以下の文章は、電子フロンティア財団の「Reddit Commenter’s Fight for Anonynmity Is a Win for Free Speech and Fair Use」という記事を翻訳したものである。
Redditの匿名投稿者の情報開示をめぐる戦いで、オンライン表現とフェアユースにとって大きな勝利がもたらされた。連邦裁判所は、著作権で保護されたコンテンツを批判や論評のために共有する権利を確認し、米国のインターネットユーザによる匿名言論は憲法修正第一条で保護されないとする原告側の主張を退けた。
EFFはReddit投稿者の「Darkspilver」の代理人を務めた。エホバの証人コミュニティの終身会員であるDarkspilverは、Redditのあるディスカッショングループに、エホバの証人の組織に関する批判と懸念を投稿した。Darkspilverの投稿には、『ものみの塔』誌の裏表紙に掲載された寄付を募る広告や、エホバの証人の組織が収集・処理しているデータの種類を示すために、彼が編集・再フォーマットしたグラフが含まれていた。
今年に入り、ものみの塔は著作権訴訟の一環として、RedditにDarkspilverの情報開示を求める召喚令状を送付した。エホバの証人の教義を出版する「ものみの塔聖書冊子協会」は、Darkspilverの投稿が彼らの著作権を侵害しており、法的措置を講じるためにDarkspilverの個人情報を必要としていると主張した。EFFはこの召喚令状を無効化するよう申し立て、ものみの塔側の著作権侵害の主張は不合理的であり、Darkspilverは身元が明らかになることでコミュニティから追放されることを強く懸念していると説明した。つまり、ものみの塔の召喚令状は、確立された「ドゥー(Doe:氏名不詳の人物)」テストをクリアできていないのである。このテストでは、当事者が裁判を利用して匿名性を暴くことを許されるのは、その主張の有効性が十分に示され、開示による利得と損失とのバランスが考慮されなくてはならないとしている。このドゥーテストは、匿名で情報を共有したり、アクセスしたりするための憲法上の権利と、適法な申立てのための救済を求める権利とのバランスを取ることを目的としたものだ。
今月はじめの審理で、ものみの塔はドゥーテストの要件を満たしていると主張した上で、彼らの著作権は侵害されており、さらにDarkspilverは米国在住者ではないためドゥーテストは適用されないと主張した。5月17日金曜、サリー・キム下級判事は、ドゥーが米国にいなくても憲法修正第一条は適用されるとして後者の主張を却下した。キム判事は「この召喚令状は、米国企業(ものみの塔)に代わって米国の裁判所が発行し、別の米国企業(Reddit)に送付されたものである。さらに、憲法修正第一条は、発言者のみならず聴取者を保護するものでもある」と説明した。
裁判所はまた、Excelスプレッドシートによる著作権侵害を訴えるものみの塔の主張も却下した。さらに、広告に関してはものみの塔側の主張に有効性が認められる可能性はあるとしても、Darkspilverによる使用はフェアユースの原則に照らして適法である可能性が高いと結論づけた。裁判所はフェアユースの要素を慎重に検討し、「それぞれDarkspilver側に有利にであった」との結論を下した。
しかし、我々は裁判所の最終決定には同意できない。裁判所は、ものみの塔が著作権の主張を強化できるよう、限定的な情報開示を認めた。裁判所は、フェアユースの第4の要素として「ものみの塔は実際の、または将来の損害の可能性について実証していない」との点には同意したものの、原告側の「著作権侵害者から被った損害は、他者を同ウェブサイトから遠ざけたことだった」とする主張に必要以上の信用を与えている。「機会が与えられれば、ものみの塔はDarkspilverの投稿後に同社ウェブサイトの訪問者が減少したことを示せるかもしれない」という理屈に基づき、裁判所はものみの塔の弁護士がDarkspilverの個人情報にアクセスすることを許可した。
この裁判所のアプローチに基づけば、ドゥー・スタンダードはフェアユースを行った者への保護を弱めることになる。特定のフェアユースの要素に関する、ここで仮定されているようなこじつけな理屈でさえ、たとえ残りのフェアユース分析において明確に適法な使用であることが示されていたとしても、開示を正当化するのに十分な根拠とされかねない。ただし、情報開示には厳しい制限が課せられた。Redditは個人情報をものみの塔の裁判弁護士にのみ開示し、弁護士は新たな裁判所命令が下されない限り、クライアントを含め誰であろうとその情報を共有することが禁止された。加えて、裁判所は明確に「この命令に違反した場合には制裁が加えられることを警告」してもいる。
本訴訟は、EFFが最も重視する複数の問題が絡んでいる。知的財産権、表現の自由、プライバシーがいかに複雑に交錯し、センシティブな問題について意見を述べることを難しくしているかを示す重要な事例と言えよう。もちろん、本訴訟はこれで終わりではない。だが、つかの間でも、合衆国憲法修正第一条にとって、そしてインターネットユーザの匿名言論にとって、重要な勝利がもたらされたことを祝おうではないか。
Publication Date: May 21, 2019
Translation: heatwave_p2p
Header Image: Ben Sweet