル=アサドは4月18日、2012年に制定された古い法律(Law 17/2012)に代わる、新たに強権的なサイバー犯罪法(Law 20/2022)を承認した。「世界で最もインターネットが危険な場所のひとつ」とされるシリアで、このサイバー犯罪法はデジタル空間をさらに抑圧し、政権によるオンライン・オフライン双方での人権侵害の強化を法的に正当化するものになるだろう。

なぜシリアはサイバー犯罪法を改正したのか?

その前文にあるように、この法律は新たなテクノロジーの利用が進む中で「テクノロジーの悪用」を抑止し、「サイバー犯罪」に対抗することを目的とする。そのため、法律は「サイバー犯罪」を再定義し、誹謗中傷やオンライン・ハラスメント、「品位や慎みに反する罪、憲法に対する罪、威信に対する罪」などを含めている。つまり、アサド政権はこの柔軟で曖昧な定義を武器に、自らに都合の悪いあらゆる表現を訴追することができるようになるということだ。

この法律はさらに、役人や公務員に対する「サイバー犯罪」の罰則を強化することで、彼らの腐敗や横暴に免罪符を与えてもいる。

曖昧な「犯罪」への厳罰

シリア市民のオンライン空間は、すでにシリア政府によって厳しく管理され、無数のシリア人がプライバシー、表現と言論の自由、情報アクセス、さらには身体の安全の権利までたびたび侵害されている。今回新たに制定されたサイバー犯罪法は、過剰に広く曖昧な表現を用いた規定を盛り込んでいるため、シリア人の権利は一層危機にさらされることになる。

たとえば、24条はオンラインでの「電子的誹謗中傷」を犯罪としているが、そこにはメッセージングアプリで個人的に送信されるメッセージも含まれる。誹謗中傷が公に共有されればさらに刑罰が加算され、役人への誹謗中傷であれば刑罰は2倍になる。

また26条では、「オンラインでの品位と慎み」を侵害する行為やコンテンツを犯罪化している。個人の写真、ビデオ、会話、音声記録を加工・改変したり、そうしたコンテンツを拡散・使用して個人を脅迫した者には、100~200万シリア・ポンド(SYP)の罰金が科される。一見すると、オンライン・ハラスメントや晒し行為(Doxxing)、ネットいじめ対策のようにも見えるが、悪人たちは過去にも同様の規制を武器に、若い女性たちを標的にして投獄させてきた。

最も危険なのは、この法律が「憲法に対する罪」を犯罪化していることだ。これには、「違法な手段での憲法改正を目指す、あるいは呼びかける行動を誘発する意図で、あるいはシリア領土の一部を国家主権から除外する、あるいは憲法下における既存当局への武装反乱を誘発し、憲法に由来する機能を行使させない、あるいは国家における統治体制の転覆や変更を意図した」コンテンツの公表が含まれている。27条では、そのようなコンテンツが掲載されたウェブサイトを開設・管理したり、公表した者は、7~15年の禁固刑、1000万~1500万SYPの罰金が科されるとしている。

ほかにも、表現や言論の自由を脅かす曖昧な犯罪を列挙した条文としては、「国家の威信や国家の統一を損なう」虚偽のニュースを禁止する28条国家の財政状態を損なうウェブサイトの開設や管理、デジタルコンテンツの公表を行った者を罰する29条がある。

独裁国家にプライバシーはない

シリア政権は、国内外を問わず市民を監視していることでも悪名高い。新たなサイバー犯罪法は、民間企業を国家の監視要請の人質としている。インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)、電気通信事業者、ウェブホスティングサービスは、ユーザのデータを保存し、当局の要請に従っていつでも提出しなくてはならなくなった。

たとえば5条では、アプリケーションサービス・プロバイダは、アプリケーションを通じて交換されたオンラインコンテンツの複製と、コンテンツを投稿・共有した人物を特定するデータの保存が義務づけられている。また、ウェブサイトやアプリの所有者、管理者、メールアドレス、自宅住所、連絡先などをウェブサイトの「目立つ場所」に掲示しなくてはならない。

オンラインコンテンツやホストするデータの複製、コンテンツの投稿者と特定しうるデータを保存しなかった企業は、1~6ヶ月の禁固刑、200万~400万SYPの罰金が科される。

このような法律は、とりわけ法の支配やデュープロセスが存在しない地域では、極めて危機的な状況を生み出す。シリアの民主化を求める2011年3月の抗議デモ以来、数万人もの市民、デモ参加者、ジャーナリスト、活動家、人権擁護者が行方不明になっている。平和的に権利を行使したために拘束されたり、誘拐されたり、拷問されたり、殺されたりしているのである。

サイバー犯罪対策か、それとも人権侵害の公認ライセンスか

現在、国連ではサイバー犯罪に関する国際条約の審議が行われている。加盟国はこうした動きに警戒しなくてはならない。インターネットと情報システムの犯罪目的での悪用との闘いは、オフラインであれオンラインであれ、市民の自由な権利行使を犠牲にしてはならないのである。

Syria’s new “cybercrime” law adds salt to injury – Access Now

Author: Marwa Fatafta / Access Now (CC BY 4.0)
Publication Date: May 27, 2022
Translation: heatwave_p2p
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