以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Billionaire-proofing the internet」という記事を翻訳したものである。
Napster戦争の時代、レコード会社が子供たち、おばあちゃんたち、お年寄り、そして亡くなった人々ら19,000人以上の音楽ファンを訴えたことで、数百万のインターネットユーザを本気で怒らせた。
レコード会社の蛮行は筆舌に尽くしがたい。例えば、LANの公開共有フォルダにある音楽ファイルをインデックス化するフリー/オープンソースの検索エンジンを管理していたスワースモアの学生。レコード会社はこの学生に対して数百万、数千万ドルの訴訟を起こした(デジタル著作権侵害の法定賠償金は1ファイルあたり15万ドルにも上る)。学生が和解を懇願すると、レコード会社は、専攻を変えてコンピュータサイエンスの勉強をやめれば全財産の没収は見逃してやる、と言い放った。
本当の話だ。
さらに、10代の若者や祖父母(そして亡くなった人々)から搾取した金は、一切アーティストには渡らなかった。レコード会社は「アーティストを守るため」だと言いながら、そのすべてを懐にしまい込んだ。
誰もが一様にレコード会社に嫌悪感を抱いていたが、どう対処すべきかという点では意見が分かれた。多くの人々は著作権改革を望んだ。例えば、アーティストが直接報酬を得られるようにインターネット音楽のブランケットライセンスを作るなど、システム的なアプローチを模索した。
もう一方のグループ、つまり「個人主義者」たちは、ボイコットを提案した。メジャーレーベルの音楽を購入せず、聴くのもやめようと呼びかけた。レーベルに支払うお金はすべて、法的テロの資金として使われる。ポピュラー音楽を楽しむこと自体が問題への加担だと考えた。
私がどちらの立場をとっていたかはおわかりだろう。「財布で投票する」ことの無意味さ(財布が分厚い連中が常に勝つ仕組み)はともかく、単純にうまくいかない戦術だと思った。
ポピュラー音楽を聴くのをやめるべきだと主張する人々に、私はこう言った。「もし大衆運動のメンバーがポピュラー音楽を聴くことを禁じられるなら、その運動はポピュラーにはならない」。
「えっ、メジャーレーベルの音楽なんて聴いているの?信じらんない!」と言って踏み絵を迫ったとしても、政治的な変革は起こせない。そもそも、ポピュラー音楽の多くは正当に素晴らしく、人々の生活を豊かにしている。大衆運動は、メンバーに我慢を強いるのではなく、喜びを増やすことを目指すべきだ。メンバーへの思いやりというだけでなく、参加をできるだけ楽しいものにすることが優れた戦術だからでもある。
これはソーシャルメディアにも通じる。ソーシャルメディアの問題は、我々が愛する人々やコミュニケーションを取りたい相手が囲い込まれていることだ。彼らを囚われの身にしているのは、プラットフォームを離れる際の「スイッチングコスト」である。友人やコミュニティは、マスクやザックを嫌う以上にお互いを愛しているからこそ、悪いソーシャルメディアネットワークに留まっている。ソーシャルプラットフォームを離れれば、家族との連絡、希少疾患を共有する人々のサポートグループ、生計を立てるために依存している顧客や観客、あるいは子供のリトルリーグの試合を運営する他の親たちとのつながりが失われてしまうかもしれないのだから。
理論的には、愛する人たち全員に手を取り合って同時に移動してもらい、どこか別の場所で社会的なつながりを再構築することもできる。しかし実際には、そのような「集団行動問題」を乗り越えることはほぼ不可能に近い。プラットフォーム所有者はこれを見越している――だからこそ、彼らはメタクソ化してもユーザは逃げ出せないと踏んでいるのだ。サービスを使い続ける苦痛が、離脱の苦痛より小さい限り、企業はユーザから更なる利益を絞り出すためにユーザの生活をどんどん悪化させることができる。マスクがブロック機能を殺したのも、ザックがモデレータ全員を解雇したのも、それゆえだ。ユーザがどんなに酷い扱いを受けても留まり続けるなら、大量の人員を雇用したり高額な計算リソースを割いて、ユーザのためになるコストを負担する必要など何一つない、というわけだ。
幸いにも、この問題には解決策がある。ソーシャルメディアがフェデレートされれば、サーバを離脱しても友人とのつながりを失うことはない。これは携帯キャリアの変更に似ている。VerizonからT-Mobileに乗り換えても、電話番号は変わらないし、アドレス帳も友人関係もそのままだ。あなたが教えない限り、友人はあなたがネットワークを乗り換えたことすら気づかない。
https://pluralistic.net/2022/10/29/how-to-leave-dying-social-media-platforms/
ソーシャルメディアがこのように機能しない理由はない。FacebookやTwitterからMastodon、Blueskyなど他のサービスに写っても、残してきた人々が望む限り、彼らとの会話は続けられるはずだ。
https://www.eff.org/interoperablefacebook
これが、Mastodonが一翼を担うFediverseの仕組みである。あるMastodonサーバから別のサーバに乗り換えても、フォローしているユーザやフォロワーは全員新しいサーバに持ち越せる。つまり、サーバを運営している個人や企業、グループが腐敗しても、そのサーバを通じてつながっている愛する人々と、運営側が巻き起こす様々な問題に対処する苦痛とを天秤にかけて頭を悩ませる必要もない。
https://pluralistic.net/2022/12/23/semipermeable-membranes/#free-as-in-puppies
これをさらに強化することもできる!EUのGDPRやカリフォルニア州のCCPAなどのデータ保護法は、オンラインサービスに対し、ユーザの求めに応じてユーザのデータを引き渡す法的義務を課している。これらの法律は既に、Mastodonサーバの運営者に対して、ユーザがサーバを移行する際に必要なファイルの提供を義務付けていると解釈できるが、この点はより明確にすることができる。要求に応じてファイルを提供するのは、実に簡単な作業だ。少人数の友人のためにサーバを運営しているボランティアでも、この義務を果たすのにさして苦労はない。ユーザ1人あたり1分程度の作業で済む。
ガバナンスを通じてこれを強化する方法もある。古き良き時代のインターネットを定義した素晴らしいサービスの多くは、「優しい終身の独裁者」によって運営されていた。これはうまく機能したが、悲惨な失敗も経験した。終身の独裁者が善意を保ち続けたとしても、間違いを犯さないわけではない。独裁制の問題は悪意だけでなく、人間の弱さにもある。サービスが長期にわたって健全性を保つためには、説明責任があり、応答性の高いガバナンスが必要だ。だからこそ、最も成功した優しい終身の独裁者によるサービス(Wikipediaなど)はすべて、コミュニティ管理システムへと移行した。
https://pluralistic.net/2024/12/10/bdfl/#high-on-your-own-supply(邦訳記事)
この点でも、Mastodonは輝きを放っている。Mastodonの創設者であるオイゲン・ロチコは、「最終決定権者」としての役割を明確に放棄し、運営を非営利組織に委ねた。
私はMastodonを愛用しているし、その未来に大きな期待を寄せている。Blueskyについても同じように満足できればよかったのだが。Blueskyはフェデレーションを掲げて設立され、サーバ運営者が簡単にユーザのアイデンティティを奪えない巧妙な命名方式も採用した。しかし、技術的に優れた機能を次々と追加する一方で、長らく約束してきたフェデレーションはまだ実現していない。
https://pluralistic.net/2024/11/02/ulysses-pact/#tie-yourself-to-a-federated-mast(邦訳記事)
Blueskyは確かに魅力的だ!他のシステムから数千万のユーザを引き寄せ、みんなとても楽しそうにしている。だが問題は、フェデレーションがなく、したがって運営側の悪しき決定(おそらく企業の投資家からの圧力による)や運営の変更(おそらく現運営陣が投資家を利するがユーザには搾取的な悪しき施策を拒否した場合に、投資家によって促される)に対してすべてのユーザが脆弱なことだ。フェデレーションは、ソーシャルメディアにとってのナイトクラブの非常口である。パーティが地獄と化したとき、命を守る避難経路となる。
https://pluralistic.net/2024/12/14/fire-exits/#graceful-failure-modes(邦訳記事)
では、どうすればよいのか? Mastodon界隈では、Napster戦争を彷彿とさせる主張をよく耳にする。「Blueskyで遊んでいる連中は間違っている。フェデレーションされてないし、使えるサーバはVCに支配された営利企業のものだけじゃないか。みんなその楽しいパーティを去るべきだ。非常口がないんだから!」
これは「我々の運動に参加するには、ポピュラー音楽を聴くな」のソーシャルメディア版だ。確かに、非常口のないナイトクラブに押し込まれるべきではない。だが幸い、「楽しいパーティーから出て行け」と説教する意地悪か、数千万人の命を危険にさらし続けることを黙認する冷血漢か、という二者択一以外の道がある。
Blueskyに自分たちで非常口を設置すればいい。
昨日、「Free Our Feeds」というイニシアチブが始動した。ソーシャルメディアに「ビリオネア耐性」をもたせることを目標に掲げている。その目標の1つが、待望だったBlueskyのフェデレーションの追加だ。私はこのイニシアチブの発起人の1人として名を連ねている。Blueskyに非常口を設置することは、正しい行いであるだけでなく、戦術としても有効だからだ。
Bluesky社から独立した組織がフェデレーションサービスを実装すれば、非常口をVCの管理下から切り離すことができる。つまり、Blueslyが将来的に非常口を塞ごうとしても、それは不可能となる。これは仮定のリスクではない。業がサービスのメタクソ化を始めると、ユーザが簡単に逃げ出せないよう、あらゆる手段を講じるようになる。
だからこそAppleは、AppleとAndroidユーザ間の会話を、Appleユーザ間のチャットと同じようにプライバシーを確保できるようにしたサービス、Beeper Plusに強硬な姿勢を取った。
だからこそイーロン・マスクは定期的に発狂し、TwitterのプロフィールにMastodonのユーザIDを書き込んだユーザのアカウントを凍結した。
https://techcrunch.com/2022/12/15/elon-musk-suspends-mastodon-twitter-account-over-elonjet-tracking/
そして、だからこそMetaは、InstagramのFediverse版オルタナティブであるPixelfedへのリンクを載せた投稿を削除しているのだ。
https://www.404media.co/meta-is-blocking-links-to-decentralized-instagram-competitor-pixelfed
かつて、我々にはロックインの問題を克服する確実な方法があった。プロプライエタリなシステムをリバースエンジニアリングし、自由でオープンなオルタナティブを作るのだ。我々はUsenetの時代から、alt.*階層の作成を通じて、囲い込まれた庭に非常口を取り付けてきた。
https://www.eff.org/deeplinks/2019/11/altinteroperabilityadversarial
Unixの企業オーナーがソースコードへのアクセスとユーザによる改変について奇妙なことをいい始めた時、我々はUnixユーザを企業のOSを使う悪しき人々だとは非難しなかった。我々はUnixをリバースエンジニアリングし、囚われたユーザを解放したのだ。
https://en.wikipedia.org/wiki/GNU_Project
MicrosoftのプロプライエタリなSMBネットワークプロトコルへの対抗手段は、LANでSMBを使っている人々への非難ではなく、SMBをリバースエンジニアリングしてSAMBAを作ることだった。SAMBAは現在、家庭やオフィスのあらゆるデバイスで使用され、言論の自由という意味でも、無料という意味でも、素晴らしくフリーな状態を保っている。
その後、俗に「IP」と呼ばれる法律の茂みがサービスや製品の周辺に生い茂り、プロプライエタリなシステムから自由なシステムへの移行の苦痛に耐える以外の選択肢があることを、人々は文字通り忘れてしまった。IPは自由なインターネットを夢見る人々の想像力を鎖に繋いでしまったのだ。
楽しいパーティから立ち去るよう懇願するよりも、もっと良い方法がある。我々自身の手で非常口を設置すればいいのだ。確かに、多くのユーザがプロプライエタリなプラットフォームに留まるだろう。しかし少なくとも、状況が酷くなった時に、彼らの行き先を確保することはできる。
結局のところ、ソフトウェアの自由には何の価値もない。価値があるのは人間の自由だけだ。ソフトウェアの自由に価値があるとすれば、それは人間を自由にするときだけである。
できることなら、Blueskyで楽しんでいる人々みんなにFediverseに来てほしい。しかし私は純粋主義者ではない。プラットフォームにロックインされることなくBlueskyを使う方法があるなら、私はすぐにそのパーティに参加するだろう。そしてFediverseからBlueskyのパーティに参加する方法があるなら、私は間違いなく思う存分パーティを楽しむつもりだ。
Pluralistic: Billionaire-proofing the internet; Picks and Shovels Chapter One (Part 5) (14 Jan 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: January 14, 2025
Translation: heatwave_p2p